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ヒロイン ⑤

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 ルーキン伯爵はジュリェッタの生まれのこと、父親のこと母親のこといろんなことを聞いて来た。これから魔道士の先生の処に行くと言うと、その先生の名前も聞かれた。ほっとしたことで気が緩んだのか、ジュリェッタは聞かれるままにいろいろ話していた。


 ハンカチをポケットから取り出したとき、紙が落ちた。それをルーキン伯爵が拾う。


 やばい!依頼書を見られる!


 ギルドから依頼書を持ち出すのは御法度だ!


「すみません。持ち出すつもりは無かったんです。ただ、」


 ジュリェッタはこの依頼がリフリードの家庭教師の依頼だと思うこと、紹介料が欲しくて、自分の師のミハイロビッチを紹介しようと思っていたと話した。リフリードが家庭教師を探してることは知り合った冒険者に聞いたと言った。名前なんか名乗らない人が多い。それで大丈夫な筈だ。


 流石に本当のことは言えない。


 背筋が凍りそうだった。沈黙が永遠に続く気がした。


 ルーキン伯爵は、少し考え、ジュリェッタを心無しか優しい表情でみた。


「なる程、受付に持って行こうとしたら、お父さんに呼ばれてそのままポケットに入れたままになって、今の今まで忘れていた訳か…。」


「はい、ごめんなさい」


 何とか誤魔化せたかな?


「では、これでどうだろう。」


 そう言って、ルーキン伯爵はジュリェッタに金貨を一枚渡す。


 え、どういうこと?


「その情報とこの依頼書を私が買おう。フリップ伯爵に恩を売るのも悪くないからな。」


 ルーキン伯爵はニヤリと笑い。夫人をみる。夫人は静かに笑った。ジュリェッタは金貨を握りしめ、訳がわからずボーッとするしか無かった。


 馬車を降りて、ミハイロビッチの家に行く。何処をどう歩いたのか覚えていない。気が付いたら、ミハイロビッチの家で椅子に座り食事をしていた。


「この金貨分、君に教えればいいの?」


 ミハイロビッチの言葉にハッとする。机の上には1枚の金貨と目の前には、不機嫌そうなミハイロビッチの顔。


「あっ、はい。あの、お父さんが迎えにくるまで住み込みで教えてもらってもいいですか?」


 ミハイロビッチは金貨とジュリェッタを交互に見つめて溜息を吐いた。


「しょうがないね」


「ありがとうございます。」



 数日が過ぎ、ミハイロビッチが週に一度出掛けるようになった。そのうちに、ここにリフリードがやって来るようになった。


 嘘。


 ルーキン伯爵ありがとう。


 これでこっちのもの。魔法の練習に、リフリードの攻略に勤しむだけだわ。


 牙狼と一緒にダンジョンに潜ってからお父さんは、たまに牙狼と行動を共にするようになり、ジュリェッタはその度に、ミハイロビッチの処にお邪魔して、魔法とリフリード攻略に勤しんだ。他人に興味の無いミハイロビッチなど空気に等しかった。山奥の小屋という閉鎖された空間での攻略はゲームより数段楽だった。


 月日は流れ、お父さんが牙狼達と竜討伐に行くと言う。お父さんは止めたが私も付いて行くといいはった。


「お父さん、私治癒魔法が使えるようになったの。そんな凄いのは無理だけど。だから、付いて行っていい?勿論、足手纏いにならないように前方には絶対出ない。後方でお父さんをサポートするだけだから!」


「約束だぞ」


 いよいよ、竜討伐ね。出来るだけの準備はしたわ!もしものときの為に、ミハイロビッチ先生にハイポーションの作成も依頼した。材料を用意して渡した。もし、瀕死で帰って来たらここで浴びるほどハイポーションを飲めばいい。なんなら被ってもいい、それだけの材料を用意した! 


 竜討伐は惨烈を極めた。沢山の冒険者が、傭兵が死んだ。陛下も軍を出したが彼らは、後方からの援護と補給、それと回復を担当した。ジュリェッタも主にそこに加わっていたがなんとも言えない違和感を覚えた。


 頭ではわかっている。この国では命の重さが違うことくらいでも、と、思う。なぜ、治癒魔法がたった4名なんだろうと。それも、深傷を負った者を完治させる程の能力は無さそうだ。


 王自身が来ることはないけど。ううん。王も来るべきよ。それに、悪役令嬢くらい来てもいいんじゃない?だって、多分もう治癒魔法使えるはずよ!こんなに苦しんでいる人が沢山いるのに?


 お父さんのみに、バリアを張りながら、皆に少しずつポーションと治癒魔法を施す。治癒魔法は余り使えない。魔力が多いとはいえ、今枯渇するのはまずい。


「きみも治癒魔法が使えるんだね」

 

 治癒魔法士の一番若い子が声を掛けてきた。


「うん。少しだけどね」


「いや、それだけ使えたら十分だよ。オレはミハイル。君は?」


 ジュリェッタだと答える。


 ミハイル、どこかで聞いた名前。でも初めてみる顔。竜討伐。ミハイル。


 あっ、フリードリッヒの親友で竜討伐で死ぬ運命のミハイル。フリードリッヒとのイベントでその名前が出てくるのよね。親友を亡くした、フリードリッヒ。父を亡くしたジュリェッタ。二人はそのことがきっかけで距離がぐっと縮まるの!


 ちょっと待って、お父さん死ななきゃフリードリッヒと距離が縮まるイベントないの?あっ、そうだ!ミハイルも死ななきゃいいのよ!そして、ミハイルを介して仲良くなればいいのよね。フリードリッヒの話では、ミハイルは竜が吐いたブレスの破片が当たって死ぬのよね。それを防げば、彼を介してフリードリッヒと仲良くなれるじゃない!私、天才!


 なるべく、ミハイルと行動を共にする。


「竜が倒れるぞー!」


 竜は最後の力を振り絞ってブレスを吐いた。その勢いは凄まじく、後方で防衛魔法を展開している兵士にまで届いた。

「お父さん!」


 前方で戦っていた父は大丈夫なのだろうか?


 冷たい汗が背中を伝う。


 お父さん


 お父さん


 お父さん


 前線へ走る。足下の死体を踏み付けることも厭わず必死でお父さんの元へ。


 倒れた竜の側に2人の人影が目に止まった。二人は酷く傷つき、汚れ、疲れていた。


 お父さんと牙狼の騎士風。


 急いで二人にヒールをかけようとした、二人はまだ、ジュリェッタには気が付いていないようだ。


「おい、おっさん死んでくれ!」


 騎士風の言葉に、ヒールをかけようとした手を止める。


 え、今なんて?


「弓使いも、魔道士も死んだ。後は、あんただけだ。なあに、お嬢ちゃんは陛下に頼んでおくよ。きっと悪いようにはならないさ!」


「それは、こっちのセリフだ、小僧。この竜討伐で貴族になれるのはひとり、お前が死んでくれれば物事がすんなりいく」

 

「死ねー!」


 騎士風がお父さんに斬り付けてきた。お父さんも負けじと応戦している。


 何で?えっ、一体どうなっているの?


 目の前ではたった一つの貴族という椅子を取り合って、今まで仲間だった人達が争っている。


 騎士風が押し、お父さんが崩れた。騎士風は止めとばかりに剣を振り上げた。


 お父さんが死んじゃう!


 ジュリェッタは無我夢中で攻撃魔法を放つ。人間に向けて放ったのはこれが初めてだ。それは、騎士風の心臓を綺麗に貫いた。


 ジュリェッタはお父さんに駆け寄り治癒魔法を施す。渾身の力を使ったが、お父さんは立って歩くのがやっとくらいしか回復しなかった。


 ジュリェッタは無言でお父さんを支え、城の騎士達のもとへ足を進める。お父さんも言葉を発することなく。ジュリェッタをたよりながら歩く。


 騎士が二人を発見し、そこからは、あっという間に竜を倒した勇者と呼ばれ、やいのやいのと城へ連れて行かれ、傷の手当てを施される。陛下へ謁見がどうだの言われたが、ジュリェッタはそれどころではなかった。陛下の使いを説得して、意識のない父をミハイロビッチの所へ運び自分もそこに留まった。


 師にお願いしておいたハイポーションを惜しげも無く使い。治癒魔法をかけ続けるとダフィートは奇跡的に回復した。


 城へ行き、陛下へ拝謁する。


 勇者の称号、男爵としての一代貴族の地位。それに基づく年金。王都の貴族街の外れの小さな邸宅。そして、ジュリェッタへの褒美として、魔法学園への入学の許可と淑女としての教育をする家庭教師の派遣。メイドと家令を2名。これが陛下より下賜された褒美だった。


 お父さんが、牙狼の騎士風が他の沢山の冒険者や傭兵達が命がけで欲したもの。そして、その全員ではなくたった1人にのみ与えられるもの。


 ジュリェッタは勇者ではない。だから、貴族の地位はダフィートのみ。ダフィートが死ねば、ジュリェッタはただの平民となる。故に、今回の謁見はダフィートのみ。ジュリェッタは許されていない。


 ジュリェッタを王都の自分の屋敷に案内するダフィートは上機嫌だった。ジュリェッタはそんな父親を見てやるせない気持ちになる。


 竜討伐以来、ジュリェッタの中で小さなもやもやが芽生えた。

 

「ジュリェッタ、明日からお前の為に家庭教師の先生が来るぞ。良かったな、お前も社交界デビューができ、魔法学園に入学することができる。なんて、名誉なことなんだ!」


 機嫌のいいお父さんにジュリェッタはそうだね。淑女教育頑張るよ。と言うのが精一杯だった。


 翌日から、ジュリェッタにとって苦痛の毎日が始まった。本来自由を好み、校則や社会に縛られるのを嫌う性格だったせいもあり、この国の常識を押し付けてくる家庭教師が鬱陶しくて仕方なかった。


「背筋を伸ばして優雅に歩いて下さい。」


「まず、目上の方から声をかけられるまで自分から声を発してはいけません。」


「カーテシーは、背筋を伸ばして」


「頑張ってるのよ。そんなにきつく言わなくていいじゃない」


 ジュリェッタが頬を膨らますと、家庭教師は


「いいじゃないではありません。言わなくてもよろしいんではなくて。です。ジュリェッタ様。」


 と、的外れなことを言ってくる。お茶会の招待状が来たので行こうとすれば、城での陛下への拝謁が済んでないから駄目だと、欠席の返事を書くように促される。嫌がらせをされているとしか思えない。


 陛下だって、とっとと拝謁させてくれればいいじゃない、と家庭教師に言うと、まだ、カーテシーひとつまともに出来ない状態では不敬罪にあたるのでダメだと言って聞かない。お陰で招待状は来るのに、夜会にも、お茶会にも行けない。


 たまにくる、リフリードからの愛のこもった手紙が今のジュリェッタの支えだった。


 ミハイルにフリードリッヒを紹介して貰おうとお父さんが城へ行く時について行って、城の近衛兵の駐屯所に何度足をはこんでも、フリードリッヒを見つけることが出来ない。


 近衛騎士の駐屯所でうろうろしてると、ミハイルがやって来て何か用?って聞いてくれるけど、肝心のフリードリッヒがいないんじゃ、紹介してって言えないじゃん!まさか、フリードリッヒは何処って聞くわけにもいかないし…。


 なんだろ、竜を討伐してから人生が上手くいかなくなった気がする。


 

明日11時ににもう一度投稿します

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