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城での夜会 ⑨

 お父様、お母様、兄様と一緒に馬車で城へ向かいます。兄様の正装の制服姿は凄く新鮮です。普段は、紺、黒のズボンに白いシャツというラフなお姿が多いので特にかもしれません。ネクタイをしっかりと上まで締められて、白銀の長い髪を後ろで一纏めに縛ってらっしゃいます。普段の兄様より数段凛々しくて冷たい感じがしてなんだか緊張してしまいますわ。


「ルーキン家以外で、我が一族が軍服を着ていると違和感があるな」


 お父様が兄様を見て嬉しそうに笑ってらっしゃいますが、宰相であるお父様は騎士の制服など見慣れているのではないんでしょうか?


「そうですか?宰相」


「ああ、お前の父をはじめ皆、剣術の腕はいまいちでな。その中でも、私は酷いものだが…。フリードリッヒ、お前が軍人になると言った時は、お前の父も私も非常に驚いたものだよ。」


 リマンド侯爵の言葉に、フリードリッヒはああなる程と言った風に納得した。


「確かに、兄上の剣術の腕はいまいちですね。父上に至っては、剣を握っているのを見たことがありません。しかし、リフリードはよく剣術に励んでいると母に聞いています。もしかしたら、良き騎士になるかもしれません。」


 それは無理だよという表情をして、リマンド侯爵は首を横へ振る。


「しかし、よく近衛騎士団に入れたものだ。大したものだよ、魔法重視のメイプル騎士団と違い、近衛騎士団は魔法無しで剣術の腕だけで選出される。お前くらい魔法が使えるなら、メイプル騎士団の方が楽に入隊できただろうに。よく頑張ったな」


「ありがとうございます。では、セバスに感謝ですね、私に幼い頃から剣を教えてくれたのはセバスですから」


 兄様、嬉しそうですわね。まさかとは思っておりましたが、お父様をはじめ我が一族は本当に剣はからっきしなんですね。非常に残念です。


「ふふふ。憧れの騎士の制服ですものね」


 侯爵夫人は扇子で口元を押さえて笑った。


「それは、男なら誰しも一度は憧れるだろう?それより、さあ、城に着いた。マリー、注目されるだろうがいつも通り堂々としていなさい。決して下を向かないように、いいね。」


 好意的な視線ではないということですね、わかりました。はあ、気が重いですが、仕方ありませんわね。リフリード様と婚約破棄したわけですから噂の的ですわね。まだ、兄様との正式な婚約も済ませていないにもかかわらず、エスコートをして頂くわけですし。でも、婚約者がいない者は兄弟や、幼馴染みがエスコートするわけですから、兄様は幼馴染みですし…。


 兄様をチラッと見ると、ニッコリと微笑み返されてしまいました。


 城へ入ると、ザワザワとした話し声とチラチラとした視線を感じます。幻のとか、あの噂は嘘?とか聞こえてきますが、はあ、まったく、デビュタント以来の城の夜会だからってまるで珍獣扱いですわね。幻って、しっかり存在しておりますわ。


 会場を見渡すと、丁度バルク親子が陛下へ挨拶している所でした。


 ジュリェッタ嬢は真っ白のフリルが沢山あしらわれた可愛らしいフワフワのドレスに身を包み、髪を白いリボンでまとめていらっしゃいます。


「ジュリェッタ嬢、無事、挨拶が済まれたようだな」


 頭上からお父様のほっとしたような声がしました。


 やはり、この前の私の誕生会で見たのはジュリェッタ嬢ですわ。デビュタント前でしたので、誰かに言われて慌てて帰られたのかしら?


 今回のデビュタントはジュリェッタ嬢をはじめ7名ですか。皆、白い衣装ですから目立ちますわね。その中でも、ジュリェッタ嬢は一際目を引きますわ。


 まあ、殿下、ジュリェッタ嬢にご興味を示されたみたいですわね。他の方々が挨拶をされていますのに、視線はジュリェッタ嬢に釘付けじゃない。今まで、女性にご興味があるように見えませんでしたのに。


「さあ、我々も陛下へ挨拶に伺おう。フリードリッヒ、君も一緒に来なさい」


 ザワザワと話し声の聴こえる中、陛下への挨拶の為中央へと進み出ると、会場の視線が一気に集まるのを感じる。


「流石、皇女、いくつになられてもお美しい」


「あらでも、皇女なのに聖女様ではないんでしょ?」


「宰相閣下は頼りない。皇女を娶られたから宰相になられたんだ。彼が出来るのなら私にも宰相が務まる気がするよ」


「あれが、マリアンヌ嬢ですの、フリップ兄弟を手玉に取っているって噂ですわよ?綺麗な顔をして恐ろしい」


「フリードリッヒ、上手いことやったな。次期侯爵だろ?」


「まだ、陛下の調印前だから正式な婚約者ではないんだろ?」


「だが、この場に一緒に居るんだ。宰相閣下がお認めだ。」


 はあ、好き勝手言ってくれますわね。お父様もお母様も意に介さずって感じですわね。いつものことなんですね。


「いゃぁ、いつも通りだ。何も言われなくなったらお終いだよ。」


「ほんと、そうですわね。注目されているということは、私の美貌が衰えていないということですわね。」


「君は、初めて会った時から変わらず美しいよ。」


 お二人ともお強い。お父様は惚気てらっしゃいますし…。兄様は、我が両親に馴れられたのかサラリと流されてますわね。

 

 両陛下の前で、礼をして頭を下げる。お声がかかると、リマンド侯爵は口上と皇后陛下へ誕生日の祝いの言葉を述べた。


「良く来てくれた、宰相。姉上も我が妻の為にお越し下さりありがとうございます。マリアンヌもフリードリッヒも良く来てくれた。2人とも夜会に中々来ないので、来てくれて嬉しく思う。」


 陛下の声がかかり、侯爵達は顔をあげた。


「この国の聖女であり、そして、私の可愛い義妹の誕生日ですもの、当然ですわ。」


 お母様、義妹を強調されましたわよね。皆様に対する牽制でしょうか?


「ありがとうございます、お義姉様。マリー、そのドレス素敵ね、マダムの所で作ったにしては雰囲気が違う感じですけど…。」


 流石皇后陛下、ドレスを見ただけで、皆マダムの工房で働いていた者が作ったものなのに、マダムの工房で作られてないことがおわかりになるんですね。皆様が注目しているんですもの、絶好のPRタイムですわ!


「はい、これは私が新しく立ち上げた工房で作らせたドレスです。明日、店舗をオープン致します。」


「まあ、店舗は何処に構えたのかしら?」


 皇后陛下がご興味を示して下さったのであれば、ドレスの出来は良かったということですわね。取り敢えず、一安心ですわ。


「平民街の噴水のある広場に程近い商業地でございます。」


 両陛下は顔を見合わせてビックリされたようでした。当然、貴族街と思われていたのでしょうか?


「平民街に店を構えましたの?では、そのドレスは皆が気軽に買えるのかしら?」


「そうです。数十枚で母のドレス一枚分でしょうか?」


 皇后陛下はもっと驚かれたみたいです。そうでしょうとも、クズ石とはいえ宝石を散りばめて、マダムのお墨付きのデザイナーとお針子の渾身の力作です。お母様のドレスに遜色無い出来だと自負しておりますわ。会場も騒めいていますし、予定通りですわ。


「まあ、驚きましたわ。是非、今度、私のドレスもお願い致しますわね。」


「勿体ないお言葉です、皇后陛下。」


 皇后陛下のお墨付きも頂きましたし、兄様をチラッと見ると、小さく呟いて(頷いて?)下さいました。PRの滑り出しは上々ですわね。


「フリードリッヒ、久しぶりの夜会への出席だな。普段は警護ご苦労、今宵は楽しんで行ってくれ。あと、お前の幼馴染みであり、我が姪であるマリアンヌのエスコートを宜しく頼む」


 陛下が兄様に声をかけられました、私のことを頼まれてますね。他の人達へ、兄様が私をエスコートするのは幼馴染みだから、とやかく言うなと言うことでしょうか?


「はい、陛下。お任せ下さい」


「全く、余計なことを言いおって」


 辺りに聞こえないほど小さな声でボソッとお父様が漏らされました。陛下の兄様に対する気遣いが余計なこと?


「宰相、いかが致した」


 陛下はお父様の言葉に気付かれたのか、声をかけられる。


「何も御座いません。では、後も支えているようなので私達はこれで」


 お父様はしれっと退出の言葉を口にし、私達を促しホールへと戻った。


 最後に、皇后陛下の御兄様であるスミス侯爵夫妻が挨拶を終えられるとラッパが鳴り、陛下が皆に挨拶をする。それから、通例通り曲の演奏と共に陛下夫妻のダンスが始まった。

 

「マリー、あちらで飲み物を貰おう」


 兄様に誘われて、ドリンクを貰いに行くと、後ろから声を掛けられた。


「マリアンヌ嬢、フリードリッヒ」


 振り返ると、シードル様とスミスご令嬢がいらっしゃいました。


「兄上。スミス御令嬢、ご無沙汰しております。」


 フリードリッヒがスミスご令嬢に対して膝を折ろうとしたら、さっさとスミスご令嬢は手でそれを制する。


「それは必要ございませんわ。義理の弟になるとはいえ、夫が仕える相手になるかもしれないんですもの。ねえ、マリアンヌ様」


 彼女はスミス侯爵の三女でスタージャ嬢。私の少ない友達のひとりです。勝気で毒舌、華やかで腹黒、その性格が災いして兄であるスミス侯爵とは不仲ですが。


「スタージャ様!」


 なんてことをおっしゃるんですか!

 

「フリードリッヒ様には是非、頑張って頂きたいものですわ。我が未来の夫の為にも。勿論、私の為にも。」


「勿論、そのつもりです。期待に応えられるよう努力致します」


 何だか、兄様とスタージャ様、似たような雰囲気ですわね。


「はあ、その件で俺は彼方此方から質問責めだよ。リフリードのこともあるしな」


 シードルはげんなりとした様子だ。


「兄上、リフリードの様子は?」


「ああ、流石に大人しく、魔法学園の入学に向けて勉強しているよ。ただ、母上が、家庭教師を王都へ呼び寄せた。今、我が家の別邸に住んでいる。リフリードが強請ったみたいだ」


 シードルはフリードリッヒの質問に少し顔を歪めて、言いにくそうに答えた。


「そうか、魔術師ミハイロビッチが王都に…」


 フリードリッヒは、そう呟くと考えこんでしまった。


「マリアンヌ嬢、スミス侯爵との時間を取り持てずにいて申し訳無かった。実は、マリアンヌ嬢の耳にも入っているとは思うが聖女事件のせいでスミス侯爵は大忙しだったんだ」


 シードルは手紙の依頼を果たせなかった非礼を詫びる。


お父様もそのせいで、お帰りが遅い時期がございましたわね。ですが、随分と前に落ち着いたのでは?


「確か、バルクご令嬢が城住まいになられて…」


「ああ、バルク邸に人が押し寄せる問題はね」


 では、他に問題があったのですね。


「バルコニーへ行きましょう」


 スタージャ嬢が気を利かせて、皆をバルコニーへ誘う。バルコニーに着くとシードルが口火を切る。


「スミス侯爵の妹君で、スタージャ様の姉様であられる皇后陛下が今の聖女様だ。それを揺るがす事実はスミス家に取ってお家存続のかかった重大な事件なわけだ。それに、相手が勇者の娘だ。対応に苦慮なさっている。それ故に侯爵はその原因究明のためお忙しいんだ」


「ですが、それはジュリェッタ嬢が治癒魔法を市井で使ったのが原因では?」


 ですから、城で軟禁されたんですわよね。


「それも大事ですけど、それよりちゃんとした治癒魔法をバルクご令嬢が使えることの方が問題ですわ」


 スタージャ嬢が首を振り、しっかりとした口調で言い切った。


 治癒魔法は王族の血さえ入っていれば使えるようになるのでしょう?


「それは、どういうことですの?平民にも治癒魔法が使える者もいるのでしょう?」


 スタージャ嬢はマリアンヌをビックリした顔でみた。


「いいえ、ジュリェッタ嬢のようにしっかりと治癒魔法を使える者はいないのよ。普通は、治ったのかどうかわからない程度のものですわ。ちゃんとした治癒魔法を使えるようになるには特別な訓練が必要ですし…。ちゃんとした師も必要ですの…って。マリー、貴方、侯爵令嬢なのにそんなことも知りませんでしたの?」


 スタージャ様のおっしゃっていることが理解できませんわ。お母様から教わった話と全く違いますもの。


 治癒魔法は努力しただけでは使えるようにならない。

 

 ちゃんとした師。


 兄様のお母様。


 特別な訓練。


「スタージャ様、特別な訓練とはどのようなものですの?伺っても?」


「マリー、貴方に魔法の師はいる?」


「はい、フリードリッヒ様のお母様です」


 その言葉を聴くとスタージャ嬢はフリードリッヒを見た。フリードリッヒは頷くとシードルに目をやる。シードルは肩をすくめ、ホールへ足を向けた。


「その話が終わったら、ホールへ呼びに来てくれ。父上とリマンド侯爵夫妻に挨拶してくる。マリアンヌ嬢、スミス侯爵には一緒に挨拶に伺おう。手紙の件もあるし」




 

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