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城での夜会 ④

 通された部屋へマダムがやって来た。


「リーズナブルに購入できるドレスのご相談でしたわね。」


「はい、こんなことマダムにご相談すべきではないのですが、他に思い当たる方がいなくて…。」


 本来、路線は違うとはいえ商売敵からの相談ですわよね、それなのにお時間を割いていただいて…。


 マダムは明るい声でおほほほと機嫌よく、笑いながら言葉を紡ぐ。


「あら、お気になさらないで下さいませ、侯爵家に恩を売る機会を与えて下さって、私は嬉しい限りですのよ。宰相閣下に貸しを作れる機会などそうございませんわ。それに、お嬢様のご期待に添えそうなデザイナーもおりますし、その者を差し上げますわ」


「どういうことでしょう?デザイナーを頂けるとは?」


「そのままの意味です。ここにいるイザベラは実は奴隷出身です。本来そのようなことがあってはならないのですが、売れっ子のデザイナーになれば、出生を調べる者も出ましょう。そうなれば、偏屈な貴族により彼女が責めを負うことになりますし、彼女のデザインしたドレスを着たやんごとなき方がそれを理由にピンチに陥る可能性も御座います。ですので、この店でデザイナーとして働くことは不可能なのです。ですが、お嬢様が思い描いていらっしゃる店であれば不都合は少ないかと…。まず、デザイナーの名前を出さずとも済むでしょうし、店長が他の者であればイザベラは店に出ずとも済みます」


 確かに、マダムの言う通りです。この店はオーダーメイドのドレスを扱うので、デザイナーが直接客の要望を聞き、デザイン画を描き、それを元にデザインを決めドレスを作製するスタイルですから、因縁を付けかねられませんわね、貴族の社会なんて足の引っ張り合いですから。そのことで、没落や死刑なんてざらにある世の中です。懸念のあることはしないに限ります。


「イザベラはそれで良いのかしら?」


「はい、私はデザイン出来ず、ずっとお針子として生きていくのだと思って諦めておりました。チャンスを与えて下さるのであれば、精一杯務めさせていただく所存で御座います」


 固唾を飲んで、マダムとイザベラがマリアンヌの顔を見詰める。


「マダムの推薦だもの、腕は確かよね?いいわ。宜しく頼みますわね、イザベラ」


 イザベラは涙を流し、崩れ落ちるように喜んだ。マダムはそんなイザベラを抱きしめて一緒に嬉し涙を浮かべている。


「ありがとうございます、マリアンヌお嬢様。このイザベラ、命に代えてもお嬢様の為に働くつもりです」


「私からもお礼を言わせて下さい。お嬢様、ありがとうございます。イザベラの腕はこの工房では一番です、私が保証致します。しかし、産まれのせいでお客様を付けることが叶いませんでした。それで、イザベラが不憫で不憫で…」


 奴隷制度を廃止しないと、イザベラのような人を生むことになるんですわね…。その為には奴隷制度についても学習しなければ…。そもそも、罪人や敵国の捕虜以外でどのような人が奴隷となるのでしょう?学習することだらけですわね。


「マダム、お礼をいうのは私です。こんな素敵なデザイナーを紹介して頂いて!イザベラ、では、早速我が家に来て貰えないかしら?方向性が決まるまで我が家で住み込みで働いて欲しいのだけど…。イザベラにお願いする最初の仕事は、私のドレス作りなの」


 余程驚いたのか、イザベラは涙を引っ込めて目を丸くした。


「初仕事がお嬢様のドレスで御座いますか?」


「そう、今度の皇后陛下の誕生日を祝う夜会に着て行くドレスをお願いしたいの。」


 イザベラはもっと驚いた顔をしたかと思うと、先程とは打って変わって真っ青になりカタカタと震えだした。


「お嬢様、いけません、私がデザインしたドレスを着て皇后陛下の誕生日の夜会に行かれるなんて!マダムのお話を聞いてらっしゃらなかったのですか?」


「大丈夫よ、イザベラの名前は出さないわ」


「ですが…。」


「では、先にイザベラがデザイナーを勤める店を用意して、夜会の後にオープンしたらどうだろう。店長が居れば、イザベラの名前を伏せることは可能なはずだ。」


 先程まで、真剣に話を聞いていたフリードリッヒが提案した。


「確かに、それなら可能ですわね。イザベラの存在感が消えるような店長が必要ですわ。」


 フリードリッヒの提案にマダムも乗り気のようだ。


「実はひとり心当たりがあるんだが、中々、キャラクターの濃い商魂の洋服店の店主。マリーは会った事があるよ」


 あっ。


「この前連れて行って頂いた、市井の洋服店の女将さん。」


 確かに、彼女でしたら、イザベラの存在感など全く無にしてくれそうです。あれ以来、ユリが仲良くなったみたいで、よく家のメイドや侍女達と店に行ってるみたいです。そう言えば、これはどこで仕入れたなんて話、一切聞いたことがありませんわね。


「そう。女将さんなら、大抵の客はあしらえるはずだ。それに多分この計画に喜んで賛同してくれると思うよ。取り敢えず、彼女の店にイザベラが作った服を置いてもらう所から始めても良いし、もう一店舗構えても良い。しかし、まずは女将さんに引き受けて貰ってからだな」


「そうですわね、ドレスを売る店舗と人材の確保が急務ですわね、お針子もそれなりに必要ですわ。後、会計を担当する者、マリアンヌお嬢様のご計画では、布と糸はご領地でご用意されるとのこと、それ以外の革や、ドレスに縫い付ける宝石やビーズの仕入れ先のあては御座いますか?」


 女将さんが引き受けてくれたら、まず店主の問題は片づくわね。しかし、問題が山積みね。


 ガーネット、革はルーキン伯爵領から仕入れが可能だわ。後は、フォンテッド男爵の所からオパールとビーズ。テイラー伯爵領地からサファイヤとルビーが採れますわよね。テイラー伯爵領のサファイヤとルビーのクズ石が活用出来てないとお父様が仰っていたので、全て引き受けることは可能かしら?クズ石なら上手く活用すれば安く仕上げることも可能だわ。


「ええ、宝石や革は領地であてがあります。領主達と相談してみます。会計も大丈夫でしょう。ですが、お針子のあてはございません。」


 マダムはほっとしたように息を長く吐くと、マリアンヌの方を向き直り真剣な表情をした。


「では、お針子もこちらで3名お譲り致します。ですが、彼女達の待遇はここ以上であることが条件です。後、彼女達はここに住み込みで働いています、住む場所もご用意下さい」


「そんなことなら、お安い御用ですわ。まずは、我が家に過ごしていただく部屋と作業部屋を用意いたします。そして、店舗が用意できましたら、横に工房を準備してその上に住む場所を用意する予定ですわ」


 よかった、お針子の問題が一番だったのよね。これからの課題がわかりましたわ。


「それを聞いて安心しました。では、いつからそちらへイザベラ他、お針子3名を向かわせたらよいかしら?」


 空いている使用人の部屋はいくつもあるし、作業部屋になりそうな部屋もあるわ。今日帰ってから、メイド達に掃除をお願いして、商会へ出向いて、ドレスや服作りに必要な道具を購入して…。あっ、道具の購入はイザベラを連れて行った方が良いわね。それに、お針子の皆様にもご自分で道具を選んで頂いた方がいいわね。でしたら、早い方がいいわ。


「そちらが宜しければ、明日にでも迎えの馬車を寄越しますが、夜会まであまり日にちもございませんし。」


「わかりました、皆に聞いて本日中にはマリアンヌお嬢様にお伝え致します。」


 そうよね、マダムの一存でという訳にはいきませんわよね。


「わかりました、宜しくお願いします。では私はこれで、本日はお時間を頂きありがとうございました。」

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