ヒロイン ⑥
ジュリェッタ視点、これで終わりです
ある日、手紙の中にリマンド侯爵家からのものを見つけた。夜会への招待状だった。
竜討伐の素晴らしい功績を称えてあった。勇者であるお父さんとそれを支えた素晴らしき能力を持った娘であるジュリェッタを夜会に招待したいという内容の手紙と共に、招待状が2枚入っていた。
まだ、今日は家庭教師は来ていない。今日、手紙を受け取ったのはメイドだ。彼女は市井の者で字や家紋に疎い。さっとその手紙を隠し、リフリードがよこしてくれた従者にそれに参加したいのでリフリードに手配して欲しいと伝える。
これで、やっと夜会に参加できる!
楽しみ!
数刻後、従者がリフリードがドレスを用意してくれると言ってきた。それと、当日のエスコートもしてくれるらしい。良かった、正直どうやって行けばいいかわかんなかったんだよね。
早目にドレスを購入しようという、リフリードをなんとか説得し、当日の午前中にドレスを買いにリフリードと店に行く。リフリード曰く、本来は1ヶ月以上前に店に行って採寸し、デザインを決めて作成して貰うものらしい。
でも、そんなことしたら家庭教師に見つかって、また、お断りの手紙を書かされるじゃない。
「ここは既製品がある店だよ。」
リフリードに案内されて店に入る。色取り取りのドレスが並べてある。
わー、可愛い。オーダーしなくてもこんなに選べるじゃない!
リフリードや店員がワインレッドや、シルバー、モスグリーンなどの濃い目の色のドレスを薦めてくる。
えー、そんな地味な色じゃなくて、やっぱりお姫様はピンクでしょう?それも、ふわふわのレースの沢山使ってあるとびっきり可愛いの!
一際可愛いピンクのドレスが目に付いた。
何これ!メチャメチャかわいいじゃん!絶対私に似合うって、これがいい!
リフリードや店員は難色を示したが試着させてくれる。
鏡に映った自分、小さい頃憧れたディズニープリンセスそのものだ。
いゃ〜ん。チョー似合う。思った通りだ、テンション上がるわこれ私のためのドレスじゃん!
「どう?リフリード、可愛いと思わない?」
「ああ、すっごく可愛いよ。でも…いや。それにする?」
「うん」
このドレスに合う靴も用意してもらう。
リフリードが店員にお願いして準備をしてくれた。
「ジュリェッタ、宝石は?」
「宝石?」
「そう、ネックレスやイヤリング。」
え、今もしてるよ?リフリードが手紙と一緒に送ってくれたネックレス。それに先生の所でくれたイヤリングも?
「これじゃダメ?」
「今からじゃ、間に合わないか。しかたない、無いよりはましか」
リフリードが頼み、店の店員がバタバタと準備をしてくれ、時間ギリギリに仕上がった。
どうにか準備を整え疲れはてて座っていると、リフリードがお金を払っているのが目に付いた。金貨2枚。金貨一枚はCクラスの冒険者が一年間に稼ぐ金額。たった1枚のドレスと準備それに靴で、死と隣り合わせの仕事を一生懸命にした2年分の稼ぎ。
胸の中のもやもやが大きくなって行く。
リフリードにエスコートされフリップ家の馬車に乗り込む。
リフリードにもったいないから、歩いて行こうよって言ったら、目を丸くされて、馬車で行くものなんだよって言われた。解せぬ。
リマンド侯爵邸に着く。自分の陛下に下賜された家とは比べものにならないくらい豪華な造り、美しい門から屋敷に続く庭には色取り取りの花が咲き誇っている。その奥に白亜の豪邸があり、スマートな執事が着いたお客達を出迎えている。
まるで夢の世界ね。
会場へ足を入れると、案内の者が声をあげる。
「リフリード様、ジュリェッタ嬢、到着です」
色取り取りの豪華な衣装を着飾った人達が一斉にこっちを見る。
やっぱり、私可愛いから注目の的なのね。
リフリードが心配そうにみてくるから、大丈夫よって笑い返す。
「私、今日が初めての夜会なの。今まで、お城で紹介して貰った家庭教師の先生に合格が貰えなくて、夜会へ出席できなかったから」
「え、城での夜会に出席したこと無いの」
リフリードがあり得ないってくらい驚いた顔で聞いてくる。
そうだよね、普通ビックリするよね。だって勇者の娘で市井では聖女って呼ばれている私に夜会の招待状が届かないってことはないよね。普通、日々忙しいくらい夜会やお茶会に参加してるって思ってるよね。当然、お城での夜会も呼ばれてるって!私だってそう思ってたもん。家庭教師酷いんだよって意味も込めてリフリードに説明した。
「無いよ。家庭教師の先生が今の状態で城での夜会に出席すると不敬罪にあたるって。カーテシーが上手くできないし、言葉遣いが失礼にあたるから駄目だって、せめてこの2点はできるようにならないとって言って参加させてくれないの。お父さんは、一度参加したわよ。」
「侯爵夫人からの招待状、家庭教師には見せた?」
勿論そう聞くよね、これだけ家庭教師がOKするわけないって思うのは当然だよね。
「見せるわけないよ。見せたら、また、お断りの手紙を書かされてしまうじゃない。だからこうして、リフリードにお願いして連れて来て貰ったんだもん。」
リフリードが固まる。
そうだよね、愛する私が理不尽な扱い受けてるって知ってショック受けたよね。でもさ、リフリードも家では色々と大変じゃん、侯爵になる為に頑張ってるんでしょ?それを邪魔するわけにはいかないでしょ。
リフリードが手を引いてくれようとした時、会場がいきなり騒がしくなり、皆が一斉に同じ方を向く。釣られて、そちらを見ると、フリードリッヒにエスコートされ階段を降りて来るマリアンヌが見えた。
マリアンヌは濃い青のドレスを身に纏い、ここからでもハッキリとわかる輝きを放つダイヤのジュエリーで飾られている。同じ色の服を着て寄り添うようにエスコートするフリードリッヒ。
どうして、近衛騎士として城にいるはずのフリードリッヒがマリアンヌをエスコートしてるの?でも、ストーリーが始まる前だからこれで通常なのかもしれない。だって、設定ではフリードリッヒはマリアンヌの兄的存在ってあったしね。
ジュリェッタは食事で釣られ、部屋の端へと移動した。ホールの中央ではファーストダンスが始まった。侯爵夫妻と、フリードリッヒとマリアンヌ。楽団が奏でる音楽に身を任せ優雅に踊る2組のペア。
「綺麗」
「お上手ね」
ダンスやドレス等の装いを褒める声が四方八方から聞こえる。
フリードリッヒ、流石カッコイイなぁー。エンド、しょぼいって思ってたけど、貴族面倒だしフリードリッヒエンドで冒険者に戻るってのも有りかも。
クールで無表情設定のはずなのに、すっごい甘い笑顔だし〜。任務中だとクールなのかな?プライベートだとこれなら幸せじゃん!
でも、ほんとみんなの言う通りダンス綺麗だな、ダンスレッスンこれから真面目に頑張ろ。
「やっぱり、ダンスは上手に踊れた方がいいわね」
「ダンス、苦手なの?」
リフリード、心配してくれてる?苦手というより全く踊れない。真面目に練習したことないんだよね。
「苦手というか、まだ、踊れなくて。貴族になって一年もたってないから…。」
皆が踊り始めると、リフリードにバルコニーに誘われた。
そうだよね、みんなダンス踊るんだよね、ここに居る意味ないのかっていうか、もしかしていづらい?やっぱり、ダンスの練習頑張ろ…。これじゃ、家庭教師の言う通り夜会に行けないよね。
バルコニーに出て、リフリードからデビュタントのことを教えてもらった、かなり必死な顔をしている。
ここにいるのが非常に不味いことがわかった。
「そうなのね、知らなかったわ。」
ジュリェッタはシュンとして、下を向いた。
「城から派遣された家庭教師は教えてくれなかったのかい?」
「夜会に行きたいと言ったら、マナーを覚えてから、ダンスが人前で踊れるレベルになってからですね。ダンスの練習にマナーレッスン頑張りましょうねって、それだけを繰り返すから。」
ハッキリと教えてくれれば良かったのに!なんだろ、家庭教師の先生って、奥歯に物の詰まったような話し方なんだもん。わかりにくいよ。ちゃんと、こういう不都合なことが起こるって言ってくれないんだもん。
「家庭教師は、それが出来なければ大変な事になるからそう言ってるんだよ。言われたことをちゃんと守らないと。」
珍しく、リフリードが怒ってる。
でもさ、貴族って信用できないんだよ!竜討伐の時もそうだし、よく依頼の代金誤魔化そうってするし!理不尽だしね。
「私が市井の出身だから、意地悪してると思ったの。ほら、冒険者だったころ、領主や貴族たちに代金、誤魔化される事が多かったから」
取り敢えず、大事になる前に帰ろうと促されバルコニーを後にする。リフリードが固まった。
「どうしたの?」
不思議に思い尋ねた。
「いや」
リフリードの視線の先にマリアンヌとフリードリッヒが椅子に座って居た。
あっ、フリードリッヒと知り合うチャンスだ!
「ねぇ、あそこに座ってるの、リフリードの知り合いでしょ、紹介してよ」
「だから、君がここに居るのはよくないことなの!」
リフリードに引き摺られるように会場を後にした。
本日、もう一度19時に投稿します。
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