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城での夜会 ①

 城から舞踏会の招待状が届きました。皇后陛下の誕生日を祝う宴の催しです。今年は、お父様、お母様、そして、私も出席致します。


 デビュタント以来の城での夜会ですね。デビュタントの時は、リフリード様にエスコートして頂きましたが陛下への挨拶後、リフリード様は一曲踊ったらすぐに他の御令嬢の元へ向かわれましたし、私はお母様と上皇陛下の部屋へご挨拶に伺いましたので…。


 なので今回は人脈作りと、特産品の売込みを頑張らないといけません!そのためにこの一年をかけて領地のことを学んだのですから!あと、麦畑の用水路の問題もありますし、どこに用水路を補強する石を頼むかの問題もありますからね。


 大掛かりな工事のため、沢山の石を調達する必要がありますわ。良き取引先を探さなくては!


 これは、私の領地での初仕事になりますから、気合いが入りますわ。本来なら、リフリード様が主体となり私が補佐をする方で進めてましたが、婚約破棄で私ひとりの仕事になりましたから頑張り所ですわね!


 今日は久しぶりに家族揃っての夕食です。お父様のお仕事も大分落ち着かれたらしく、今日はいつもの時間にお帰りになりました。お陰で、お母様もいつも通りニコニコ笑ってらっしゃってほっと致しました。


「そう言えば、今回の皇后陛下の誕生日の舞踏会のデビュタントの名に、バルク男爵令嬢の名前があったよ。私が領地にいるうちにデビューを済ませていたと思っていたが。淑女教育が遅れているとは聞いていたが、それ程までだったとは。」


 え、ジュリェッタ嬢はデビュタントを済ませてない?


「まあ、それは申し訳ないことをしましたわ。それで、バルク男爵もジュリェッタ嬢もマリーの誕生日の夜会へいらっしゃらなかったのね。いらっしゃっていたら、ご挨拶下さるでしょう?」


 お母様は申し訳なさそうに、眉を下げて吐息を吐かれました。


 ジュリェッタ嬢が来てない?


 私は兄様と顔を見合わせた。兄様も腑に落ちない表情で私をみている。


 では、リフリード様がエスコートしていたあの女性は一体?水色の髪にピンクの瞳、夜会の会場の中でも一際目立つ可愛らしい顔の女性。


 彼女は誰?


「しかし、ジュリェッタ嬢の御名前の招待状はあったのでは?」


 フリードリッヒは訝しげに侯爵へ尋ねた。


「ああ、だが、彼女の招待状が他のお嬢さんの手に渡った可能性も無きにしもあらずだからな…。」


 食事を終え、急ぎ書斎へ行き貴族人名図鑑を手に取る。


 これはうちのお抱え絵師、ロアーが描いたものだ。ロアーは父の側や、お茶会に行く母の側に常に控えており、その日会った人物の姿絵を描く。それを製本し、隣のページに名前、特徴、趣味、弱みなどありとあらゆる情報を足してある。貴族として社交界を生きていく為の絶対的な情報の詰まった特別な品物だ。この本によってリマンド侯爵家は長年この貴族社会のトップに君臨していると言っても過言ではない。この本の存在は、私、父、ロアー、そしてこの本を製本した執事セバス、これから本を作成するセルロスしか知らない。貴族人名図鑑は代々執事が製本する。


 ペラペラとページをめくる。残念ながら、まだジュリェッタ嬢のものは無かった。茶色の髪と瞳の人の良さそうなガッシリとした、バルク男爵の肖像画をみる。

この姿絵から夜会でのジュリェッタ嬢を想像出来ない。


 私が見た人物はだれ?


 バラバラと、夜会の記憶を呼び出しつつページをめくる。


 水色の髪。


 あるページで記憶のジュリェッタ嬢と同じ髪の色をした人物に目が留まる。シュトラウス子爵令嬢。ジュリェッタ嬢を大人にしたような美しく優しそうな人物が、本の中で微笑んでいる。

 

 碧眼。王家の血族の証。


 慌てて、姿絵の隣のページを読む。注釈には亡くなったと記載してある。ミハイロビッチの姉に当たる人で、前妻の子供。


 私が見たのは幽霊?


 何度もページをめくったが、夜会で観たジュリェッタ嬢はいなかった。


 気持ち悪さを抱えつつ本を閉じた。


 リフリード様に伺おうかしら?


 先日の夜会でのリフリードの憎しみの篭った視線を思い出す。


 やめておいた方が良さそうね。まあ、城の舞踏会へ行けばわかりますわよね。


 自室へ戻ろうと廊下を歩いていると、思い詰めた様子の兄様から呼び止められました。


「マリー、ちょっといいかな?」


「はい」


「できれば、人目につかない所で話したいんだが…」


 夕食の時の話ですわよね、兄様も気にしてらっしゃいましたし…。重要なお話でしたら…。


「では、私の部屋でお茶しませんか?」


 兄様は少し困った顔をなさりましたが、いつもの表情に戻られて返事をされます。


「ああ、そうしよう。マリーの部屋なら他に聞かれる心配はないな…」


 兄様と自室へ戻り、ユリにお茶を頼み、そのまま部屋の前で見張りを頼む。


「フリードリッヒ様、まだ婚約者候補でございますから、わかっていらっしゃるとは存じますが、くれぐれも、くれぐれもお嬢様に何もなさいませんように。よろしいですね?」


 ユリは兄様をひと睨みして部屋から出て行った。ドアは拳ひとつ分開いており、そこからユリのお仕着せのスカート部分が見える。


「はあ、ユリからの信用が全くないな。まあ、仕方ないか」


 フリードリッヒは軽く溜息を吐き、椅子へ腰を下ろした。


「兄様、お話とは?」


「ジュリェッタ嬢の件だ。結論から言えば、この前の夜会に来ていたのはジュリェッタ嬢で間違いない。侯爵夫妻に挨拶がなかったのはジュリェッタ嬢がデビュタントを済ませておらず、そのことを知ったリフリードが機転を利かせて急いでその場から去らせた為だろう。」


「私が見たのは、やはりジュリェッタ嬢で間違いなかった…。でも、どうしてジュリェッタ嬢とお解りで?あっ、ミハイル様から…」


 幽霊でなくてよかった。兄様の言葉の歯切れが悪いですわね。何か言いにくそうな…。


「いや、それが…。ジュリェッタ嬢が近衛兵団に現れて、付き纏われているんだ…。それも毎日現れるものだから、流石に見間違えはないよ。」


「え。ジュリェッタ嬢は、リフリード様と恋仲のはずではございませんの?」


 そのせいで、私、婚約破棄されましたのに…。


「訳がわからないんだ。デビュタントの時エスコートして欲しいと言ってくる。エスコートは婚約者か身内がするものだと言っても、ミハイルの言った通り言葉が通じない。」


 私との婚約のこともありますし、その上、ジュリェッタ嬢の毎日のアポ無し訪問…。近衛兵団での兄様のお立場を考えると胸が痛くなります。


「ああ、マリー。君にそんな顔をさせるつもりではなかったんだ。心配いらないよ」


 いつも余裕たっぷりの兄様が弱っている姿に何かしてあげたくて、無意識のうちに頭を胸に抱きしめていた。


「マリー?」


 あっ、私なんてことを…。


「ご、ごめんなさい…。私、はしたない…。」


 慌てて離れようとすると、背中に手を回され逃げられないように抱きしめられる。


「そのまま、聞いて。」


 胸元に温もりと息遣いを感じくすぐったいような温かな気持ちになります。


 兄様が弱っているのに不謹慎ですわよね…。兄様に甘えてもらっているのが嬉しくて、わかっていても口元がにやけてしまいますわ。


「はい」


「実は…。それより気になることがあって…。ジュリェッタ嬢が、侯爵が暗殺されるというんだ。それで、侯爵家はリフリードが継ぐことになると…。」


「えっ…。お父様が殺される!嘘よ!信じられないわ!ジュリェッタ嬢はどうしてそれを知っているの?誰から聞いたの?」


 兄様の私を抱きしめる手が強くなった。


「落ち着いて、勿論デマであって欲しい。しかし、無視はできない。彼女には未来予知の能力があると言われている。彼女は未来にあることだと俺にそのことを告げてきた。その真意の殆どは解らないが用心するに越したことはない。」


 宥めるように、落ち着いた声ではあるが離れる気は無いらしく、依然としてフリードリッヒはマリーの胸元で喋る。 


「お父様、剣術はからっきしですものね…。」


 父は運動神経があまり良い方ではない。剣術の腕前は酷いものだ。知能だけで宰相に上り詰めた人物なのだ。


 マリーはフリードリッヒの白銀の柔らかくサラサラとした髪の感触を楽しみながら指で梳く。


 昔、この髪が大好きだったわ。欲しいってだだをこねて、いつも兄様を困らせたわね。それ以来兄様は髪を伸ばしてくださってるのよね。


 そのことに、内心、心の中がわき立つ。


「ああ、城への行き帰りはなるべくご一緒するつもりだ。勿論、侯爵にもこのことは先程報告してきた。そう心配するな、俺が守るから。それに、護衛もつけられるそうだ。それに、クロウも常に側に置くとおっしゃっていた。」


「でも、それでは…。」


「大丈夫だ。配置換えをお願いして、宰相の護衛に加えて頂いたよ。そうすれば、ジュリェッタ嬢も流石に付き纏わないはずだし、行き帰り、宰相と一緒でも任務の一環として見られる。やっかみも減るさ」


 そうね、兄様が言う通り大丈夫。兄様も護衛して下さるのだし、それにクロウも居ますわ。でも、やはり、私やジュリェッタ嬢のことで嫌がらせを受けてらっしゃったんですね。


「お父様のことお願い致します」


「ああ、任せておいて。じゃあ、部屋へ戻るよ」


 フリードリッヒはそう言うと、マリアンヌから離れ、目を合わせる前に部屋から出て行った。マリアンヌはへたりとソファーへ腰を下ろす。フリードリッヒと入れ替わりで入ってきたユリがマリアンヌに声をかける。


「お嬢様、大丈夫ですか?お顔が真っ赤ですが…。」

 

 

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