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リフリード ①

リフリード視点です。話は最初に戻ります。

 僕には幼い頃に決められた婚約者がいる。母が切望して、父に頼み込んで決まった婚約者だ。沢山のライバルを押さえて、父が相手の家にかなり頼み込んで、実現した婚約だそうだ。相手は本家で、彼女の父親は宰相で、母は皇女、この国の筆頭侯爵家の一人娘。彼女との結婚イコール筆頭侯爵。誰もが羨む相手だ。


 王室の人間のような、凛とした隙ない美貌と佇まい。同い年の筈なのに、何事においても僕のだいぶ先を行く存在。何においても敵わない。筆頭侯爵の令嬢はこうあるべきだと見せ付けられる。彼女といると自分が不甲斐ないものの様な気がして居た堪れない。


 僕だって努力はしている。でも、魔法に関してはダメだ。いくら努力しても全く使えるようにならない。


 僕には、兄が二人いる。そのどちらも、今の僕の歳には魔法が使えた。2番目の兄に至っては魔法に関してとても優秀だといつも父が褒めている。母の実家から紹介して貰った家庭教師ではどうしようもないと、一番上の兄と母が奔走して新しい家庭教師を探してくれた。


 僕は新しい家庭教師が大好きになった。彼について習いだしたら、全く使えなかった魔法が使えるようになった。いつしか、侯爵になるための学習もさぼって、その家庭教師の家に入り浸るようになった。ここは居心地が良かった。比べられる兄弟も居ない。重い愛情と期待を押し付ける母もいない。優しい先生と、時折りくる可愛い妹弟子のみの世界。


 僕が妹弟子を好きになるのに時間はかからなかった、婚約者であるマリアンヌと真逆の可愛らしい女の子。


「これ、どうしたらいい?」


 と聞いてきて、自尊心を満たしてくれる。

 

「マドレーヌ、焼いたの。一緒に食べよう」


 と、可愛く誘って来る。


 僕が失敗しても、不甲斐ないもっと努力をという冷めた眼差しで見てくるマリアンヌとは違い。


「リフリード様は頑張ってます。次はきっとできます」


 と励ましてくれる。次はもっと頑張ろうという気持ちになれる。


 マリアンヌとは違って、一緒に居ると安らぎ、守ってあげなければと思える存在。いつしか、彼女と結婚したいと思うようになり、マリアンヌの存在が、追い付かなければならないものから忌むべきものへと自分の中で変わっていく。

 

 結婚を辞めたいと父親に言ったら、絶対に考え直せと言われるに決まっている。向こうからの婚約破棄ならともかく、家からは絶対にできないと言われている。父には相談できない。


 ましてや、僕が侯爵になることを夢みている母には相談できる筈がない。


「貴方は、侯爵になるのよ。その為に、叔母様は侯爵家の後妻に入ったのだから。フリードリッヒとは母親の実家の爵位が違うの、貴方の方が優秀に育つはずなんですから」


 と呪いのように小さい頃から母に言われて育った。お陰で、母親違いのすぐ上の兄は疎ましい存在だ。彼が騎士団に入って、家に寄り付かないでいることは非常に喜ばしい状態だった。


 鬱々と過ごす中、たまたま先生の所で出会ったルーキン伯爵に言われた言葉を思い出す。


「ジュリェッタ嬢と一緒にいたいなら、婚約破棄を君の父親を通さずにマリアンヌ嬢に申し渡したら良いよ。彼女はプライドが高いから上手くやってくれるよ。それに、ジュリェッタ嬢は男爵令嬢だ。彼女と一緒になって男爵を継いだらいいじゃないか。彼女は治癒魔法が使えるんだ、もしかしたら、王族の血が入っていて陞爵するかもしれないだろ?」


 その通りだと思った。ジュリェッタはマリアンヌに負けないくらいの魔法が使える。


 ジュリェッタの言う通り、侯爵家をジュリェッタと継ぐことができるかもしれない。ジュリェッタは、巷で聖女と呼ばれている。予言の能力もあるのだから。


 よし、マリアンヌに婚約破棄を言い渡そう。


 久しぶりにマリアンヌへ手紙を書く。


 流石に、侯爵家へ出向き婚約破棄を言い言い渡す訳にはいかない。家に来てもらうか。父が居ない日がいいな。


 日時を指定して、相談があるので来て欲しいと手紙に認めロウで封をし自分の刻印を押し、執事を呼びマリアンヌに直接渡すように念を押す。


 その日、マリアンヌが来た。


「大事な話がある、二人きりで話したい。」


 マリアンヌを中庭に誘う。今は、色とりどりのビオラが見頃だ。庭の真ん中に植えてある金木犀から良い香りが漂って来る。


「お嬢様。」


 ユリが二人きりはと言っていたがマリアンヌが視線で制していた。こういう物分かりの良い所は有り難い。ジュリェッタなら、ユリを連れていくとごねただろう。


「馬車で待っております」


 ユリはそう言うとその場を後にした。


 中庭の金木犀の木の下まで誘う。意を決して口を開く。


「申し訳ないけど、婚約破棄をして欲しい」


 さすがのマリアンヌも泣き崩れるかな?と思ったが、ビックリはしたみたいだが、表情すら崩さず堂々とこちらを観てハッキリとした口調で返された。

 

「婚約破棄と言われましても、私の一存ではどうしょうもございませんの。理由を説明してくださる?」


 あまりにも平然と返されたのでビックリした。


 君はこんな時まで冷静なんだね、マリアンヌ。


 マリアンヌが冷静な事が腹立たしかった。自分との婚約など取るに足りぬことだと言われているように感じた。こちらから婚約破棄を申し渡したのに、むこうから貴方はいらないと言われたような気がして余計なことまで口走る。


「僕は、君との結婚を望んでいない。君だって、わかってるだろ。僕は君みたいな傲慢な女性は嫌いなんだ。いつも、僕を見下しているじゃないか。その内わかる事だから言うけど、僕はジュリェッタと想い合っている。彼女と結婚の約束をした。彼女は儚げで優しい、君とは大違いだ。その上、君は僕より歳上だ。なぜ、年増の君と結婚しなければならない!」


 本当はもっと穏便に頼み込む筈だった。君の事が嫌いでは無いんだ。だだ、自分に自信がないんだ。だから、婚約を破棄しても僕が不利になるようなことはしないでくれと。


 できれば、ジュリェッタ嬢は治癒魔法を使える、王族の血が入っているかもしれない。と、君から陛下へ伝えて欲しい。と言うつもりだった。そうすれば陞爵が叶いやすい。


「このことをフリップ伯爵はご存知ですの?ご存知とは思いますが、この婚約は、貴方様のお父様であるフリップ伯爵から申し込まれたものですのよ。婚約破棄の打診でしたら、まずは、フリップ伯爵から私の父にその旨を伝えるのが通例ではなくて」

 

 そんなこと君に言われなくてもわかってる。だから今まで、こんなに悩んだんだ。完璧な君には解らないような悩みだけど。


「こちらから婚約破棄できないのは、わかっている。だからこうして、君に婚約破棄をして欲しいと頼んでいるんだ。」


 マリアンヌは、小さく溜息をついた。


 僕はツバを飲み込んだ。


「わかりましたわ、私からお父様にお伝えいたしますわね。よろしくって?」


 マリアンヌが冷静な人間で助かった。


「ありがとう。君が同意してくれて助かったよ。」


「では、これで」


 話は終わったとくるりと向き直り、その場から去ろうとするマリアンヌに慌てて声をかける。


「ちょっと待って!」


 一応、何と侯爵に伝えるか聞いとかなくては!


 マリアンヌはまだ何か?と言うようにリフリードの顔をみてくる。


「いや、あの。婚約破棄、どのように侯爵に伝えるのか気になって」


 僕の人生において困ったことにならないように上手く伝えて貰いたい。特にジュリェッタのことをそのまま伝えられたら困る。僕のことで彼女にまで危害が加わりかねない。


 マリアンヌは不思議そうにリフリードに答えた。


「ありのままですわ。」


「それでは困る」


 食い気味でリフリードは叫ぶ。


「それだと、ジュリェッタに迷惑が掛かる。それに、僕が父から叱られるだろう。」


「そう仰られても、事実ですし…。何よりお父様に嘘はつけませんわ。そうですねー。では、ジュリェッタ嬢の名前だけ伏せてお伝え致しますわ。すぐに、露見するとは思いますが。少しの時間稼ぎぐらいできるかもしれませんわよ。」


 そう言って、マリアンヌは足早に立ち去った。


「わかった。」


 僕は力なく小さく呟いた。


 取り返しのつかない事をしてしまったかもしれないと言う後悔だけが後に残った。

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