リマンド侯爵夫妻の夜会 ⑩
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「スミス侯、夫人良くいらして下さいました」
スミス侯爵、皇后陛下のお兄様。意思の強そうな切れ長の緑がかった青の瞳にくすんだ金髪。皇后陛下によく似たお顔。横には美しく、柔和で聡明な奥方。
「宰相におかれましては、愚妹がお世話になっております。本日はマリアンヌ嬢の誕生日パーティーにお呼び頂きありがとうございます。マリアンヌ嬢、おめでとう」
「いやいや、皇后陛下はよくできたお方です。取り立てて、お手伝いするようなことはございません」
リマンド侯爵の言葉にスミス夫人がにこやかに返す。
「マリアンヌ嬢、おめでとうございます。宰相夫人に似てますますお美しくなられて。義妹からは宰相に大変よくしていただいていると聞き及んでおりますわ」
簡単な挨拶からの当たり障りのない社交辞令、側に居る方々が何食わぬ顔をして聞き耳を立てていらっしゃるのがひしひしと感じられる。
「ありがとうございます。スミス侯爵、夫人」
マリアンヌの礼の言葉を聞いた後、本題とばかりにスミス夫人がフリードリッヒに目を向ける。
「マリアンヌ嬢のお隣にいらっしゃる方は紹介していただけませんの?」
その言葉にリマンド侯爵はフリードリッヒに目配せする。フリードリッヒは、二人に礼をとり挨拶をする。
周りが、一気にこちらの話に集中した気が致しますわ。皆様が一番興味をお持ちの話ですものね。
「フリップ家の次男、フリードリッヒで御座います。以後どうぞ御見知りおき下さい」
フリードリッヒから挨拶を受けると、スミス夫妻は矢張りという風に互いに顔を見合わせる。
「では、マリアンヌ嬢の婚約者が、そちらのフリードリッヒ殿に替わられたという噂は本当だったんですね。皇后陛下から聞いたときはにわかに信じ難い話だったもので、真意の程を測り兼ねていましたの」
「フリードリッヒは、婚約者候補とでもしておきましょう。婚約者をころころ替えるわけにはいきませんのでな」
リマンド侯爵はいつもの柔和な笑顔でスミス侯爵夫妻へ返した。
「しかし、婚約者が替わるとは何があったのですか?」
「先方から相談がありましたので…。彼もいろいろ荷が重かったのでしょう。マリアンヌと同い年ですからね…?」
リマンド侯爵は心痛な面持ちで言葉を濁しつつ、わかるでしょと言わんばかりだ。
「そうでしたか。しかし、婚約者候補とは?」
「彼は能力の方は問題は無いのです。後は娘の気持ち一つということですね。最近まで、リフリード殿と思っていたので気持ちの整理がね?」
「今、私は必死で口説いている最中なのです。元々、マリーは私の初恋の相手なのですから」
フリードリッヒは、侯爵の言葉を受けスミス侯爵にそう言うと、ねぇ、とマリアンヌに流し目を送る。
止めて下さい、兄様。スミス夫人も呆れてますわよ。それに、恥ずかしいじゃないですか。なんだか周りの女性達の視線が一層きつくなった気が致しますし。
「まぁ、それはご馳走様」
スミス夫人は楽しそうに顔を綻ばせると、扇で口元を押さえた。リマンド夫人はフリードリッヒのその言葉に御満悦らしくご機嫌だ。
「ふふふ。私はフリードリッヒがマリーと結婚してくれることを願ってますわ」
スミス夫妻が去ると、ソコロフ侯爵夫妻が息子を連れて挨拶に来る。壮年の髭を蓄えたがっしりとした人物だ。武を重んじる家だけあって直実な人柄である。彼も騎士であり、この国きっての将軍のひとりだ。彼の象徴紋はその雰囲気にも似合う鷲である。夫人は、痩せ型の少し神経質そうな美人。凛とした佇まいの女性だ。
「これは、ソコロフ将軍よくいらっしゃいました。本日は我が娘、マリアンヌの為にお越し頂き有難う御座います」
リマンド侯爵はいつも通りの、のほほんとした頼り無い笑みで挨拶する。
リマンド侯爵はソコロフ将軍と当たり障りのない挨拶を交わす。
「これは、我が家の四男のミハイルです。ミハイルがそこにいらっしゃるフリードリッヒ殿と友だから連れて行けと聞かなくてね、今回同行をさせることになりました」
ソコロフ侯爵にせっつかれ、ミハイルは挨拶をする。前回会ったときのおちゃらけた雰囲気はなく、ちゃんとした侯爵家のお坊ちゃんの顔だ。
「ソコロフ家四男のミハイルでございます。フリードリッヒと同じく近衛として城で仕えております。宰相閣下、どうぞお見知り置きを」
気を利かせたリマンド侯爵が、フリードリッヒとマリアンヌに声をかける。
「フリードリッヒ、マリー、積もる話もあろう。ミハイル殿と少し外しなさい。頃合いを見て戻って来てくれたらいいから」
「はい、お父様」
「はい、宰相。お気遣いありがとうございます」
リマンド侯爵の言葉に甘える形で、3人は席を外し、椅子のある所へと移動した。
「ミハイル、お前こういう場は苦手じゃなかったのか?」
壁側に用意されていたソファーに座ると、フリードリッヒがミハイルに訪ねた。ミハイルは、メイドからシャンパンを受け取るとそれに口を付ける。
「得意じゃあないな、だが、お前の想う女性の誕生パーティーだろ、これは、何を置いても参加せざるを得ないじゃないか」
マリアンヌが葡萄ジュースを選んでいるうちに、ミハイルはこそっとフリードリッヒへ耳打ちする。
「なんだよ。この執着の塊は、ドレスに宝石の類いまで全て青薔薇とは、なに?全身にオレのって、刻印しとかなきゃ気が済まないの?」
「当たり前だ。やっと手に入れたのに、他に掻っ攫われでもしたら後悔しきれない」
ミハイルのからかいの声に、真顔で答えるフリードリッヒにはぁ、揶揄う気にもなれないよ、小さく溢した。
マリアンヌは受け取った葡萄ジュースで喉を潤していると、斜め前から射抜くような視線を感じる。そちらを向くと、リフリードと水色の髪にピンクのドレスの凄く可愛らしい美少女が目に入った。リフリードはその美少女をエスコートしているようだ。二人がゆっくりこちらへ近づいて来る、マリアンヌはフリードリッヒの袖を軽くひっぱった。二人から目が離せない。
「リフリード様がこちらへいらっしゃいます」
リフリードの視線にこの言葉を伝えるのが精一杯だ。
やっと、ヒロインandリフリード登場です。




