リマンド侯爵夫人の夜会 ①
「マリー、予約してあるから、この後フリードリッヒとマダムの所へ行きなさい。今度の夜会用のドレスを作るの。本当は私も一緒に行きたいんですけど、招待状の準備で忙しくって」
朝食を皆で頂いていると、ウキウキとお母様がおっしゃいました。
マダムとはお母様が懇意にしているデザイナー。お母様が城にいた頃からのお付き合いらしく、王都でも中々予約が取れない人気の方です。本来なら、来て頂いてドレスを作るのが一般的なのですが、マダムのお店は沢山の生地があるため、出向くスタイル。
「お母様、よく予約が取れましたわね?」
だいたい、一年先まで予約で一杯のはずですが。
「ふふふふ。前々から、王都にいる時期は一月にひと枠とってるから大丈夫よ。フリードリッヒも一緒に新調なさい」
お母様、今とんでもないことをサラッと仰いませんでした?一月にひと枠って、マダムのお店すっごく高いんですよ。1日に1組だけの高級店ですのよ。よく、我が家潰れませんでしたわ。お父様、お疲れ様です。
マリアンヌの視線を感じたリマンド侯爵夫人は、慌てて言葉を続ける。
「一月にひと枠と言っても、お友達や皇后に譲ることもよくあるのよ。ですから、年に8着マダムの所で作ってるわけではないわよ。」
お父様は、一生懸命に言い訳されるお母様をニコニコして見てらっしゃいます。
「そうだね。年に8着パーティードレスを作ってる訳ではないから大丈夫だよ。お茶会へ着ていくドレスや、普段の服もマリーの1、2着のドレスもその中に入ってるみたいだからね。流石に、君が2人いれば、我が侯爵家も傾くかもしれんが。君はひとりだから心配いらないよ。」
お父様、ご存知でしたのね。そうですわよね、請求書、全てお父様の所へ行きますものね。お父様、笑ってらっしゃいますが、笑い事ではありませんから。ほら、兄様が引いてらっしゃいます。
「フリードリッヒ、マリーを頼むよ」
侯爵は、フリードリッヒに声をかける。
「はい、承知いたしました。」
「フリードリッヒ、マダムの話をよく聞いて作ってくるのよ。大事なお披露目用ですからね」
「はい、夫人」
「う〜ん?フリードリッヒ、私をお母様と呼んでみて?」
リマンド侯爵夫人の突然の言葉に3人は朝食を吹き出しそうになる。
「あの〜、それは…」
フリードリッヒは、どうしたらよいものか困り顔だ。リマンド侯爵が、苦笑いをしながら助け船を出した。
「フリードリッヒ、呼んであげなさい。そうしなければ、落ち着かんよ。」
フリードリッヒは、リマンド侯爵の顔を見て、頷きリマンド夫人をみて笑顔で呼ぶ。
「お義母様」
リマンド侯爵夫人は嬉しそうに微笑んだ。
「うん。こちらの呼び方がいいわね。これからお母様と呼びなさい」
フリードリッヒは、侯爵を見る。侯爵は仕方ないと言う顔をして、頷いた。
「はい。わかりました。」
「私、優秀な息子も欲しかったの。フリードリッヒは髪も目も主人と同じでしょう。本当の息子みたいじゃない。マリーと結婚したら、頼りになる息子ができるのよね。そうね、フリードリッヒ、貴方のお母様が呼ばれているみたいに、フリードと呼んでもいいかしら?長いと呼びづらいわ」
そう言えば、お母様リフリード様のときは、お義母様呼びを許してませんでしたわね。
「はい、勿論です。お義母様」
フリードリッヒの返事に、ふふふふ。お母様呼びいいわね、と御機嫌です。