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孤児院 ⑥

 夕刻、兄様が戻っていらっしゃいました。兄様とA班の皆様が駆けつけた時には、もう、敵は皆逃げてしまっていたそうです。近衛騎士は数名、軽い怪我はあるものの皆無事でした。


「敵は多分、肌の色から推測すると砂漠の国の者達だろう。最初に宰相閣下を襲った者との関係を調べている。」


 最初の竜討伐の最中、戦争を仕掛けて来た国だ。王族はアーバンを操りそれに騎乗することができるという。竜を祀る国だ。好戦的で隣国との争いが絶えないと聞く。王子は全部で六名いたが、三名は戦死し、現在、生き残っているのが最も優秀だと言われている次男、次男と同じ母親を持つ五男、そして歳の離れたまだ戦に出ていない六男だ。


「砂漠の国の方がお父様を狙っているのですか?お父様は軍人ではないのになぜですの?」


「いや、宰相を狙うとは敵ながら良く分かってる。この国の要だからね、何かあれば間違いなく国が傾く人物の一人だ。その中で一番暗殺容易な人物が宰相、君の父君だよ。王都内では聖女様の護りで攻撃魔法が使えない。宰相の剣術の腕はマリー、君もよく知ってるね。」


 内政は傾くかもしれません。しかし、それがすぐに戦争に影響する大きなものではないのでは?


「武力に直結することはない気が致しますけど?」


「そうでもないさ。それより、帰りは隊長に送って頂いたんだって?隊長は馬車に乗ったの?それとも、ご自分の馬?」


 なんだか、はぐらかされたと同時に雲行きが怪しくなって来ましたわね…。


「馬車ですわ。」


 フリードリッヒはマリアンヌが座っているソファーの横にピッタリとくっついて腰を下ろすと、左手をマリアンヌの腰に回すと、俯いているマリアンヌの顔を覗き込む。


「ふーん、二人っきりで?」


「はい。」


 美形の真顔威力が半端ないですわ、兄様。私、何か怒られるようなこと致しました?


 マリアンヌは恐る恐る、顔は俯いたままフリードリッヒの顔を目だけで伺う。


「マリー、俺、怒ってるんだけど、どうしてかわかるかな?そんな、可愛い顔しても駄目だよ?」


 ひっ、やっぱり!この話のくだりだと、絶対に…。


「兵隊長様と、二人で馬車に乗った、ことでしょうか…?」


「マリー、偉いねちゃんとわかってるじゃないか。こうしたらどう?逃げられる?」


 そう言うと、フリードリッヒはマリアンヌを抱きしめると顎に手を添えて上を向かせた。


 決して痛くはないが、びくとも動かない身体に焦りを感じる。近づいてくる兄様の顔に、鼓動がどんどん激しくなる。


 キスされる?


 え、何で?意味がわかりません?

 

 目を固く瞑り、覚悟したとき唇にふうっと息がかかったかと思うと、おでこに柔らかな感触と温もりを感じた。


 おでこ?


 拘束が解けて、ほっとして身体の力が抜け、崩れそうになった所をまたフリードリッヒに支えられた。


「大丈夫?」


「は、はい、ビックリ致しましたが。」


「馬車内で兵隊長が同じ事をしていたら、マリーはどうした?逃げられた自信はある?」


 あっ、無理ですね、逃げることなど…。


 自分の迂闊さに冷や汗が出ました。外に他の騎士様はいらっしゃいましたが…。チラッと兄様の顔色を窺うとニッコリと微笑んで下さいますけど、目が笑って無い。知ってますこの顔、本気で怒った時の顔ですわよね…。昔、1時間位泣いて謝った記憶があります。いつも、何をしても許して下さる兄様が一切口をきいてくれなくなったことを思い出しました。これは、早いこと謝ったほうが得策ですわね。


「ゴメンナサイ。」


「何が悪かったかわかってる?」


 ここは素直に従った方が良いですわね。前回、怒らせてしまったときは兄様、騎士学校に入学されてしまいましたもの、また、出て行かれるのはいやですわ。もう、二度と戻って来てくださらない気が致します。


「はい、護衛とはいえ殿方と二人きりになったことですわ。私が迂闊でした、もう二度とないように気を付けますわ、ですから…。」


 フリードリッヒは盛大な溜息を吐き、両手を上に挙げると、いつもの優しい笑顔に戻る。


「はあ、降参だよ。マリーはずるいね、俺がマリーに素直に謝られると許してしまうと知ってるでしょ?もう、怒ってないよ、命令とはいえマリーの側を離れた俺にも責任はあるからね、隊長が有事に何かするとは思えないが…、何か言われた?」


 勿論知ってますわ、兄様の髪が欲しいって駄々捏ねて散々困らせて素直に謝ったら、ご自分の髪を切って細い束で三つ編みにして私の腕に結んで下さいましたものね。


 しかし、鋭いですわね、兄様。隠し事をしてバレるより、今、素直に申し上げた方が傷は浅いはず!頑張るのよマリー!


「実は、兵隊長様に求婚されました。勿論…。」


 あっ、断ってない!!


 断ろうとしたら、ハンソン様がいらっしゃってタイミングを逃したのよ!どうしょう!


「勿論、何?」


「な、なんでもございませんわ、お返事をしようと、お、思っておりました、ら、ハ、ハンソン様が前から来られたので…。」


 あっ、最悪ですわ。お断りの返事するの忘れてました。思いっきり不審な喋り方ですわよ、マリー。


 兄様の反応が怖くて恐る恐る顔色を伺うと、目がバッチリ合ってしまい、視線を外すことがかないません。蛇に睨まれたカエルの気分ですわ。


「そっか、隊長がマリーに求婚ね。なら、俺と同じだ。で、マリーはどちらを選ぶの?それとも、他に結婚したい相手でもいるの?」


 今日の兄様、意地悪です。返事を先延ばししているのは私ですが、でも、待って下さると言われましたし…。兄様のことは大好きですわよ。ただ、異性としてなのか…。


「た、隊長様には、お、お断りをしようと思っておりますわ。魅力的な条件でしたけど…。他に結婚をしたい相手はいません。兄様は…すみません、よくわからないんです。兄様のことは大好きです。居なくなるととても寂しく思います。嫌われると生きていけません。ユリに対する気持ちとどう違うのか、兄様を思う私の気持ちにもう少しだけ真剣に向き合いたいのです。」


 家族愛でした、では、失礼ですもの。


「ふーん、俺のことは、大好きなんだ、嫌われたら生きていけないくらい。で、他に結婚したい相手はいないと…。」


 なんだか、兄様の機嫌が戻ったようです。良かったですわ、これが原因で辺境とか外国とか行かれたら嫌ですもの!


「はい。」


「はぁ、まさか好敵手がユリかよ。で、隊長の魅力的な条件って?」


 私は兄様に隊長様からの条件をお話しすると、隣の私を抱き上げ足の間に座らせると、私の頭の上に顎を置きぐたぐた言われています。私お人形ではございませんわよ?


「本当に?そんな条件、やられたわ。俺には絶対無理だね、マリーが他の人を愛するなんて許せない、側に男を侍らせるなんてもってのほかだ。できれば、他の男の目に触れないように邸に軟禁しておきたいくらいなのに…。実は、侯爵家にはあまり興味がないんだ、マリーとの婚姻の条件が侯爵家を継ぐことだから頑張るけど、お義母様の消費を賄うとなると大変だし、その上、宰相のあの仕事が丸々降り掛かるんだよ…。もし、結婚できてもマリーの側にあまりいられないよね。マリーさえ貰えれば共に平民に下ったっていいよ。もし、隊長と結婚することになったら、俺、マリーの愛人にでもしてもらって、ずっとイチャイチャしてようかな…。」


 兄様、最後の方は仰ってることが意味不明です。きっと、ご自分の仕事とお父様のお仕事のお手伝いで疲れてらっしゃるんですわね。兄様が本格的に手伝われるようになって、お父様もお時間があるらしく、よくお母様と庭でイチャイチャしてらっしゃいますし…。この前も、娘放ったらかしでお二人で芝居を観に行かれたみたいですし。お母様の機嫌がすっごくいいんでよくわかります、しっかりかまって貰ってるんですわね。


 はあ、両親に対してイライラしてきました。私が兄様と結婚したら、きっとこれ幸いと全ての仕事を兄様に丸投げして、お二人でイチャイチャなさるんですわ!そしたら、私が兄様と過ごす時間がなくなるじゃない!ここはしっかりと今のうちにお父様に釘を刺すべきですわね。


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