リマンド侯爵夫人の夜会 ⑨
やっと夜会に入りました。もう少しお付き合い下さい。
今日は、私、マリアンヌの誕生日です。我が家は、いまその準備に大忙しです。私とお母様は朝からお風呂に入り、自分の準備で大忙しです。お父様はご自分の仕事を、兄様も手伝われているみたいです。
では、誰が準備をしているかというと、我が家の優秀な侍女長が仕切っております。私の乳母で、セルロスの母であるソフィアです。王都の屋敷はソフィアの指示で動いていると言っても過言ではありません。ちなみに、私の乳姉妹は領地にいるリサです。今日は、そのリサも手伝いに駆け付けてくれました。
今日は、ユリとリサ二人で準備をしてくれます。私の為だけに人数は割けませんから。でも、一番気心が知れた2人ですので安心です。
「今日は、ドレスが落ち着いた色なので髪はアップにいたしましょう。口紅はヌードピンクにいたしましょう。エスコートがフリードリッヒ様ですので全体を大人っぽく仕上げようと思います」
ユリとリサが張り切ってます。テキパキ動く2人に鬼気迫るものを感じ少し怖いくらいです。
メイクを施され、髪を結われ、コルセットを締められ、ドレスを着せられ、ジュエリーを着けてもらう。
「はぁ、綺麗ですわお嬢様。」
「本当、このドレスはお嬢様の為だけの物ですわね」
2人は口々に褒めてくれます、うちのお嬢様フィルターが掛かってるんでしょうけど、それでも褒められると嬉しいものですわ。
ユリが、仕上げにコレをと髪に布で作った青薔薇を差してくれました。
「コレは私とリサからのお嬢様への誕生日プレゼントです。誕生日おめでとうございます。」
「ありがとう、ユリ、リサ。」
素敵な誕生日プレゼントです。泣きそうです。
昨日の夜からふたりで徹夜で仕上げてくれたそうです。どうしても、このドレスには青薔薇の髪飾りがって!
「本当に間に合ってよかったわ。空が明るくなってきて本当に慌てたわ」
って、リサが言ってます。
「でも、ふたりとも私のために無理はしないでね。」
「いえ、お嬢様を美しく着飾ることは、お嬢様だけのためではありません。私達のプライドの問題です。」
力強く言われてしまいました。もう、何も言いません。コレが彼女達の仕事ですよね。私の為に頑張ってくれているのです、彼女達の為にもしっかりしなくては!
ドアがノックされて、フリードリッヒが入って来た。マリアンヌと揃いの礼服を身に纏っている。物語に出てくる王子様さながらの出で立ちだ。
素敵。
まるで物語のワンシーンのよう
うっとりと見惚れているマリーにフリードリッヒは恭しく手を差し出す。
「マリー素敵だ。とても綺麗だよ。こんな美しい君をエスコートできるとは光栄だよ。お手をどうぞ、俺のお姫様。」
差し出されるまま手を取る。夢心地のまま、導かれるまま足を進める。人の騒めきが聴こえて我に返る。
怖い。
ジュリェッタ嬢もリフリード様もいらっしゃるのよね。そして、分家の貴族達。リフリード様と婚約破棄をした事に興味津々の人々。今日の話題は専らそのことでしょう。その話題の中、注目を集めて入って行かなければならないのよね。気が重いわ。
足が竦む。
行きたくない。
「大丈夫。側にいるから」
フリードリッヒは優しく、耳元ではっきりとマリアンヌに伝える。マリアンヌが見詰めるとしっかりと頷いた。
大丈夫。
意を決して、足を前へ進める。侯爵令嬢の顔を貼り付け、背筋を伸ばし優雅に階段を降りる。ホールから痛い程の視線を感じる。騒めきが聞こえる。
大丈夫、好意的なものも多い。
女性の嫉妬も多いわね。兄様にエスコートして戴いたら当然ですわね。これは想定内です。
リマンド侯爵の挨拶が終わり、演奏が始まる。マリアンヌはフリードリッヒにエスコートされホールの真ん中で踊る。横ではリマンド侯爵夫妻が踊っている。
まずは、主催者がファーストダンスを踊り、夜会がスタートするのが通例だ。
マリアンヌがターンをする度に、ドレスの裾の色合いが変わる。
「まぁ、あのドレス綺麗。」
「光の加減で、色合いが変化するんですね」
「どこで、作られたのかしら?」
流行りや美しいものに聡い令嬢たちが、マリアンヌのドレスに興味を示す。
2組の完璧なダンスに会場中の視線が集まる。
「侯爵夫妻のダンス相変わらず素敵ですわね。マリアンヌ様もお上手ですわね。私、マリアンヌ様が踊ってらっしゃるところ初めて見ましたわ。」
「マリアンヌ様のお相手の方は?素敵な方ですわね。」
「フリップ伯爵家のフリードリッヒ様ですわよ。確か、騎士様だったと」
「では、婚約者が替わったと言う噂は本当でしたの?」
「今、踊ってらっしゃると言うことは本当ですわね。」
「まぁ、ではリフリード様には侯爵という地位は荷が重かったということですの?」
「リフリード様とマリアンヌ様が不仲だと私は聞きましたわ。マリアンヌ様がデビュタントの時、リフリード様はエスコートして登場なさったきりで直ぐに他の御令嬢と楽しんでらっしゃったじゃない。」
「そうでしたわね」
「次男のフリードリッヒ様が婚約者ということは、フリップ家が問題を起こしたと言う噂は嘘ということですわね。」
彼方此方で、マリアンヌのエスコートをフリードリッヒがしていることへの憶測が飛び交う。
お父様の目論み通りね。
マリアンヌは安心して、フリードリッヒに目をやると、蕩けるような笑顔で見られていたと知り居た堪れなくなる。
「マリー、踊っているときは俺だけを見て、ダンスを楽しんで」
優しく語り掛けられ、顔が熱くなっていく。
「もう、兄様ったら」
クスクスと楽しそうにしているフリードリッヒのせいで緊張が一気に解けてしまう。
そうね、せっかくの誕生パーティーですもの楽しまなきゃいけませんわよね。
曲が終わり礼を取ると、他のペアがホールの中央に集まってくる。マリアンヌ達が中央から捌けると曲が始まり皆が踊りだす。
マリアンヌはフリードリッヒと共に侯爵夫妻と挨拶回りをする。まあ、こちらから行くのではなく、向こうから出向いてくるのだが、ちゃんと順番があり地位の高い人からやって来る。貴族とは自分の立場を理解して、ちゃんとその瞬間に挨拶へ行かなければならない。かと言って、挨拶している人を凝視していてはいけない。なかなか、難しいものである。
ブックマーク、評価ありがとうございます。




