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乙女ゲー 序章 ③

 翌朝、学校に行くとホームルームが終わったあと、担任から声をかけられる。


「ジュリェッタさん、貴女まだ、従者の登録がされていませんよ。本日中に登録して下さい。」


 本日中って、従者がいないのにどうしろと?


「あの、従者がいないん…。」


 教師は呆れたようにジュリェッタをみる。


「家令やメイドは貴女の家にはいないのかしら?確か、陛下から下賜されたと伺いましたが?それとも、その者達を首になさったのかしら?」


 あっ、王都の家にメイドと家令がいた、彼らの中の誰かを従者として連れて来れば良かったんだ。


「いえ、首になどしていません。でも、誰も従者のことを教えてくれなかったから…。」


 教師は侮蔑の目でジュリェッタをみる。


「教えくれなかったって、入学にあたってという手紙が入学許可書と共に手元に届いていませんでしたか?それに書いてあります。授業で必要な物品のリストと一緒に。ジュリェッタさん、貴女、文字は読めるんですよね?」


 確か、書いてあったような、でも城の侍女さんなにも言ってくれなかったし…。


「はい、文字は読めます。でも、侍女さんは…。」


 教師は冷え冷えとする声でジュリェッタの言葉を遮る。


「皆、自分で従者を選んでいますよ。2年間、自分の身の回りを全て託すのです、最も信頼できる者をパートナーに選ぶのが普通です。それを、他人に決められるわけにはいきませんでしょ?それに、城の侍女達にここの出身者はおりません。彼女達に自分が通ったことのない所のアドバイスをするような驕った者はいません。」


 何よ、そんなの知らないんだから仕方ないでしょ?


 何も言えず下を向いて唇を噛みしめているジュリェッタに教師が、ひとつ深いため息をついた。


「まあ、冒険者として流浪の生活をしてらっしゃったのであれば、本来つく常識もつかないかもしれないですね。読み書き計算ができても、これ程、常識がないとは…。侍女達の苦労が手に取るようにわかります。貴女の亡き母君も、読み書き計算よりも常識を教えて差し上げれば良かったものを…。貴女があまりにも非常識ですので、陛下がご心配されて後見人をご用意下さいました。このあとすぐに、学園長室へ行きなさい。」


「はい、あの、授業は…。」


 これから、授業があるのに…、すぐに行ったら授業受けられないじゃん!それに、お母さんのことそんな風に言うなんて…。


「街で見せびらかすように治癒魔法を使う人が、授業など受けなくても大丈夫でしょ?」


 酷い、そんな言い方しなくても良いじゃない!私はあの子を助けたかっただけなのに!


 皆、クスクスと下を向いて笑っている。


 バカにされているのが、よくわかる。悔しい!


「さ、早く行きなさい。後見人になって下さる貴重な方をお待たせしてはいけませんよ。」


「はい」


 ジュリェッタは俯いたまま教室を出て、学園長室へと向かった。


 そりゃぁ、非常識なのは認めるわよ。でも、みんなの前であんな風に言わなくても…。私が考えなしだったせいでお母さんまで悪くいわれちゃった。


 ジュリェッタは溢れそうになる涙を必死に堪えた。


 学園長室の前に着くと、溢れる涙を拭いて気合いを入れ直し、ドアをノックする。


「入りたまえ。」


 学園長から入室の許可がでると、ジュリェッタはドアを開け中へ入る。部屋の中には、学園長ともう1人、見たことのある男の人が立っていた。


 ハンソン・エド・ルーキン


「ジュリェッタ嬢、来てもらったのは他でもない、君の後見人についてだ。バルク名誉男爵は一代貴族で、貴族になって日も浅い。貴族の常識もご自分が覚えられるので精一杯で、君にまで手が回ってないように見受けられる。それを危惧された宰相閣下が陛下に願い出て君に後見人をご用意くださった。こちらのルーキン伯爵だ。」


 学園長はルーキン伯爵をジュリェッタに紹介した。


 あれ、ルーキン伯爵は彼のお父さんだったはず。


「あの、ルーキン伯爵はもっと年配の方だった…」


「ん?君は父と面識があるのかな?」


 ハンソンは少し驚いた顔をして、ジュリェッタを見る。


「あっ、はい。冒険者だったとき一度お会いして…。」


 馬車にも乗せて貰ったんだよね。


「そうか、これは父のたっての願いでね、実は父は任務中に怪我をおって余命いくばくもないんだ。それで私が伯爵になった。宰相閣下も君の忠告のお陰で助かったのだから、自分の分家から君の後見人をだすとおっしゃってくださったのだよ。」


 ハンソンは顔を少し曇らせて、ジュリェッタに説明する。


「そうだったんですか…」


 ルーキン伯爵、任務中に怪我を。治癒魔法も効かないような大怪我なのかな…。ゲームでは、お元気なはずなんだけど…。


「理事長、ジュリェッタ嬢とふたりで話をさせていただけないだろうか?いろいろ説明する必要があるからね。」


「そうですな。では、部屋を用意させましょう。」


 理事長は当然だというように、職員を呼んで別室へふたりを案内させた。ハンソンはジュリェッタにソファーに座るように促し、ジュリェッタが座ると自分も、ジュリェッタの前に座って口を開く。


「突然、後見人といわれてびっくりしただろう、バルク男爵のことも…。だが、決して、皆、バルク男爵を悪く言っているわけではないんだ、貴族は平民より義務や決まりが多い。それらは、小さな子供の頃から教えられているからさほど大変ではない。しかし、君も男爵もいきなり貴族となった、それは素晴らしいことだが、決まりや義務を理解するのは大変なことだ。宰相陛下はそのせいで君達親子に不利益がでるのではと危惧されている。これはわかるね。」


 ハンソンは優しく、諭すようにジュリェッタに話しかけると、ジュリェッタはしっかりと頷いた。その様子を確認したハンソンは言葉を続ける。


「それで、君を我が家に養子に迎えようということになった。君が、養子になったからと言ってバルク男爵と親子であることは変わりない。今まで通り、バルク男爵に会ってもらってかまわない。バルク男爵にもこのことを話したら、ことの他喜ばれた。君が我が家の養女となれば、君は平民でなく伯爵令嬢になるし、バルク男爵はルーキン家という後ろ盾を得る。勇者とはいえ、名誉男爵では風が吹けば飛ぶ頼りないものだ。」


 ゲームの補正が働いたのかな?


「あの、どうしてわたしを養女にしようと思われたのですか?」


「父と宰相閣下たっての望みと言わなかったかな?君の目の色がルーキン家のものと同じということと、多分、これは私の推測だが、父が君に会ったときに君を気に入ったんだろう。我が家に娘がいないのでそれも原因かも知れない。父は娘を熱望していたからね。」


 馬車の中での出来事を思い出した。


 そう言えば、ルーキン伯爵、私にいろんなことを聞いてたっけ?後、依頼書も見逃したうえに処理までして、その上、金貨まで下さった。そっか、気に入ってくれてたんだ。襲われるかも、って思った自分が恥ずかしい。


「あの」


 唾を飲み、意を決してハンソンに尋ねる。


「うん?」


 ハンソンは優しい顔のまま、ジュリェッタが話すのを待っていてくれた。


「本当にお父さんも、ルーキン伯爵の養女になることを喜んでるんですか?」

 

 お父さん本当に私が養女になるのに賛成なのかな?私はゲームの補正だから大丈夫だし、助かるけど…。それにルーキン伯爵もお父さんとは今まで通りでいいって言ってくれたし。


「ああ、そうだよ。なんなら、確認してみるかい?どうせ、陛下の捺印がいるんだ、今から城へ行こう。バルク男爵と話して決めたらいい、従者も決まってないと聞いた。養女になったなら私の従者をひとり貸そう。私がこの学園に連れて行った者だ、安心して任せられる。」


 ハンソンの従者。


 ゲームの補正だ、間違いない!これは養女になるべきなんだ。良かった、これで道が開ける。


「はい、今から一緒に城へ行きます。」


 城へ着くとすぐに陛下の所へ通された。そこには、既にお父さんもいた。


 ハンソンは口上を述べ、時間を取って貰った礼を陛下に述べ、陛下の赦しを得ると言葉を続けた。


「ジュリェッタ嬢は我がルーキン家の養女になることに前向きです。ただ、心優しいジュリェッタ嬢は父であるバルク男爵のことを気にかけています。」


 ハンソンはチラッとバルク男爵を見ると、陛下の言葉を待つ。


「バルク男爵、そちはどう考えている?」


 陛下はバルク男爵に聞いた。


「はい、ありがたい申し出だと思います。ですが、ルーキン伯爵にご面倒をお掛けするのでは…。」


 バルク男爵は些か顔色が悪い。


「面倒とは、大丈夫ですよ。多少の面倒くらいでルーキン家は揺らぎませんから。それに、この養子縁組みは病に伏せっております父のたっての願いです。是非、叶えてやって下さい。」


 そのハンソンの言葉にバルク男爵は何かを決意したように、強く拳を握り締めると声を絞り出し勢いよく頭を下げる。


「ルーキン伯爵、ジュリェッタをよろしくお願い致します。」


 ハンソンは機嫌良さげにバルク男爵へ手を差し出した。


「勿論です。バルク男爵も今まで通り、ジュリェッタ嬢と接してあげて下さい。」


 バルク男爵はハンソンのその手を取り、何度も頭を下げた。


「では、ここに養子縁組みを締結する」


 陛下はそう宣言すると、誓約書にサインをした。


 良かった、これでストーリーに戻れる。

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