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波乱の前触れ ②

 テイラー伯爵の訪問以来、なんだかスッキリしない日が続きます。


「はあ、」


「どうしました、お嬢様。本日はクリスマスの夜会のドレスを選ばれる日でしょう。もうすぐ、イザベラが参りますよ。」

  

 ユリがお茶を淹れながら、溜息を幾度となく溢すマリアンヌを元気づけようと努めて明るい声で声をかける。


 トントンとドアをノックする音がして、沢山の荷物を持った侍女とイザベラを案内して入って来た。


「イザベラ様がいらっしゃいました。あと一刻ほど致しましたら、フリードリッヒ様が帰っていらっしゃると前触れがございました、帰っていらっしゃいましたら、こちらへご案内いたしますか。」


「宜しく頼むわ。」


 はいと返事をし、荷物を置くと一礼して侍女は部屋から出て行く。


「イザベラ、よく来てくれたわね。ごめんなさいね、私が出向けばこんなに沢山の荷物を持って来て貰う必要などなかったんですけど、お父様の許可が下りなくて…。」


 イザベラは、運び入れた荷物を確認しながら、中身を出して用意してあったポールにかけていく。この全ての荷物はマリアンヌが夜会で着る沢山のドレスで、この中から一つを選びマリアンヌの意見を聞きながら、修正することになっていた。


「お気になさらないで下さい。もし、お嬢様に何かあった方が大変です。ただ、工房の皆がお嬢様に会いたがっていましたよ。沢山、サンプルを作ってみました。工房の皆の意見も取り入れてあるんですよ。さあ、どれからお召しになりますか?」


 沢山ございますわね、これ全て今から着るんですわよね…。


 チラッと横を向けばイザベラが楽しそうにドレスの準備をしている。ユリもウキウキ手伝ってますし…


 はあ、断れない雰囲気ですわね。


「では、そのシルバーのものから…。」


「はい。」


 ああ、いい笑顔…。


 何度も着せ替えられ、ああでもないこうでもないとイザベラとユリが話しながら、着せ替えられる事かれこれ30分超、何着着たのかしら?イザベラはドレスのデザイン画に何やら書き込んでいる。


「さあ、これが最後の一点でございます。これは自信作なんですよ。」


 イザベラがら取り出したドレスを見て、ユリが一瞬息を飲む。イザベラの手には、美しい、ブルーグレーのドレスがあった。イザベラのデザインにしては珍しく、フェミニンなデザインでふわりとした幾重にも重なり銀の糸で刺繍を施したシフォンのスカートに上は胸元を開けたデザイン。煌びやかな宝石は縫いとめられていないが華やかで凄く上品だ。 


「ヒロインのドレス…」


 そう、呟いたユリの声はイザベラの興奮した声にかき消され、誰の耳にも届かなかった。


 マリアンヌはイザベラに急かされ ドレスに袖を通す。


「やっぱり、思った通りですわ!よくお似合いになっていらっしゃいます!ねえ、ユリ様!」


「えっ、ええ」


 興奮してはしゃぐイザベラとは対照的に、ユリの呆然として固まっているその顔は蒼白だ。


「ユリどうしたの?」


 マリアンヌが心配そうに、固まって反応しないユリに心配そうに声をかけると、ユリはハッと我に返りいつも通りの優しい笑顔を浮かべる。


「あまりにも、お嬢様にお似合いだったので言葉を忘れてしまっておりました。クリスマスの夜会のドレスはそれで決まりですね。」


「そうでしょう!私の力作です!」


「でも、クリスマスですし、胸元が少し心許無いわ。」


 マリアンヌが胸元が開きすぎていることに不満を漏らすと、イザベラはこのドレスのデザイン画を出して、パステルでシャカシャカと加筆しだした。


「これならいかがでしょう?」


 イザベラが見せたデザイン画は先程のものに胸元と背中、腕は、刺繍の施された透けた布で覆われているものになっていた。


「まあ、素敵」


 マリアンヌの感嘆の声にイザベラが嬉しそうにドレスの生地やレースについて熱心に説明を始めたその陰で、マリアンヌに気付かれぬよう、ユリはそっと息を吐いた。


「ドレスも決まりましたことですし、お茶を淹れ直しますね。イザベラもまだ、お時間大丈夫でしょう?そろそろ、フリードリッヒ様も帰っていらっしゃる時間ですし、奥様が城からいただいていらっしゃった、お菓子がありますのでお持ち致しますね。」


 ユリはそう言うと足速に部屋から出て行った。


 ユリどうしたのかしら?具合でも悪い?


 イザベラは数点のドレスを残して片付けはじめる。


「お嬢様、こちらに置いて帰るドレスは登城の際や、夜会等でお召しになってしっかり宣伝して下さいね。あとのドレスは改良が必要ですので、また、後日お持ち致します。」


 ちょっと会わないうちに、イザベラが商魂逞しくなっていますわ。


「ねぇ、イザベラ、先程のブルーグレーのドレスの刺繍の模様なんですけど、あれはどこの国のもの?」


 美しい模様ですけれど初めてみましたわ。


「母の国のものらしいのですが…なにぶん小さな頃に母を亡くしまして…。」


「イザベラ、聞いてもいいかしら?もし、嫌だったら答えなくていいわ。イザベラはどこの国から来たの?」


「砂漠の国です。護送中奴隷商が魔物に襲われて逃げ出すことができたんです。それから、父と逃げて、アーバン辺境伯父の領地へ逃げ込んだ時に、父は亡くなってしまいました。私は、アーバン辺境伯父に助けられて、マダムに拾われそのまま…。」


 イザベラの肌の色はこの国の人達と同じだわ。砂漠の民の肌の色は褐色で、髪はくすんだ金か、黒だもの。


「イザベラのお母様は砂漠の国の民ではないわよね、多分ですけど、お父様も…。」


「はい、多分そうだと、私がどこの国の者なのかわかりません。唯一の手掛かりが、あのドレスのレースに施した刺繍のモチーフなんです。」


 イザベラは自分の国がわかったら、どうしたいのかしら?そもそも、なぜイザベラの両親は外国である砂漠の国で奴隷になったのかしら?戦争の捕虜?なら、もしかしたら、イザベラの両親の国は滅んでいる可能性もあるの?


 ノックがした。はいと入室を促すと、リンダを伴ったフリードリッヒが入って来た。リンダは、お茶とお菓子がセットされたワゴンを押している。


「兄様、お帰りなさいませ。」


「ああ、ただいま。イザベラ、暫くぶりだね。ドレスは決まったのかい?」


「はい。楽しみにしていて下さいね、フリードリッヒ様のもマリアンヌ様のデザインに合わせてご用意致しますので。」


 イザベラは楽しそうにふふふと笑った。


「ああ、宜しく頼むよ。今は忙しくて、クリスマスの夜会の衣装を作りに行く時間も無かったんだ。凄く助かるよ。デザインは全面的にイザベラに任せるよ。」


 イザベラはフリードリッヒの言葉に嬉しそうに微笑んだあと、鼻息も荒く宣言した。


「任せて下さい!楽しみにしてて下さいね、素敵なものをご用意致します!」


「マリー、ユリなんだがさっき厨房の前であったが、具合が悪そうだったので今日は休むように伝えたよ。リンダ、皆にお茶を淹れてくれるかな?」


 ああ、それでリンダなんですわね。ユリ大丈夫かしら?


「はい、かしこまりました。」


 リンダは嬉しそうに皆にお茶を入れ、お菓子をテーブルの上にセットする。


 そういえば、ユリがリンダはお茶を淹れる練習を頑張っていると言っていましたっけ…。


「リンダありがとう。申し訳ないが、リサを呼んできてくれないかな?」


 フリードリッヒの礼にリンダは嬉しそうに頬を染めると、リサを呼びに部屋を出て行った。


 なんだか、モヤモヤ致しますわ。兄様に礼を言われたリンダがあまりにも嬉しそうだからかしら?きっと、リンダはお茶の腕前を披露する機会を貰って、嬉しそうにしているだけですのに…。


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