リマンド侯爵夫人の夜会 ⑧
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いつの間にかマダムの店に着いていた。
嫌ですわ、マダムの店で2回続けて心ここに有らずでは失礼ですわね。
気合いを入れ直し、きちんと侯爵令嬢の顔になり中に入るとマダムがニコニコ出迎えてくれた。
「お待ちしておりました。マリアンヌお嬢様、フリードリッヒ様。ドレス仕上がっておりますわよ、会心の出来栄えですわ」
マリアンヌは試着室へ通され、姿見の前でお針子達に着付けられる。濃い青のシルクのドレスは胸元と背中が大胆に空いたデザインだ。上半身はぴったりと身体のラインに添い、下はふわりとしたシンプルな作りだが動くと光の加減で光沢が出る。後ろの腰の所には大きなリボンが付いている。スカートの部分には正面をずらして大きな一輪の薔薇が青い糸で刺繍されていた。
青薔薇。これが意味するものをマリアンヌは知っている。フリードリッヒの紋章。この国の騎士は成人する時に自分の紋章を選ぶ。そして、剣や槍、盾、制服など自分の持ち物に紋章を入れる。似た様な持ち物の多い騎士達が、名前がわりに使うのだ。
このドレスにフリードリッヒの愛と独占欲を感じる。
嬉しい。
単純にそう思った。先程までグルグル考えていたことが頭から全て消し去られる。
カーテンが開き、同じ色の礼服を着、ソファーに座ったフリードリッヒと目が合う。
濃い青のジャケットが白銀の髪によく映え、見詰められるとドキッとしてしまう。
「綺麗だマリー。まるで夜の女神だ。いや、夜の女神より美しいよ。想像以上の出来だ。マダムありがとう。」
フリードリッヒは、立ち上がりマリアンヌの前まで来ると。マリアンヌを一回転させた。
「この生地の光沢は、シンプルなデザインほど映えますわ。良い布です。リマンド侯爵に、仕入れるのでほかの色も用意して下さるようにお伝え下さい。」
この布、我が領土で最近改良したシルクだわ。マダムに言われるまで気がつかなかった。いつの間にか、マダムに宣伝されている。
フリードリッヒの手腕に驚いた。いつ持ち込んだのかしら?
「わかりました、マダム。布の件は帰り次第侯爵に伝えて、直ぐにでも持たせましょう。色はどういたしましょう。」
「そうね、取り敢えず全ての物を1巻ずついただけるかしら?詳しい交渉は布を持って来て頂いた時に、ほかの色もみながらで宜しいかしら?」
「はい、マダム。ありがとうございます。」
あっという間に商談が決まってしまう様子に感心してしまう。
「マダム。この前話していたこのドレスに合わせたジュエリーが出来たので、今、マリーに着けても?」
ジュエリー?聞いてないわ。前回訪問したときに話した内容なのかしら?
話がわからずポカンとしているマリアンヌを尻目にフリードリッヒは先程から持っていた袋の中から綺麗な細工を施してある木箱を取り出した。
「マリー、誕生日おめでとう。一日早いけどね」
「ありがとうございます…。開けても。」
「勿論」
状況のつかめないマリアンヌは、呆然としている。渡された箱を開けるとドレスと同じ生地の布が貼られ、その上にプラチナであしらわれた薔薇をモチーフにしたダイヤのネックレスとそれと揃えて作られたイヤリングが入っていた。
「綺麗…。最高の誕生日プレゼントですわ。」
「貸して、着けてあげる」
マリアンヌの後に回りネックレスをつけてくれる。
「髪、上げてて」
マリアンヌはフリードリッヒの言葉に従い、髪を片側に寄せ持ち上げる。首筋にフリードリッヒの息が掛かる。前に回り片側ずつイヤリングを着けてもらう。綺麗な顔が息の掛かるくらい近くに来る。顔が近づく間、息が止まる、鼓動が高鳴る。
「可愛い、マリー。よく似合ってる。」
兄様にアクセサリーを着けて頂くと心臓に悪いですわね。ユリだと全くどうもありませんのに。ユリも可愛いです、お嬢様。よくお似合いですよ。って言ってくれます。私のお嬢様は世界で一番ですとも言ってくれます。くすぐったい、温かい気持ちにはなりますが、兄様に言われたときはドキドキと心臓が煩く、顔が熱くなります。同じことを言われてるだけですのに…。どうして?
「ありがとうございます。大切に使いますね。」
「ああ、本当はドレスも俺がプレゼントしたかったんだけどね。君のご両親からのプレゼントだから。デザインは好きにさせていただいたから、少し申し訳なかったかな…。」
兄様は少し困り顔です。そんなことはありません。こんな素敵なデザイン、私は思い付きません。マダムに頼むこともありません。
「いいえ、ドレスもとても素敵です。私では思い付かないデザインですわ。マダムも、お針子の皆様もありがとうございます。とても素敵なドレスですわ。」
明日の誕生日パーティーが楽しみです。
兄様と馬車で家路を急ぎます。洋服を買って頂く予定でしたが、ドレスとアクセサリーを持ってうろうろしたくなかったので、また後日連れて行って頂くことにしました。




