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リフリード ②

ブッマーク、評価、誤字報告ありがとうございます。

 自室に戻り必死で考える。


 何をしなければならない。


 マリアンヌは帰ったら、このことを侯爵に話す筈だ。父が知るのも時間の問題だろう。ジュリェッタのことも父の知ることとなる筈だ。そうすれば、ジュリェッタと連絡が取れなくなるかもしれない。まずは、取り急ぎ手紙を書こう。これからの手紙は先生の名前で僕宛てではなく、母宛に書いて欲しいと、僕からの手紙も君宛ではなく、先生宛に書くからと、そうすれば、流石に父も中を開封して読まないだろう。

 

 急いで便箋を出して認める。手紙は2通、1通はジュリェッタ宛だ。本当は首に着けてあげようと思っていた、リボンのモチーフに小さいルビーの付いたネックレスも入れておく。ロウで封をして印を押す。もう1通は先生宛、手紙の件のみを書きお願いする。両方とも婚約破棄の件は伏せておく。急いでアイラトを呼ぶ。彼は僕の乳兄弟で、一番信用のおける人物だ。


「急いで、先生の家に行って欲しい。そして、この手紙を先生とジュリェッタに直接渡して、そして、暫くそちらへ訪れることができないと伝えてくれ。」


「わかりました。」


 アイラトは手紙を携え部屋を出て行った。


 次は、母にお願いだな。気が重いが仕方ない。さて、どう伝えよう。


 母の部屋をノックする。中からハイと機嫌の良い声が聞こえてくる。


 腹を括ってドアを開けた。ジュリェッタのことを伏せて婚約に悩んでいたこと、婚約破棄をマリアンヌに直接願い出たことをかいつまんで話した。先生へ相談の手紙を書いたこと、父が婚約破棄を怒って手紙を取り上げる可能性があるから、母宛に返事をして欲しいと先生へお願いしたと伝える。


「わかったわ。先生から手紙が来たら貴方に渡せばよいのね。」


 母は今にも倒れそうになりながら了承してくれた。


「母さん、ありがとう」


 母の返事に胸を撫で下ろす。


 良かった、これでジュリェッタとの連絡手段の確保は出来た。後は、父をどうするかだな。それと、僕の今後のことも考えないと。取り敢えず、魔法学園に入学だな。今のうちに筆記だけでも勉強しておくか。


 先生は魔法学園の出身者だったらしく、教科書を写本させて下さった。それを3冊持っている。


「リフリード、マリアンヌ嬢にもう一度婚約者にしていただくことは難しいの?だって、自信をなくしただけなら、気が変わった。もう一度頑張ってみると伝えれば良い話ではないの?」


 どうしても僕を侯爵にしたい母は食い下がって来る。あんな事言ったんだ、無理に決まってる。でも、母には無理だよ。とは、今は言えない。適当に濁しておくか。


「申し出るにしても、今すぐに申し出ることはできないよ。せめて、少し時間を置いてからじゃなきゃ。」

 

「そうね、わかったわ。申し出る前には相談しなさい、叔母様に口添えして頂くから」


 叔母様とは、母のお父様の一番末の妹のことだ。母のお父様は4人兄弟でみな本妻の子供。1番上の母のお父様と1番下の叔母様の歳の差は15歳。その1番下の叔母様が、侯爵の義母にあたる。侯爵のお父様はお亡くなりになっているが、叔母様は健在で今は侯爵家の別邸にお住まいだ。この叔母様が母の頼みの綱らしい。


 母は力無くそう言うと、疲れたわルイを呼んで来て頂戴と僕に部屋を出てルイを呼びに行くよう促した。 


 ルイは母のお気に入りの下僕だ。童顔の30手前くらいで茶色の瞳の少し侯爵に雰囲気の似た男だ。母はよく彼を側においている。


 母の部屋をでて、出会った侍女に母がルイを呼んでいることを伝える。


 今やるべきことはやった。取り敢えず、自室で勉強でもしながらアイラトと父からの呼び出しを待つことにしよう。


 数刻して部屋をノックする音がきこえる。はいと返事をする。


 父、アイラト?


 リフリードに緊張が走る。


「坊っちゃま、私です」


「入れ」


 父よりアイラトが早く着いたことに安堵を覚える。察して、かなり急いでくれたのだろう。良き従者を持った。


「どうだ、手紙は渡せたか?」


 アイラトは険しい顔をして、僕をみた。何かあったのだろうか?


「先生、ジュリェッタお嬢様、両方に手紙を直接お渡しする事ができました。ただ、ジュリェッタお嬢様は、陛下の御命令で王都の屋敷にお住まいになり淑女教育を受けられるため先生のご自宅へお伺いすることが難しいとのことでした。ですので先生の家を経由して手紙をお渡しするとなると、1週間くらいタイムラグが発生すると思われます」


 なる程、そういえばそのようなことを言っていたな、淑女教育が終わらないと社交界デビューが出来ないと言われたと嘆いていたことを思い出す。でも、淑女教育が終わったら魔法学園へ通えるとも言っていた。僕もこの冬から通うことになっているというと、


「私も、一緒に通えるように淑女教育がんばるね」


 と、可愛いことを言っていた。ならば、僕は何としてもこの冬に魔法学園へ入学しなければならない。


「わかった、急いで知らせてくれて感謝する。父に何か聞かれたら、僕は魔法学園のことで先生に相談しているみたいだと答えてくれ」


 察してくれたのだろう、アイラトは真剣な顔で頷いた。


「わかりました。では、私はお茶でも用意しましょう。旦那様が帰っていらっしゃったときに、お坊ちゃまはお勉強をされていた方がよろしいでしょうから。暫しの間お時間ができるかと。その間にご用意するご入用の物、お調べする事はございませんか?」


 僕が謹慎になった場合、父は罰としてアイラトとの接触を禁止すると考えているのだろう。それでも、謹慎と言う言葉を使わずに謹慎が解けたあと僕が少しでも動きやすいように準備をしてくれるというアイラトの有能さに感謝する。


「マリアンヌいや、マリアンヌ嬢がどう動くか観ていてくれ、あと、ジュリェッタがこの冬、魔法学園へ入学するのかどうかわかったら知らせてくれ」


「承知いたしました。では、お茶をお持ちします。先程、本家の使いの方がいらっしゃってましたから、もうすぐ旦那様から呼び出されるかと思われます」


「わかった」


 礼をして部屋を出るアイラトを見送り、覚悟を決めて手製の教科書へ目を向けた。


 程なくして、侍女が呼びに来た。


「旦那様が、お呼びです。書斎でお待ちになっていらっしゃいます」


「わかった」


 わかっていたとはいえ溜息が漏れる。重い腰を上げ、侍女の後をついて部屋を出る。書斎に着くまでの間頭をフル回転させる。


 父はさっきの使者にどこまで聞いたのだろう。侯爵から何と指示を受けたのだろう。取り敢えず謝り、聞かれたことを事実のみ伝えよう。どうせ、マリアンヌから伝わっているんだ。


 書斎に着き、どうぞと言われてドアを開け、入るように促される。リフリードが中に入ると侍女はドアを閉め出て行った。


 そこには深く椅子に座った父がいた。眉間にシワを寄せ足を組み、拳を握りしめている。


 リフリードの背中を冷や汗が伝う。


 思ったより不味いな。


「そこに座りなさい」


 努めて出しているであろう抑揚のない声で言われる。


「はい」


 返事をし、父の前の椅子に座り次の言葉を神妙な顔をして待つ。


「先程、侯爵より手紙を頂いた。マリアンヌ嬢との婚約破棄をお前から申し出たとあったが間違いはないか?」

 

「はい」


「何か、私に言いたいことはあるか」


 余計なことは言わないに越したことはない。


「いえ」


「わかった、私が良いと言うまで、部屋から出るな。後、お前の世話は、先程お前を呼びに来た侍女がする。彼女以外の使用人との接触を禁止する。勿論、アイラトともだ。わかったな」


 フリップ伯爵は、怒りを噛み殺しそう言い放つ。


「はい」


 もう行けと言われ、自室へ戻るとアイラトがお茶を用意して待っていた。


「お前の読み通りだよ」


 入れて貰ったお茶を飲みながら、アイラトに話す。


「左様でございますか、では、私はもう部屋から出た方が良いですね」


 そう言うと、アイラトは部屋から出て行った。


 机に向かい魔法学の勉強をする。


 マリアンヌの新しい婚約者は誰になるのだろう?


 そんなどうでも良いことが頭を過った。



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