表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/114

城での夜会 ⑧

 明日は、皇后陛下の誕生日です。ドレスもイザベラやお針子の皆さんのお陰でなんとか間に合いました。ですが、兄様の正装姿は見られませんでした。残念です。あの日、正装を見せて欲しいと出迎えの時に言いましたら、なんと城から正装を丁度お持ち帰りになっていらっしゃいまして、そのまま、服をハンガーに掛けて見せて頂きました。


 あと、分家の御子息達にもご挨拶することはできませんでした。セルロスが別件で伯爵達の所を訪れた時に、さっさと契約を結んでしまい、その時にサンプルの宝石を持ち帰って来まして…。私の出る幕は全くございませんでした。本当に優秀です。兄様の勧めで、新店舗に関わる様々な契約は、セルロスに私の代理としてユリと一緒に行って貰う事になりました。私の無知がバレると、軽んじられる可能性があるからというのが兄様の意見です。その分、私は兄様と建設中の新店舗の視察とその周りの店の市場調査のため、ちょくちょく平民街へ行ったり、商会へ行き店舗に置くソファーや、鏡、陳列棚を選ぶことができましたし、良しとしましょう。


 本日はセルロス、ユリ、女将さん、そしてその娘のアンリ、イザベラとお針子の皆さん。兄様を除いたメンバーに出来立てほやほやの店舗へ集まって頂きました。


「お嬢様、皆様ご説明致します。これから城に納めていく地代の金額ですが、ここは平民街とはいえ一等地、又、2店舗分で御座いますので、月に金貨1枚でございます。」


 セルロスの説明に皆が、流石一等地と言っていますが、私には残念ながらその金銭感覚がよくわかりません。貴族の娘が物の金額を尋ねるのははしたないとされていますので…。やはり、兄様の言われた通りセルロスにお金のことを任せて正解ですわね。私がお金の事を仕切っていたらと思うと、背中に冷たいものを感じましたわ。


「始めに、ドレスのみの販売を行います。販売方法はイザベラさんがお考えになったセミオーダーの形をとりたいと考えています。店員は、店長とアンリさんまずはこの2名でのスタートです。」


 女将さんがセルロスの説明に不満を漏らす。


「ドレスのみの販売?ここは平民街だよ、そんなんで儲かるのかい?それに、私やアンリだけでお貴族様相手にドレスの販売?」


 セルロスは自信満々に言葉を続けた。


「貴族街で売っている、夜会用の最低ランクのドレスが金貨1枚だとお考えください。これが国の基準です。ですので、ここで売る最低ランクのドレスも金貨1枚。但し、ここは平民街です。靴、ジュエリー等夜会に出席できる全てのセットをご用意して金貨2枚。ただ、貴族街の最低ランクのドレスの数倍のクオリティで販売する。しかし、大抵の方はもう少しランクの高いものを購入して下さるはずです。それに今は夜会シーズンです。お嬢様のドレス姿を見た方は必ず、ご興味を示されるかと…。平民の服を50枚以上売った利益がドレス一枚の利益に近いかと。ですので、利益率の高いドレスの販売から始めます。」


 なるほど、この店のスタートは、私の明日の夜会での宣伝広告活動に掛かっているのですね。頑張らなくてはなりませんね。


 ユリがイザベラと顔を見合わせ、口を開いた。


「店長、アンリさん、お二人のマナーは貴族相手にも十分通用するレベルです。どうぞ、自信を持って下さい。ですので、まずはお二人で、とセルロスと話しました。それより、急務なのはお針子の増員です。流石に3人では折角注文に来て下さっても仕事を受注できません。新たに10名雇おうと思っておりますがいかがでしょう。」


 確かに、生産が間に合わないのは大変ですわね。信用問題です。貴族の娘にとって、ドレスは騎士の剣や槍と同じ武器ですから。


「当てはありますの?」


 イザベラは頷く。


「はい、4名はございます。彼女達は昔、マダムの所で働いていた私の先輩方です。腕も確かですので即戦力になると思います。ですが…、皆、子供を抱えた未亡人の為、あの腕を持っていても中々安定した職を得ることが難しく…。個人で針仕事を受けて食い繫いでいるのです。」


 マダムの所の元お針子、なら腕は申し分無いわね。後は、子供達の預け先ね。


「ねえ、イザベラさん、その子供達は小さいの?」


 ユリはイザベラへ尋ねる。


「イザベラで結構です、お嬢様。確か、一番小さい子で、3歳、大きい子は7歳です。」


「3歳でしたら、確かに1人で家に残して働きにでることは不可能ですね。7歳でしたら、こちらで見習いとして雇えば宜しいかと、また、7歳になるまで、侯爵家で家令の子供達と一緒に昼間は預かるのはいかがでしょう?」

 

 ユリ良い考えですわ。小さい頃から教育すれば侯爵家に代々仕えてくれている者たちの様に、読み書き、計算ができるようになるはずですわ。きっと、良き従業員となるでしょう。楽しみですわ。


「そう致しましょう。イザベラ、その者達に明日にでもココへ来てもらって、明後日のオープンから働ける者は働いて貰って。」


 マリアンヌの言葉に、セルロスの眉間に一気にシワが寄った。


「お言葉ですが、お嬢様。一時凌ぎであれば可能でございますが、長く続けるのは、些か無理が御座います。」


「あら、どうしてかしら?」


 名案だと思うのですが…。


「この店はお嬢様の店ではございますが、この店の従業員は侯爵家の使用人ではございません。分けて考えられるべきかと存じます。でなければ、他の事業に携わっている者達へ示しがつきません。」


 なる程…。セルロスの言う通りだわ、良い考えだと思った事が恥ずかしいですわ。悔しいですが、兄様の言う通り契約時に私が行かなくて良かったわ。これでは契約相手に侮られて、相手の都合の良いように商談が進んでしまいますわ。


「わかりました。では、他の預け先が確保できるまで我が家で面倒をみるのはどう?事業が軌道に乗りましたら、早急にその問題に取り掛かりますわ。」


 セルロスは満足気に頷くと、笑顔を浮かべた。


「それが宜しいかと。しかし、なるべく早く託児先を探されるべきでしょう。」


「わかったわ、明日の夜会が終わったら考えるわね。そうね、後は…イザベラ、面接をして雇う者を決めて頂戴。ユリ、その者達の身辺調査をして頂戴。問題が無ければ雇い入れることにいたしましょう。確認の為、私が契約書を交わすときに一度皆様に会いましょう。」


 ユリもイザベラも頷いてくれた。セルロスをチラッとみると、それで大丈夫ですと言うように目配せをしてくれたので間違えていないはずですわね。


「では、お嬢様は明日がございますので屋敷にお戻りになって下さい。ユリ、お願いします。さあ、皆さんは明後日の開店準備に向けてラストスパートです。作業に取り掛かって下さい。」


 セルロスの号令で皆、自分の作業に取り掛かった。


 良かったですわ、間に合いそうで。一時はどうなることかと思いましたが…。きっと、セルロスと兄様の采配が良かったからですわね。はあ、私、オーナーですのに余り役に立っていませんわね…、多分、私ひとりで指揮を取っていたら大惨事になったことでしょう、自信が無くなりましたわ。


 店長が仮契約をした翌日、兄様と一緒に隣の布屋の女将さんに挨拶をして、兄様の言われた通りに、在庫を全て買い取り、国へ先払い済みの家賃の1ヶ月分を渡し、一緒に商業地利用機関へ行き書類の代筆をして解約を済ませてすぐに息子さんの所へ行く馬車を用意した。布屋の女将さんは息子さんの所へその日の内に旅だって行きました。布屋の女将さんには凄く感謝されました。


「書類の代筆、在庫の買い取り、馬車の手配の上に帰ってくるはずのない家賃の返金。何から何までお世話になって、ありがとうございました。お嬢様にはいくら感謝してもたりません。」


 と、泣きながらお礼を言って下さいました。兄様はこのままなら、身辺整理に一月は掛かってただろうからね。と、仰ってました。1ヶ月って、今日ではありませんか…。


 女将さんの乗った馬車が見えなくなるや否や、我が家の使用人があっと言う間に布屋から布を全て持ち出し、解体屋が来て一瞬で解体して隣と一続きの更地になると、あれよあれよと言う間に大工の皆さん、石屋の皆さんが来て新店舗建設が始まり、あの時は本当にビックリ致しましたわ。いったい、いつの間にあれだけの人を手配なさったのでしょう?行った時には、女将さんの店は跡形もありませんでしたし…。


 でも、兄様曰くかなり急ピッチで建設を行わないと本日には間に合わなかったそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ