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おばあさま

 お茶の時間におばあさまはいらっしゃいました。お母様とお父様、兄様は城へ行かれています。あっさりと城へいかれるなんてと思っていたら、お母様、明日おばあさまとオペラを観に行く約束をなさっていたんです。信じられませんわ。


「おばあさま、本日はお越し下さいましてありがとうございます。おばあさまとお茶できるの楽しみにしていたんですよ。」


 おばあさまはニコニコ、嬉しそうに笑って下さいます。本来なら、お爺様が亡くなってから再婚できる年齢だったのですが、ご実家には居場所がないらしくリマンド侯爵家に留まっていらっしゃいます。


「まあ、そう言って頂けると嬉しいわ。兄や姪からのお願いで疲れていましたから。」


 リフリード様のお母様とお爺様からの脅迫、

それはさぞお疲れでしょう。


「フリップ夫人と伯爵のお願いは何なのですか?」


 おばあさまは溜息を一つ吐くと言いづらそうに、伏目がちになられ、口元に扇を持ってこられました。


 おばあさま、決して美人というわけではないんですけど、仕草の一つ一つが色っぽいんです。こう、はんなりとした雰囲気は交戦的女性に囲まれた私には目に毒です。


「二人ともリフリードとマリーの婚約を再度取持って欲しいと言ってきましたの…。よくよく話を聞けば、リフリードが一方的にフリップ伯爵も通さず、婚約破棄を申し渡したのでしょ?それを、フリップ伯爵を通してないから無効だとか、好き勝手言って…。」


 本当に自分の親族ながら嫌になりますわと、少々お疲れ気味です。


「まあ、そのようなことで、わざわざおばあさまを呼びつけられたんですか?」


 最低ですね、おばあさまは後妻とはいえ侯爵家の人間ですのに!おばあさまが優しいからって、高圧的な態度で接されたに違いありません。段々腹が立ってきました。


「マリーや、宰相閣下、皇女様が私を宰相閣下の本当の母として大切に扱ってくれているので、兄達は勘違いをしているんでしょうね。私にそのような力はないと言っても信じてくれないんですの…。」


 おばあさまは、ほぅ、と一つ溜息を吐かれ、困ったものだわ…と仰った後、ハッキリ断ったからマリーは気にしないでね、とはんなりと微笑んだ。


 最低な人達、お父様やお母様には強く出られないからって、おばあさまに圧力をかけるなんて!絶対、おばあさまのこと自分達より下に見てますわよね。


 コンコンとノックの音がして侯爵が入って来た。


「お父様。お仕事は大丈夫ですの?」


「ああ、フリードリッヒに任せて来た、彼ならそれなりに捌いてくれるからね。この前は訊ねて来て下さったのにお時間が取れずすみませんでした、お義母様。」


 侯爵はおばあさまに謝罪し、椅子に腰を下ろした。


「そのようにお気になさらないで下さい。本来なら、ここに置いて頂くのも烏滸がましいんですから」


「いえ、お義母様には感謝しております。病床の父と婚姻して、父の看病をし看取って下さりました。本来であれは、年相応の方との婚姻もできたでしょうに。」


 おばあさまは昔を思い出し、まるで少女のようにニッコリと微笑んだ。


「ふふふ、旦那様にも大切にして頂いて、短かったとはいえ素敵な婚姻生活でしたわ。海辺の別荘で二人でゆったりとした素敵な時間を過ごすことができたのですから。」


 お爺様、その時は病を患われていて大変だったはずですのに…。どうしてこんなに素敵な方が、あのフリップ第一夫人の叔母様なんでしょ?髪と目の色以外全く似てませんわ!


「宰相閣下、孤児院に行かれたと言うことは下男下女、もしくは、私兵でも新しくお雇いになられますの?」


 えっ?お父様が孤児院へ行かれた?


 ビックリしてお父様の方を見ると、お父様も寝耳に水だったらしく驚いていらっしゃいます。


「お義母様、それは誰から聞かれた話ですか?」


 驚いた様子の侯爵に、おばあさまはキョトンした顔をしている。


「あら、皇女様が本当は宰相閣下も一緒にお茶でもと思っていましたのに、孤児院へ行く日と重なったので一人で来ましたと仰られましたので、それなら、ゆっくりと二人でお買い物とランチをして、宰相閣下がお戻りの頃城へ挨拶に伺い、その後、兄の所へ行くことに致しましたの。マリーが魔法学園に入学していなかったのなら、一緒にいらっしゃれば良かったのに。」


 孤児院へ行ったのは私ですと言おうとすると、お父様はそれを目で制されます。


 言うなと言うことですね。


「マリーは自分の工房を立ち上げましてね、その日は丁度忙しかったんですよ。実は、お義母様の所の下男下女を一人ずつ雇おうと思って孤児院へ行ったんです。あそこの者達は父の頃から仕えている者が多いのでね。」


 おばあさまには孤児院に行ったのはお父様ということになさるおつもりですわね。


「まあ、そうでしたの?ありがとうございます。確かに、歳をとった者が多いので、若い人が入れば皆の負担も少なくなりますわね。皇女様がマリーの工房は大忙しだと仰ってましたわ。注文がひと段落したら、私も頼んで良いかしら?」


「勿論ですわ、おばあさま。」

 

 おばあさまは、ふふふ、楽しみですわとご機嫌に別宅へ帰って行かれました。


「こうなると、怪しいのはリフリードの母とその父である伯爵か。まあ、良い。丁度、お前とフリードリッヒの婚約の為、フリップ伯爵を呼んだのだ。ゆっくり探りを入れるとするか…。リフリードは学園だ、あれが直接お前に何かして来るとは思わんが、なるべくフリードリッヒと行動を共にして用心するように。」


「はい、お父様。」


 フリップ第一夫人か伯爵が砂漠の国と通じている?でも、敵はアノ女と言った気が、なら、夫人?


「クロウ、伯爵がいつ王都入りしたか調べてくれ。」


 はい。と、声がした。


 お父様は伯爵が暗殺者を手引きしたと考えてらっしゃるんですわね。


「そう言えば、お父様、クシュナ夫人はどこにいらっしゃるかわかりましたの?」


「いや、それがさっぱりわからんのだ。調べてみれば、今まで住んでいた屋敷はもぬけの空で、家具の全てを売却していたし、家令達も解雇しておった。元家令だった者の話では残った者は古参のメイド一名らしい。どこかの王族の愛妾になるとかどうとかで退職金を多目に払ったようだ。」


「他国の王族の愛妾ですか…。それであれば、噂ぐらい入ってきそうですけれど…。」


 そうならクシュナ夫人にとっては美味しい話ですわね。


「ああ、派手好きな女性だ、それが本当なら自慢して回っていても不思議では無いのだがな。」


 消えたクシュナ夫人と、一人の家令。


 なんとも言えない薄気味悪さですわね。


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