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乙女ゲー 一章 

 ルーキン伯爵の養女になってから、面白いように物事が進む。やっぱり、ナビは必要ね。ナビの名前はナタリーさん。ハンソン兄様の異母兄弟の姉にあたる人で、ハンソン兄様の教育係でもあった才女だ。ハンソン兄様からはとても頼りになるので、しっかりと助言を聞くように、また、なんでも相談したら良い、きっと良い方向に解決してくれると言われた。


 彼女の指示通りにするとリフリード様との好感度はMAXだし、クラスメイト一人が入れ替わって一緒に鍛錬する協力者も出来た。ジョゼフ殿下とのイベントも着実にこなしている。留学中の王子と従者も発見した。


 ハンソン兄様から時折手紙も頂けるし、順調順調のはずなんだけど、いまいち、留学中の王子とその従者の好感度が上がってない感じがする。悪役令嬢がいないから、盛り上がりに欠けるのが原因かしら?


 もう一つ問題なのが課金アイテムの入手方法。スマホゲームでは課金さえすれば、簡単にゲットできた課金アイテムがどうしたら手に入るかわからない。例えば、デートの時に着ていく、『普通ワンピース』ならルーキン家から自動的に送られてくるんだけど、課金アイテムの『花柄のワンピース』になると手に入れる方法がわからないんだよね。ワンピースだから王都の店に買い物に行けば手に入るのかな?


 今、一番楽しみにしているのがクリスマスイベント!文字通りクリスマスパーティーなんだけど、城で行われるクリスマス舞踏会へ参加できるイベントなのよね。本来、城のクリスマス舞踏会は一部の超上流階級の人のみ参加が許されるものなんだけど、学園生は特別に参加できるってイベントなの!


 ここで、主人公はフリードリッヒと初めて言葉を交わすの、そのための条件がジョゼフ殿下にエスコートして貰うことなんだけど…。その為には、中庭イベントで池ポチャが必須なんだよね、マリアンヌに叱られて取り巻きとぶつかって足を滑らせるのよね。


 ジュリェッタはこれからイベントが起こる予定の中庭に来た。


 誰かにぶつかって、池に落ちなきゃいけないんだけど…。あっ、良かった、取り巻きの三人がいる。あの中の誰かにぶつからなきゃ。


「常識のない方が一緒の教室にいらっしゃると思うと気が重くなりますわね。」


「本当、平民と王族であるジョゼフ殿下が同じ教室だなんて、王族への侮辱以外何物でもありませんわ。」


 平民って、私の事よね。


「何で由緒正しい伯爵家が平民を養女に迎えられたんでしょうか?」


 はあ、チラチラこっちをみながら嫌味言ってないで、池に突き落としてよ。


「そんな、酷いです。ルーキン伯爵のことをそんな風に仰るなんて」


 ジュリェッタはルビーみたいな目に涙を溜めて、三人の方を見る。三人はまさかジュリェッタが何か言い返してくるとは思っていなかったみたいでビクッとしたが、気を取り直したようだ。


「気分が悪いわ、行きましょう。」


 三人が中庭を後にしようとしたとき、ジュリェッタに一人の肩が当たり、ジュリェッタは足を踏み外してしまい池へ落ちてしまった。


「キャー!」


「何をしている!」


 渡り廊下を歩いていたジョゼフ殿下が慌てて走って来た。


「ジュリェッタ嬢が、足を滑らせて池へ落ちてしまわれました。私、用務員か先生を呼んで参りますわ。」


 ジュリェッタにぶつかった令嬢が、真っ青な顔でジョゼフ殿下へ報告する。


「そんなことをしている暇はない、ジュリェッタ嬢、私の手に捕まりなさい。」


 ジョゼフ殿下はジュリェッタに手を差し伸べた。ジュリェッタはジョゼフ殿下の手を取り引き上げて貰う。


 流石に初冬、水は刺すように冷たく身体が凍るような寒さだ。


 ジュリェッタはカタカタと身体を震わせる。


「さあ、ジュリェッタさん、急いで医務室へ。」


「私、医務室に先生がいらっしゃるか見てまいりますわ。」


 その中の一人が医務室へ優雅に走って行く。慌てる素振りは見せるが、歩いてるのと余り変わらぬ速度だ。


 あくまで、ジュリェッタを心配している素振りを見せる三人だが、誰ひとり羽織っているショールを貸そうとする者はいない。


「こんなに震えていては歩けないだろ。君達、彼女は私が医務室へ運ぶ。担任の先生へこのことを報告してくれるかな。」

 

 ジョゼフ殿下は濡れるのも厭わず、自分のマントでジュリェッタを包むと抱き上げ医務室へ向かう。ジュリェッタへの気遣いは見せるものの、ゲームとは違い彼女達への非難の言葉は全くない、それどころかジュリェッタを気遣う優しいクラスメイトと言う印象を持っている節がある。


 最近気が付いたことだが、ジョゼフ殿下は全ての女性にそつなく愛想良く振る舞っている。理不尽に怒鳴ったのはマリアンヌと絡んだ城での夜会のみだ。その為、不服だが、あの三人に辛く当たられても助けてくれる素振りすらない。


 医務室へ着くと、ジョゼフ殿下は校医にジュリェッタを託すと、着替える為に医務室をあとにした。

 

「ジュリェッタさん、これに着替えなさい。しかし、この寒いのに池に落ちるなんて…。」


 ぶつぶつ文句を言う校医の先生に促され、新しい制服を受け取る。


「ありがとうございます。」


「殿下のマントはこちらで洗ってお返ししておくわね。」


 やばい、そのマントを私がお返ししなきゃ、パーティーを一緒にと誘われないの!なんのために、この寒い中、池に落ちたと思ってるの!


「そ、それは私が殿下へお返し致します。私がお借りしたものですので、ちゃんとお礼もいいたいですし。」


「そう。ではそうしなさい。」


 校医は訝しがりながらも、ジュリェッタの要望を受け入れてくれた。


 はあ、良かった。マント取り上げられる所だったよ。ナビじゃなくて、ナタリーに洗濯して貰って、お礼の刺繍したハンカチとクッキーを添えてジョゼフ殿下へお返ししなきゃね。


 ちなみに、刺繍したハンカチはもう用意してある。そんな短期間でハンカチへの刺繍とかできないので、ナタリーと一緒に前もって用意しておいた。柄はジョゼフ殿下の紋章とイニシャル。図柄を自分で描けなくてナタリーに描いて貰ったものだ。


 ハンカチのお礼として、ドレスを贈って貰ってクリスマスパーティーへ出る。ジョゼフ殿下がクリスマスパーティーに誰かを伴えと、上皇陛下からの使者に詰め寄られる前のタイミングでマントを返し、ハンカチとクッキーを渡す必要がある。それが、明日の放課後、学校の馬車乗り場の前だ。


 急いで寮へ帰ってナタリーに洗濯して貰わなきゃ。


 ジュリェッタはことの顛末をナタリーに伝える。こうして、本日何があったのかをナタリーに伝えるのがジュリェッタの日課になっていた。


「ジョゼフ殿下にマントを、それはよろしかったですね。この寒空の中池に落ちた甲斐がありました。ひ弱な令嬢なら寝込むところですが、流石ジュリェッタお嬢様、ピンピンしていらっしゃる。ですが、無理は禁物です、本日は暖かくして早目にお休み下さい。クッキーの用意とマントの洗濯はこちらでやっておきますので。」


「ありがとう、ナタリー。」


 流石、ナビ有能だわ。言わなくてもこちらがして欲しいことをちゃんと先回りしてやってくれる。


「礼には及びません、クッキーはこのナタリーが焼きますが、殿下にはちゃんとジュリェッタお嬢様が手作りなさったと言ってお渡し下さい。その方が喜ばれますので、明日の朝、念のため口頭でクッキーの作り方をレクチャー致します。」


「ナタリーには感謝してもしきれないわ。」


 ナタリーはふふふと嬉しそうに笑うと、では、私をお嬢様の元へ遣わせたハンソン様にご感謝下さいと言った。


 ナタリーはハンソン兄様のことを弟のように大切に思っているらしい。


 貴族の中で唯一私に優しく接してくれるハンソン兄様。本当感謝だよね。目の色が同じってだけでここまでしてくれるなんて、ルーキン家の養子にしてくれてナタリーを通じて何から何まで面倒を見てくれる。


 ナタリーだって、城の侍女と違い親切だ。私のことを馬鹿にしない。そんなことも知らないの?って目で見ないし、これは全てジュリェッタ様の為です。なんて言葉も使わない。多少道理から外れてても、私が有利になることなら進んでやってくれる。今だって、ジョゼフ殿下と恋仲になれるように色々手助けしてくれる。


「お嬢様、ハンソン様よりお手紙が届いております。」


 ナタリーはそう言って一通の手紙を取り出し、ジュリェッタに渡した。白地に金で唐草模様の縁取りのしてある品の良い封筒に金蝋を用いてハンソンの印で封をしてある。


 封を破り、便箋を取り出す。封筒と同じ柄の便箋に綺麗ではあるが武骨な文字が綴られていた。


「ナタリー、兄様が城のクリスマスパーティーが終わった後はそのまま、ルーキン家の別邸に泊まってルーキン領に来ないかですって!冬休みをルーキン領で我が妹として過ごして欲しいって書いてあるわ。積もる話もあるし、婚約者も紹介したいって書いてあるわ。」


 ジュリェッタのはしゃぎように、ナタリーは嬉しそうに目を細める。


「良かったですわね、お嬢様。」


「うん。でもお父さんにはなんて言おう、お父さんもきっと私の帰りを待っていると思うんだよね。」


 たった二人の家族だしね、私が帰らないときっと寂しがるよね。


「お嬢様はお優しいですね。ですが、バルク男爵は城の騎士です。年末は犯罪が増えお忙しいはずですわ、騎士様の泊まり込みも普段より多いと聞きます。バルク男爵は娘思いのお優しいお方、お嬢様がお帰りになると、勤務中、お嬢様がお一人で自宅でお過ごしになることをご心配になられるでしょう。バルク男爵にいらぬご心配をお掛けにならぬよう。ここは、素直にハンソン様のお誘いを受けられて、バルク男爵にはお手紙をお書きになられたらいかがでございましょう。バルク男爵はきっと、ルーキン領で楽しんでおいでと言って下さいますよ。」


 そっか、王都の自宅に帰ってもお父さんとは一緒に過ごせないんだ。なら、せっかくのお誘いだし、ルーキン領に行こうかな。うん、よし、お父さんに手紙を書こうっと!


「ナタリー、お父さんとハンソン兄様に手紙を書くから便箋を用意して。」


 ナタリーは、机の上の引き出しから数種類の便箋の中から一セット選び取り出した。


「お嬢様、今は初冬でございますのでこちらの便箋をご用意致しました。封筒には私が入れて蝋封致しますので、お手紙を書かれたら、そのまま机の上に置いていて下さい。」


 ナタリーが選んだ便箋は白と薄い水色のグラデーションになったもので、雪の結晶が型押ししてあるものだ。


 ナタリー、こうやって便箋選びにも季節感を出すってさりげなく教えてくれるのよね、本当、優しい。


「ありがとう、よろしくね。」


 ジュリェッタが手紙を書こうとペンを持ったとき、ナタリーはさも今思いついたかのように声をかける。


「お嬢様、バルク男爵に書かれるお手紙に、お嬢様の冬休み中の男爵のお休みをお尋ねになったらいかがですか?一番お互いが都合が良い日に会われたらよいではありませんか。」


 流石、ナタリー良い案ね。


「うん、そうする。」


 ナタリーはクスクス笑いながらジュリェッタを見る。


「お嬢様、素直で可愛らしいですわね。ですが、私相手には宜しいですけど、外でその言葉遣いはいけませんよ。」


 ジュリェッタが素直に謝ると、ナタリーはいい子ですねと笑った。

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