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リマンド侯爵夫人の夜会 ④

 侯爵は紅茶を一口、口に含むと口火を切った。


「セバス、説明してくれ。」


 セバスは何から話しましょうかね、と考えながら、太腿の上に肘をつけ両手を組み。真剣な面持ちでゆっくりと言葉を紡ぐ。


「はい。リフリード様とジュリェッタ嬢が出会われたのは、折しも竜討伐の直後でした。場所はご存知の通りリフリード様の家庭教師の御自宅です。ジュリェッタ嬢が陛下よりお呼び出しがかかるまでの一月程、毎日一緒にお過ごしになられたようです。」


 そう言えばその頃から、リフリード様からの手紙が途絶えた気がします。元々、少なかったので大して気にもしなかったのですが。確かにその一月、リフリード様にお会いしませんでしたわね、普段であれば、週に一度は一緒に学習するのですが連絡もなくお休みされていましたわ。


 私はそれも忘れるくらい、リフリード様のことどうでも良かったんですのね。


 ソファーに深く座り脚を組み、優雅に紅茶に口を付けていた侯爵は片眉をぴくりと上げ、カップをソーサーの上に戻し、視線をセバスに向けた。


「ああ、確か親子以外彼らのパーティーのメンバーは死亡したのだった。それで、その亡骸を弔うと共に、彼女の父親も酷い怪我を負っていたのでな、その治療も兼ねて、約一か月登城が遅くなったな。確か、知り合いの魔道士に見て貰って…、その者の家に厄介になる様なことを言っておったな。治癒魔法士と住む場所を用意しようと言う陛下の言葉を断って…。」


 セバスは、侯爵の視線にゆっくりと頷いて答える。


「はい。問題は、偶然なのか、必然なのかでございます。偶然であれば、大した問題ではございません。しかし、必然であれば…。」


「誰が糸を引いているかか…。フリップ第一夫人、彼女も利用されているやも知れぬな…。」


 侯爵はしばしば考え、フリードリッヒを見る。


「義母上は、どの様なご様子でしょう?義母上は、リフリードを一番愛しています。彼が、侯爵になることへ最も情熱を注いできたはずです。そのリフリードがこの様な事態になったのであれば心中穏やかで過ごせる筈はありません。」


「それが、落ち着いてらっしゃいますよ。何か仰って来るのでは?と身構えておりましたが、何の音沙汰も無く。フリードリッヒ様の母君に何かするのではとそちらも警戒していたのですが、それも無く。」


 セバスは意外でしょう?と、含みのある笑みを浮かべる。


「義母上は大人しくしているような人物ではありません。親父が止めても自分の実家に頼って何かして来る…。あっ、では、オルロフ伯爵家もかかわっているのでしょうか?」


 フリードリッヒは眉間に皺をよせ、溜息を一つ吐き重い口を開いた。


「いや、それは無い。オルロフ伯爵家はリフリードとの婚約破棄の件の説明を求めてきた」


 侯爵のその言葉にフリードリッヒは眉間の皺を少し緩める。


「魔道士と夫人の関係はわかるかね?」


 侯爵はフリードリッヒとセバスの顔を見る。


 フリードリッヒは意を決したようにぽつぽつと話し始める。

 

 フリップ家の恥部ですものね、優しい兄様には話しづらいに決まってます。


「以前、兄上から良い魔法学の先生はいないかと手紙を貰ったことがあります。オルロフ伯爵家から紹介して頂いている魔道士の方では、リフリードの魔法が思うように上達しなかったのでしょう。兄上も大分焦っている様子が文面から伝わりました。生憎、私にその伝手はありませんでしたので、その旨返事をしました。それが、約一年半以上前です。」


「では、その時に雇い入れたのがその魔道士だったと、しかし、何処から紹介されたのでしょうか?オルロフ伯爵家では無いとしたら…。では、その件は領地へ戻りましたら調べましょう。」


「ああ、頼むよ。セバス」


 侯爵とセバスは顔を見合わせて頷いた。


 そう言えば、リフリード様が魔法を使えるようになったのと丁度時期が被りますわね。魔法を使っている姿を見せることを嫌っていたリフリード様をあそこまで自信を持って上手に使えるようにするなんて…。


「お父様、その魔道士の方優秀な方ですの?」


「ああ、そのようだ。なぜ、マリーはそう思う?」


「リフリード様が魔法を見せて下さるようになったのがそのくらいだったと記憶しております。優秀な方であれば魔法学園の卒業生、それもAクラス在籍だった方ではございませんの?」


 侯爵は破顔してマリーの頭を撫でる。


「マリー、失念していたぞ。さすれば、魔道士がどの様な人物で誰と繋がりがあるかわかるではないか」


 お役に立てて良かったです。


「セバス、その者の名と、歳はわかるか?」


「はい。ミハイロビッチ、歳の頃は25〜30だと」


 セバスの言葉にフリードリッヒが驚く。


「ミハイロビッチだって!嘘だろ?いや、でもまさか…。」


 フリードリッヒはありえないと言う顔をし、考え込んでしまった。


「知っておるのか?」


 侯爵が問う。


「はい。しかし、同一人物かどうかはわかりません。私が魔法学園に通っていた時に同じ名前の者がいました。Aクラスではありませんでしたが、優秀な人物でした。ただ、実家の子爵家の経済状況が思わしくなく。爵位を返上したと聞いています。其の後のことは分かりかねます。」


「そうか、クロウ調べてくれ」


 クロウは小さく返事をして、音もなく窓から出て行った。

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