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リマンド侯爵夫人の夜会 ⑦

 馬車が停まり、兄様のエスコートで店へ向かいます。この店は店のだいぶ手前に馬車を停める所があり、そこから歩いて店まで向かうスタイルのようです。繁盛店のようで、馬車を停める所には沢山の馬車が停まってます。高級品を取り扱う店が建ち並ぶ地区なだけあって、どの店も外観はとても美しく華やかです。足下は石畳になっており、雨の日でも安心して歩けます。


 店に着くと兄様がギャルソンに名前を告げます。 


「フリップ様、此方へどうぞ」


 兄様、予約されていたのですね。これはもてる筈です。


 ギャルソンに案内され、奥の通路を進み、螺旋階段をあがり、カーテンで仕切られた一室へ通された。通路を背に横並びに椅子が配置されていて、正面は一面ガラス張りになっており、眼下には市井のマルシェが見える造りだ。


「まあ、素敵ですわ。」


 マリアンヌは感嘆の声をあげる。


「喜んで貰えたようで、良かったよ。ここは、見ての通りマルシェの裏手にあるから、野菜も肉も新鮮なんだ。マリーは、嫌いなものは無かったよな?」


「ええ。ございませんわ」


 フリードリッヒはメニューを片手にギャルソンへ何やら告げる。ギャルソンは、フリードリッヒと二言三言話し、軽く頷き会釈をして出て行った。マルシェに夢中のマリアンヌはその様子には気が付かない。


 店先に色とりどりの赤や緑色、紫色のものが綺麗に積まれている一店が目に留まった。


「兄様、あれはなんですの?」


 フリードリッヒは、楽しそうにマリアンヌが指す方に目を向ける。


「ああ、あれは野菜を売っている店だ。その横は、フルーツの店だよ。今度一緒に行ってみるかい?」


 花を売っている店、肉を売っている店どれも目新しく刺激的な世界です。あちらの店ではなにやら食べ物を売っているみたいですわね。皆様、大きな葉に包んだ物を食べてらっしゃいます。沢山の人が忙しく行き交って活気付いてますね。

この国が安定しているということでしょうか。


「よろしいんですの?」


 勿論、行ってみたいに決まってます。


「いいよ。あそこはまだ、治安もいいし。俺もよく行く。案内しよう。」


「ありがとうございます」


 ふふふ。楽しみですわ。どこを回りましょうと思いを巡らせているうちに、料理が運ばれて来ました。


 赤や紫、黄色や濃い緑、薄いみどりの色鮮やかな美しいサラダからスタートし、黄色い南瓜のスープ。柔らかなお肉、焼き立てのパンとどれもとても美味しかったです。


「どう?満足して頂けた?お姫様」


 食後のデザートのプリンとフルーツの盛り合わせをいただきながら、紅茶を飲む。


「はい。とっても。このマルシェを眺めながらの食事は、とても新鮮でお料理も色鮮やかで美味しかったです。ありがとうございます兄様。」


 とっても満足です。非常に有意義なランチタイムでした。このお店、慣れていらっしゃるみたいですけど、以前誰といらっしゃったのでしょう。男同士で来るような店でないことは私でもわかります。何か胸の奥がチクリと痛むような気がします。ここに以前兄様といらっしゃった人はどのような方なのかしら?その方と兄様の関係は?もやもやとした疑問が心の中で首をもたげます。


「マリーどうした?」


 フリードリッヒは、急に硬い顔になり黙り込んだマリアンヌを心配そうに見る。


「いえ、市井の方の暮らしを全く知らなかったなと思いまして」


 マリアンヌは慌てて繕う。


「マリーは勉強熱心だね。でも、市井をうろうろするにはその服は目立つな。そうだ、マダムの店の帰りに服を買って帰ろう」


 フリードリッヒは楽しそうにマリアンヌに言った。


 女の子が服を買う店も知ってるんですか?そこも、ここに一緒に来た方と一緒に行って、服を買ってあげたことがあるんですか?


 ふつふつと湧き上がる疑問に蓋をしてマリアンヌは、笑顔で答える。


「はい、楽しみです」


 店を出てもと来た道を戻ります。あれ、兄様行きは何も持ってらっしゃらなかったような。左手に袋を持ってらっしゃいます。その中には箱のような物が入っているような。でも、ずっと一緒にいましたし、兄様だけどこかに行ったってことは絶対ありえません。


「フリードリッヒ、フリードリッヒ!」


 後ろからフリードリッヒを呼び止める声がした。


 振り向くと、この前城で馬車のドアを開けてくれた近衛兵と、案内をしてくれた侍女がいる。侍女は軽く頭を下げ、近衛兵はニコニコしながら、フリードリッヒの肩に手を掛ける。凄く仲良さそうな雰囲気だ。


「騒がしいな、ミハイル。こんな所で呼び止めるな。」


「まあまあ、いいじゃないか。」


「どうして、お前がここにいる?」


「見ればわかるだろ、仕事だよ。」


 フリードリッヒは鬱陶しそうに手を払い除ける。ミハイルはそれを意にも介さず。マリアンヌを見る。


「なぁ紹介して、減るもんじゃ無いし」


「いやだよ。減る。」


 フリードリッヒは心底嫌そうだ。


 こんな兄様初めて見ますわ。私と一緒の時には見せない、鬱陶しそうな表情とか、気安い口調とかに親密度を感じますわ。


「マリアンヌ・エカチェリーナ・リマンドでございます。」


 マリアンヌは取り敢えず、カーテシーをしてミハイルとその横の侍女に挨拶する。フリードリッヒは、こんな奴に挨拶しなくても良いのにとぶつぶつ言っていた。


「うわー。噂以上だ。そりゃ、手紙が来たら速攻帰るわ。あっ、俺は、ミハイル。コイツの同僚で同期そして、同じ部屋。コイツのことなら、なんでも知ってるから聞いてね。で、こっちは、城の侍女、アナスタシア」


「アナスタシアです。」


 いきなり、紹介されたアナスタシアは、ビックリした様子で慌ててカーテシーをとる。


 案内して頂いたときも思いましたが、綺麗な方ですね。何処と無く儚げで女の私でも守ってあげたくなるような。


 ミハイルとフリードリッヒが戯れていると、アナスタシアがマリアンヌの横へ来て耳元で囁いた。


「好きでないんなら、解放して下さい。フリードリッヒ様の人生を縛り付けないで下さい。フリードリッヒ様からは拒否することは出来ないんですよ。わかってます?」


 一瞬何を言われたのかわからなかった。慌てて、侍女の顔を見る。彼女は、何事も無かったかのようにミハイルと去って行った。


「とんだ邪魔が入った。マリーごめんね、さっ、行こう。」


 兄様に腰に手を廻され、馬車の方へと促されるまま歩き出す。先程、言われた言葉が頭の中をグルグルと駆け巡る。


 兄様に拒否権は無い。先程のアナスタシアという侍女に言われなければ気が付かなかった事実に愕然とする。


 もしかして、先程の侍女と食事に行き、服を見に行ったのでしょうか…。




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