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フリードリッヒ ②

フリードリッヒ視点です

取るものも取り敢えず、庭園の方へ向かう。馬車の近くで何やら激しく口論をしている男女が目に留まる。女性は城の侍女のようだ。もう1人は緑の軍服、第一部隊の隊員だ。


 目立つ所で痴話喧嘩とは、面倒だ少し離れて歩くか。


「ですから、フリードリッヒ様は私のことが好きなんです。」


「どういうことだ。君は、俺と結婚する予定ではないのか!」


「ですが、頂いた手紙には返事をするものでしょう」


 口論に自分の名前が出てきて、ギョッとする。


 俺が誰を好きだって?誰かに好きな女性がいる。という話すらした記憶がないが…、それに、女性と2人で食事にすら行ってない。どうして、そうなった。別のフリードリッヒか?


「そいつは、何処のどいつだ!俺がハッキリと話を付けてやる。俺の婚約者に粉を掛けるなと言ってやる!」


「近衛兵のフリードリッヒ・モリス・フリップ様です。あちらにいらっしゃいます」


 女性の目がフリードリッヒを捉える。男性の方としっかり目が合う。


 こっちはそれどころじゃないっていうのに、何で痴話喧嘩に巻き込まれなきゃならないんだ。

 

女性の方は見た事があるような…。


 そういえば、さっきミハイルが読み上げていた宛名の美人のアナスタシア。


 確かに、アナスタシアからよく手紙が来ていた。内容は、今日こんな事で怒られたとか、街に新しく食事処ができて行ってみたいとか、城の薔薇園の花が見頃だとか、日常を取り留めもなく書いてある。決して、連れて行ってくれや、一緒に行きたいとは書いてない。毎度そのような手紙を貰っても困る。もう、手紙を遣さないでくれと返事をしていた。それでも、手紙を送って来るので無視していた。


 あの返事の内容がどうやったら、好きになるのかさっぱりわからない。


「おい、お前がフリードリッヒだな。」


 逃げられない。面倒だ。


「ああ、そうだが。何か用かい?」


「俺は第一部隊所属のセルゲイだ。単刀直入に言おう、アナスタシアは俺の婚約者だ。粉を掛けないで貰いたい。」


「失礼ながら、粉を掛けた覚えはない。彼女の方からちょくちょく手紙を貰ってね。迷惑だからもう遣さないでくれと返事をしたのだが。それでも、手紙を寄越してくる。鬱陶しいことこの上ない。婚約者なら、しっかり捕まえていてくれ。」


 迷惑だと言わんばかりに返事をする。


「どういうことだ、アナスタシア!お前の言っていることと全く違うぞ!フリードリッヒは、お前が言いよってると言ってるじゃないか!!」


 目に涙を浮かべて、アナスタシアはセルゲイを上目遣いでみる。


「違うの、違うの、フリードリッヒ様が嘘をついているのよ。貴方が怖いから…」


 遠目でも争っているのが丸分かりなのだろう、近衛兵隊長がフリップ伯爵と共に慌ててやってきた。


「一体どうしたんだ、騎士ともあろう者が城の正面で喧嘩とは!」


 怒気をはらんだ声で一喝した。


「自分は第一部隊所属セルゲイであります。この、フリードリッヒが、私の婚約者に言い寄っているので、止めるよう促しておりました」


「本当かね、フリードリッヒ」


「いいえ、彼女とは口を利いたこともありません。手紙が送られて来るので、もう送らないよう注意を促す返事を書いたのが一度だけです。どうぞ、調べて頂けましたらわかります。丁度、ここに先程届いたアナスタシア嬢からの手紙があります。まだ封を切っておりません。宜しければこれもお調べ下さい。」


 手紙の束をカバンから出し、アナスタシアからの物を近衛兵隊長へ渡す。


「いやー!」


 アナスタシアが崩れ落ちる。頭を抱えて泣き出した。そんなつもりじゃなかったの、と小さな声で繰り返している彼女を近衛兵隊長は引き摺るように連れて行く。


「セルゲイ、君も来なさい。フリードリッヒ、ここは私が収めよう。もう、行きなさい。フリップ伯爵では」


「隊長、ありがとうございます。」


「ああ、近衛兵隊長手間をかける」


 フリップ伯爵とフリードリッヒは急いで馬車に乗り込んだ。


「親父、リフリードはいったい何をやらかしたんだ?」


「ああ、何から話せばいいか、よし、順を追って話そう。」


 フリードリッヒは伯爵から事の顛末を聞くと、怒りを顕にした。


「リフリードのヤツ、マリーに酷いことを!で、どうする?」


「フリードリッヒ、お前がマリアンヌ嬢の婚約者になる。これが、今回の作戦だ。いいな。まぁ、お前が本当にマリアンヌ嬢と結婚してくれれば、政治上は私もリマンド侯爵も助かるのだが…リフリードがマリアンヌ嬢を傷つけてしまったからね。侯爵も、マリアンヌ嬢の結婚相手は本人の希望を叶えたいと仰せでね」


 伯爵は力なく笑い、首を横に振った。


「じゃあ、マリーが俺と結婚したいと思えば、そのまま結婚できるってわけか」


「ああ、そうなる。マリアンヌ嬢の心のままだからな。侯爵はよっぽどでなければ、仕事を教え、結婚を認めるだろう」


 千載一遇のチャンスだ。少しずつ外堀を埋めて行こう。時間はたっぷりある。昔みたいに、真綿で包むようにたっぷり甘やかしてあげよう。今回の俺の役は婚約者なんだ、ゆっくり口説けばいい。


 昔、俺と母はリマンド侯爵の城に住んでいた。何でだったか明確な理由は覚えていない。母が侯爵夫人の話し相手として呼ばれたのか、いや、母はマリーに治癒魔法や作法を教えてたな、だったら家庭教師だったかな。


 生まれて初めてみた赤ちゃんは、マリーだった。フワフワで小さな手、ぷっくりとした唇。小さくて守ってやらなければならない存在。夫人が、


「遊んであげてね」


 と、おっしゃって下さって。それから毎日マリーと過ごした。可愛いぼくだけのマリー。絵本を読んでやり、寂しいと言われれば一緒に眠った。春には花冠を作って、頭に乗せてやると嬉しそうに笑う。ぼくの初恋だった。舌足らずで、兄様とぼくを呼ぶ声に幸せを感じていた。


 このままずっと一緒にいたい。いつかマリーと結婚したいそう考えるのに月日は掛からなかった。そんな幸福の日々が一瞬で砕ける。マリーのリフリードとの婚約だ。その現実から逃げるように、王都の騎士学校に入った。それ以来、マリーとは会っていない。


 大きくなっただろう。偶に、彼女の侍女より近況を知らせる手紙は届くが、何年も会ってない。怖がらせないように少しずつ距離を詰めて行かなければ、急いては事を仕損じる。そうなれば、元も子もない。リフリードがくれたせっかくのチャンスだ。

フリードリッヒ、拗らせ男子になってしまいました。爽やかイケメン設定だったのに…。爽やかさ、ぶっ飛んでしまいました。  

 フリードリッヒ視点、まだお付き合い下さい。

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