フリップ伯爵の訪問 ②
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「ルーキン伯爵がこの侯爵家を欲しているのは知っている。何か企んでるのは間違いないな、問題は息子が父の借金と、クシュナ夫人のことを知っているかかな?まぁ、すぐにわかるさ」
リマンド侯爵はそう言うと口角を上げニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
「そう言えば、フリードリッヒ、そろそろ休暇も終わりだろう、いつから出勤だ」
フリップ伯爵の言葉にフリードリッヒは少し名残惜しそうに答える。
「実は、明後日からです。明日、寄宿舎に戻ろうと思っています。」
「そうか、あっという間だったな。可能なら、ここから通って欲しいのだが。近衛騎士は通いの者も大勢いるだろう。どうせ私も毎朝、城へ行くのだ、一緒の馬車で出勤すれば良かろう。」
まぁ、素敵な提案ですわ、お父様。そうしたら、兄様と毎日会えますわ。
「流石に宰相と一緒の馬車で出勤は、一介の騎士には分不相応です。」
そうかな?と、腑に落ちない様子の侯爵を見て、フリップ伯爵が助け舟を出す。
「流石に目立ちますよ、一介の騎士と宰相が同じ馬車で出勤すればフリードリッヒも仕事がし辛いでしょう。」
仕方ない、といったふうに肩を竦め、侯爵はフリードリッヒを見る。
「仕方ない、一緒に出勤は諦めよう。しかし、ここから出勤は命令だ。わかったね。」
侯爵は人畜無害そうな顔とは裏腹に有無を言わせぬ口調でフリードリッヒにそう告げた。フリードリッヒは小さく溜息を吐き答える。
「はい、わかりました、宰相」
「よろしい。近衛兵隊長には私から言っておくよ。マリアンヌと正式に婚約したら近衛騎士としての仕事のやり辛さは私と出勤する以上だぞ。」
わかっているのか?と侯爵はフリードリッヒに確認すると、フリードリッヒは何かを決意するようにゆっくりと首を縦に振った。なら良いと言う口調はいつも通り優しげだがフリードリッヒを見る目は冷たい。
兄様ここにいるのはお嫌なのでしょうか。ここに滞在することを良いと思っていらっしゃらないみたいです。
それとも、私との婚約自体重荷なのでしょうか?
『好きでないんなら、解放して下さい。フリードリッヒ様の人生を縛り付けないで下さい。フリードリッヒ様からは拒否することは出来ないんですよ。わかってます?』
と言っていた、城の侍女アナスタシアさんの言葉が脳裏に浮かびました。
少し、悲しくなりました。兄様の本心がわかりません。
好きだと言って下さった、兄様。
ずっと、私のことを思ってると言って下さった、兄様。
お父様、そんなこと兄様に言わなくてもいいじゃない。この婚約だって、お父様から兄様に有無を言わせない形でお願いしたんでしょ。勝手過ぎるわ。兄様、本当は私と婚約したくなかったかもしれないじゃない。想い人は私だって言って下さったけど本当は他にいらっしゃって…兄様が優しいから、私の負担にならないようにそう言ってくださったのかもしれないのに。
そんな想いとは裏腹に、リフリード様のことを考えてしまう。
リフリード様も私との婚約のせいで他の人に色々言われていたのかしら…。その上、私のことを好ましくないと思ってたのよね…。なんか、婚約破棄したい気持ちもわかるかも…。溜息がでますわ…。
そう言えばと、侯爵は時計を見るといつもの優しい瞳に戻った。
「マリー、フリードリッヒ、これから出かけるのであったな。遅くなると良くない、ここはもういいから行きなさい。」
兄様とこの後出かける?
あっ、この前約束していた、洋服屋さんに行っていいのですね。その言葉に少し元気が出ました。フリップ伯爵がいらっしゃると聞いて、流れたと思っていましたから!兄様、ちゃんとお父様に伝えてくださってたんですね。
私は何も返せないのに。
兄様の優しさが、切なくなりました。
「よろしいんですの?お父様。」
「ああ、市井の人の暮らしを知るのも良い勉強だ、フリードリッヒが一緒なら安心だろう。他にも、目立たぬように数名護衛をさせる。」
「ありがとうございます。お父様」
「ありがとうございます。宰相」
やっぱり、私には甘いお父様です。甘すぎて少し心配になるときもありますが。そのせいで、兄様に何か強要してないと良いのですが…。
フリードリッヒはマリアンヌと一緒に部屋を後にした。
「兄様、お買い物のことお父様に伝えて下さってたんですね。ありがとうございます。後、お父様がすみません。この屋敷から仕事に行くように強要して…、実は、私もそうなればいいなって、思ってしまって…。兄様のお気持ちも考えずに…。」
「この屋敷から通うのがイヤなわけではないよ。マリーと毎日会えるしね、ただ、宰相の仰った通りやっかみは凄いだろうね。パーティーでエスコートぐらいなら、まあ、何とかなるけど、ここに住むとなるとね。まあ、それで、マリーが手に入るなら安いものだけどね。」
フリードリッヒの言葉は珍しく歯切れが悪い。
「そんなに…。」
「そりゃぁ、マリーは高嶺の華だからね。騎士如きが手に入る人物ではないよ」
兄様は力なく笑ってらっしゃいます。その顔から、侯爵家の婿養子になるということが、それほど周りからの嫉妬を買うものなのかと初めて知りました。
私をというより、筆頭侯爵家を手に入れることができるわけですからね。
確かに、爵位家の子息とはいえ、皆、騎士になるということは、生家の爵位を継げず自分で身を立てなければならない者ばかり、それが、小さい頃より決まっていた婚姻ならまだしも、降って湧いた婚姻一つで筆頭侯爵になるのだから、僻み妬みは当然なのでしょう。
「マリーが気にする問題ではないよ。これは、俺自身の問題だから、さっ、行こう」
兄様はいつもの優しい顔に戻って、馬車までエスコートして下さいます。
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