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城での夜会 ②

 今回のドレスどう致しましょう。前回はマダムに頼み最高級の絹を使い贅を尽くした作りにしましたが…。その甲斐あって、マダムの処から絹の受注を受けることができたのは喜ばしい限りです。


 しかし、領地の絹の安価な方をアピールするにはマダムの所に頼むのは分不相応ですわね…。


 でも、他に知り合いの店はございませんし…。できれば、貴族だけでなく庶民の方々にもお求め頂きたいですし、貴族もお金のある家だけではありませんので、沢山の方が気軽に買えるお店…。それでいて、高級感を損なわないデザイン。


 それでも、ドレスといったらマダムですわよね。他に伝手はございませんし一度相談してみましょう。


「ユリ、マダムに相談があるので連絡をとって頂戴。ドレスの注文では無いので、ほんの少しのお時間で大丈夫だと伝えてもらえるかしら?出来れば、早めが助かるとも」


「わかりました、お嬢様。では、お急ぎのようなので、私が早速マダムの店に行ってまいります。少し、お時間を頂くと思いますので私の不在の間、リサが控えておりますのでご安心下さい」


「わかったわ、お願いね。」



 ユリは、はいとにこやかに返事をして、部屋から出て行った。


 どこで作るかは、マダムに相談してからですわね。後は、色でしょうか?これは、兄様と揃える必要がありますわ。兄様に要確認ですわね。私のドレスと兄様のタイの色を揃えるのも素敵ですわね。


 妄想を巡らせていると、ドアをノックする音がして、リサが入って来た。


「失礼致します、お嬢様、凄く楽しそうですね。何をお考えですか?」


「お城での夜会に着て行くドレスを考えていたの。せっかくだから、領地で織った絹でドレスを誂えようと思って。」


 リサは目を輝かせて、両手を組んで興奮気味に捲し立てる。


「素敵です!あの絹ですよね?お嬢様の誕生会にお召しになった!」


「違うの、そちらの絹では無く、安価な方の絹で作ろうと思って」


 リサは訳が分からないと眉尻を下げて、首を振る。


「どうして、質の悪い方の絹でドレスを作られるんですか?お嬢様は侯爵令嬢なのですよ、金銭的にもなんら問題ありませんよね?それなら、最も質の良い生地で作られたらよいではありませんか?」


「そうね、侯爵令嬢という立場だけなら最高級の生地で誂えたドレスが相応しいわ。でも、それを身に纏うことができる人物は限られていると思うの。値段も其れ相応にしますしね。しかし、安価な生地であれば、沢山の方に着ていただけると思いますの。それこそ、貴族だけでは無く庶民の皆様にも!市場は、高価な生地の何十倍とありますわ。ですから、高価な生地と差別化を図って世の中に広めたいと考えていますのよ。その為には広告が必要ですわ、今回の夜会は上位貴族は勿論、下位の貴族まで幅広い方々が参加されます。良いお披露目の機会になると思ってますの。」


 リサは感心したように何度も頷いたあと、恥いるように下を向いてぼそぼそと話し始めた。


「申し訳ございません。そんなことをお考えだったんですね。私はお嬢様の美しさと、侯爵家の威光をどう世に知らしめるかということしか頭にありませんでした。」


「私の美しさはさて置き、侯爵家の威光は安価な絹でも表現できると思うわ。その為にはどれだけ良いデザイナーを探すかということにかかっているのだけど…。後、ユリやリサの腕にね!」


「お嬢様…。精一杯頑張ります、任せて下さい!」


 リサは信頼されているのが余程誇らしいのか、ガッツポーズをして胸を張った。


「それに、この生地が世の中に広まればリサやユリをはじめ、私の大切な人達にも着てもらえるでしょ?」


「それは、どういう事ですか?ユリさんは貴族なのでともかく、私はドレスを着る機会なんてありませんよ?」


 丸い目をもっと丸くして、不思議そうに首を傾げるリサはとても可愛らしいです。私もこんな穏やかな雰囲気なら良かったんですけどね。私が同じセリフを言うとただの傲慢な女にしか映りませんわよね。


「ゆくゆくは、この生地で少し上等なワンピースを作って市井の店で売りたいと思ってますの。そうすれば、生地の選別基準を厳しくしても、それから溢れた物も活用できますから買い取れますし、全てを買い取れれば領民達の暮らしも豊かになりますわ。それに、沢山の人が従事すればその分生産性も上がりますから、安価な生地もランク分けして下位の物は安値で下ろすことができるようになると思いますの」


「ワンピースでしたら、私も着ることができます!そうなったら、どんなに嬉しいか!きゃーっ、今からすっごく楽しみです。お嬢様、凄いですね。ドレス一つで領民の生活まで考えていらっしゃるなんて。」


 クルクル表情のかわるリサが羨ましく感じる。


 私ももう少し、好きな人の前だけでもリサみたいに可愛げがあったら良かったのに…。ただ、感情を表に出すなと教わってきた私には無理ですわよね。


「それに気付かせて下さったのは兄様ですの」


「フリードリッヒ様ですか?」


「この前、マダムの店にお伺いしたでしょ?その時に兄様が領地の絹でマダムに頼まれてましたの。それと、市井のお店で庶民の御洋服を買って下さって…。それで思いついたのですわ、ですから、兄様の二番煎じですの。私独自の考えではございませんわ。」


 私の前を進み、いつも導いてくれる兄様に追いつける気が致しませんわ…。


「それでも、そのことに気が付かれたお嬢様は素晴らしいです。このことを旦那様はご存知ですか?後、フリードリッヒ様も?」


「まだよ、この計画を1番初めに話したのはリサなの」


「わー!嬉しいです。では、早速旦那様にお時間を取って頂かなくては!後、フリードリッヒ様にも!私、旦那様にお時間を貰ってまいりますね。後、フリードリッヒ様のご予定も聞いてきます」


 リサは機嫌良く部屋を飛び出して行った。


 リサが言った通り、侯爵家の名を穢すわけにはいかないから、アクセサリーは兄様に頂いたものを使いましょう。あれなら、どんな色のドレスにもあうはずですわ。アクセサリーが薔薇のモチーフだから、ドレスはシンプルなものか、薔薇にする必要があるわね。


 などと、考えているとリサが戻って来て、お父様が執務室で待っていると告げる。執務室には仕事を手伝っている兄様もいらっしゃるので話がはやいですわね。


 この前の暗殺予言以来、兄様は近衛兵団からの出向扱いらしい。でも、なぜ護衛では無く宰相補佐なのかしら?まあ、補佐の方が一介の護衛より、動きやすいでしょうけど…。


「マリー、座りなさい。」


 お父様に促されて席に着くと、兄様がお茶を入れてくださいました。


「私が淹れましたのに」


「仕事だからね、気にしないで」


 申し訳なく思っていると、兄様はにっこり笑ってお父様の横に座られます。なんか、違和感がございませんわね。


「マリー、話とはなんだね?」


「はい、領地で出来た新作の絹織物のことでございます。それの質が劣る方で、今回の夜会のドレスを誂えようかと考えております」


「ほう、それはどういうことだね。」


 いつも優しいお父様の眼光が一瞬するどくなる。


「はい…」


 リサに話したことをお父様と兄様に説明する。お二人は真剣に私の話に耳を傾けて下さいました。お父様は一呼吸おくと真っ直ぐに私を見つめて頷かれます。


「マリー、フリードリッヒの導きがあったとはいえよく思いついたものだ。ここ数ヶ月でだいぶ成長したな。宜しい、この件はお前に任せよう、存分にやってみなさい。すまないが、フリードリッヒ、マリーのサポートをして貰えないか。」


「わかりました。しかし、護衛は」


「心配いらない、クロウが常に側に控えている。それに、ルーキン伯爵が護衛をしてくれるからな」

 

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