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リフリード ④

リフリード視点、終わりです

 リマンド侯爵邸へジュリェッタを伴って行く。今日はマリアンヌの誕生日の夜会が行われる日だ。リマンド侯爵邸は城の近くの一等地にあり、その中でも一際美しく目立つ。


 馬車を停め、入口で招待状を提示して中へ入る。兄様は婚約者と行くと言っていた。母は父と行くだろう。


 会場へ足を入れると、案内の者が声をあげる。


「リフリード様、ジュリェッタ嬢、到着です」


 その言葉に会場中の人の目線が一気にこちらを向く、その顔は、どうして僕がマリアンヌではなく、ジュリェッタのエスコートをしているのだという疑問と好奇に満ちたものだ。あちらこちらから、ヒソヒソと聞こえる。


 気にしているのでは無いかと心配になり、横のジュリェッタを見た。しかし、ジュリェッタは気が付かないのか、気にしていないのか楽しそうに笑っている。


「私、今日が初めての夜会なの。今まで、お城で紹介して貰った家庭教師の先生に合格が貰えなくて、夜会へ出席できなかったから」


「え、城での夜会に出席したこと無いの」


 これが初めての夜会?デビュタント後、初ということか?

 

 通常は城で開かれる夜会にデビュタントとわかるように白いドレスで参加し、陛下へ挨拶して名前を呼んで頂く。それが済んで初めて貴族として大人の仲間入りを果たす。その後、いろんな夜会へ出席が可能となるのだ。それは、男性も一緒だ。また、平民が何かで手柄を立て、貴族となった場合も同じだ、夜会で陛下に挨拶をし、名前を呼んで頂いて初めて貴族として認められる。


 ジュリェッタは屈託なく言葉を続ける。


「無いよ。家庭教師の先生が今の状態で城での夜会に出席すると不敬罪にあたるって、カーテシーが上手くできないし、言葉遣いが失礼にあたるから駄目だって、せめてこの2点はできるようにならないとって言って参加させてくれないの。お父さんは、一度参加したわよ。」


 その言葉に耳を疑う。


 まさか、嘘だろ。だって、侯爵夫人から招待状を貰ったって。でも、本来なら、城で社交界デビューを済ませているのが普通だ。何らかの理由でデビュー出来ていない場合は、その旨、断りの手紙を出すべきだ。


「侯爵夫人からの招待状、家庭教師には見せた?」


 まさかとは思うが、念の為聞いてみる。


「見せるわけないよ。見せたら、また、お断りの手紙を書かされてしまうじゃない。だからこうして、リフリードにお願いして連れて来て貰ったんだもん。」


 クラクラした。まだ、社交界デビューしていなかったとは、王族でさえ、社交界デビューを済ませないうちは、夜会には出席できないのに…。

 

 だから、どんな貧乏な家でも社交界デビューだけは、借金してでも子供にさせるのだ。そうしなければ、後妻でも貴族へ嫁ぐことは不可能になる。それは、男性も然りだ。貴族として生きることが不可能になる。


 大変だ、ジュリェッタがここにいること自体が問題なのだ。どうしよう、早く帰らねば。しかし、今出ると逆に目立つ。兄や、父にジュリェッタを伴って出席することを相談しなかったことを悔やむ。いや、相談したら止められるとわかっていたから相談しなかったのだ。これ以上の失態は不味い。


 本来なら、美しいジュリェッタを伴っている事で、皆からの注目を集めるはずだった。だが、今日は目立っては困る。


 取り敢えず、目立たぬように角に移動しようとジュリェッタの手を引く。その時、会場がいきなり騒がしくなり、皆が一斉に同じ方を向く。釣られて、そちらを見ると、兄であるフリードリッヒにエスコートされ階段を降りて来るマリアンヌが見えた。


 ジュリェッタが着ている安物のドレスではなく、明らかに質の良い、マリアンヌの為にオーダーされたとわかる濃い青のドレスを身に纏い、ここからでもハッキリとわかる輝きを放つダイヤのジュエリーで飾られたマリアンヌ。同じ色の服を着て寄り添うようにエスコートするフリードリッヒ。その美しさに洗練された雰囲気に、周りから感嘆の溜息が聞こえる。


 本当なら、フリードリッヒ兄さんでなく、今日その横に立つのは自分だったはず。称賛と嫉妬の視線を向けられるのは自分だったはず。


 自分から手放したものの価値に今更ながら気がつき、苛々する。


 マリアンヌをよくみると、ドレスのスカート部分に大きな青薔薇が咲いている。髪にも、ジュエリーも薔薇だ。


 青薔薇、フリードリッヒ兄さんの紋章。それを全身に纏ったマリアンヌ。


 マリアンヌはフリードリッヒ兄さんと婚約するのか?確かにそれが、フリップ家として一番ベストな解決策だろう。その為に父は奔走し、フリードリッヒ兄さんは侯爵家にいる。全ての辻褄が合う。フリードリッヒ兄さんの婚約が仮決定したから僕の謹慎が解けたのだ。


 じゃぁ、今日この場にフリップ伯爵夫人として父の横に立っているのは?フリードリッヒ兄さんが婚約者なのだ、ぼくの母ではなく、フリードリッヒ兄さんの母。第二夫人。


 領地から一緒に付いて来て、ウキウキと今日の為にドレスを用意していた母を思う。父さんは伝えなかった?いや、父さんが伝えてないことはない。それでも、自分が行けると思っていたのだろう。家で荒れてるな…。


 一気に気が重くなった。


 ジュリェッタを食事で釣り、部屋の端へと移動した。ホールの中央ではファーストダンスが始まった。侯爵夫妻と、フリードリッヒとマリアンヌ。楽団が奏でる音楽に身を任せ優雅に踊る2組のペア。


「綺麗」


「お上手ね」


 ダンスやドレス等の装いを褒める声が四方八方から聞こえる。


 フリードリッヒ兄さん踊れたんだ。


 貴族の子供だ踊れても不思議ではないが、ずっと軍にいてろくに帰っても来なかったから、踊れるとは知らなかった。

それに、夜会もデビュタント以来出席したと聞いていない。


 ダンスが上手なことにイライラする。


 飲み物を片手にジュリェッタが呟く。


「やっぱり、ダンスは上手に踊れた方がいいわね」


「ダンス、苦手なの?」


 デビュタントもまだ済んでいないのだから、人前で踊ったことがないのだろう。


「苦手というか、まだ、踊れなくて。貴族になって一年もたってないから…。」


 今日、踊りたいと言われる可能性がないことにほっとした。


 バルコニーに出て、デビュタントのことを必死にジュリェッタに伝える。ここにいるのが非常に不味いこともだ。


「そうなのね、知らなかったわ。」


 ジュリェッタはシュンとして、下を向いた。


「城から派遣された家庭教師は教えてくれなかったのかい?」


「夜会に行きたいと言ったら、マナーを覚えてから、ダンスが人前で踊れるレベルになってからですね。ダンスの練習にマナーレッスン頑張りましょうねって、それだけを繰り返すから。」


 家庭教師は間違えていない、ちゃんと教えている。普通の貴族の婦女子ならこう言われたらわかる。じゃあ、コッソリ行きましょうとはならない。


「家庭教師は、それが出来なければ大変な事になるからそう言ってるんだよ。言われたことをちゃんと守らないと。」


 だって、と上目遣いで拗ねたように見て来る。普段であれば可愛いと思う仕草だが、今日は、それよりも苛立ちが勝つ。


「私が市井の出身だから、意地悪してると思ったの。ほら、冒険者だったころ、領主や貴族たちに代金、誤魔化される事が多かったから」


 それでも、陛下から賜った家庭教師だぞ、そこを疑うか?市井のものならそうなのか?常識が違いすぎてよくわからない。


 取り敢えず、大事になる前に帰ろうと促しバルコニーを後にする。ふと、椅子に座り楽しそうにしているマリアンヌが目に留まった。なんとも言えない思いで目が離せ無い。ふと目が合った。勝手に足が前に進む。その時、マリアンヌを隠すようにフリードリッヒ兄さんが彼女を引き寄せた。


 一瞬、我に返った。


「どうしたの?」

 

 不思議に思ったのかジュリェッタが聞いてくる。


「いや」


 会場を出ようと足を進める横で、マリアンヌと兄さんにジュリェッタが気がついたようだ。


「ねぇ、あそこに座ってるの、リフリードの知り合いでしょ、紹介してよ」


「だから、君がここに居るのはよくないことなの!」


 紹介しろとウダウダ言うジュリェッタを引き摺るように会場を後にした。



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