美人侍女の憂鬱 ①
城の美人侍女、アナスタシア視点です。
フリードリッヒ様、城の騎士様。
臙脂色の軍服を着ていらっしゃるから近衛騎士。同僚がカッコイイと騒いでる人。決まった方はいらっしゃらない。伯爵家の次男。アプローチを掛けている人は多いけど、誰にも靡かない。
最初は友達が素敵と騒いでいるから、興味を持っただけ。いつの間にか、ついつい目で追うようになっていったの。
私、容姿には絶対的な自信を持っているの。それは、城の案内係を拝命してるから間違いないわ。案内係は侍女の中で最も容姿の良い者が選ばれるから。案内係をしているイコール美人なの。そこら辺の着飾った令嬢より、侍女服の私の方が数段美しいと自負している。
だから、お仕事でご一緒した騎士様は必ず声を掛けて下さるの。一緒に食事に行きませんかとか、街へ行く時は声を掛けて下さい、護衛しますよ。とか、お手紙を下さるの。
フリードリッヒ様とお仕事でご一緒したのよ。これで、お近付きになれるチャンス!と嬉しかったわ。だって、女の私から声を掛けるのははしたないでしょ。でも、他の騎士様のように誘って下さらない。話しかけてくださるの待っていたのに、全く話しかけて下さいません。
あれ?照れてらっしゃるのかしら?
それとも、きっかけが掴めませんの?
では、こちらから切っ掛けをご用意致しましょう。そうね、お手紙を書きましょう。先週、お仕事でご一緒したこととわたしの行ってみたい場所、プレゼントを迷われたらかわいそうだから、好きな花も書いておきましょう、さりげなく伝えたら大丈夫よね。
返事がきたわ。
あれ?おかしいわね?
申し訳ないが貴女のことは存じ上げない、このような手紙を貰っても困る。
って、書いてあるのよ。
私の名前ご存知ではないのね。そうよね、お仕事の時わざわざ自己紹介とかしませんでしたものね。美人だから、騎士様の間では有名だと勝手に思ってましたわ。
どうしましょう、取り敢えず見掛けたら視線を合わせて微笑んでみましょう。手を振るのも良いわね。そして、その事を手紙に書きましょう。後は、私の仕事の事も書きましょう。そしたら、私の名前と顔が一致するはずよね。
週に1、2度手紙を出しているのに音沙汰無いわね、なんて思ってたの。
「ねえ、アナスタシア。聞いた?」
同僚の侍女が、かなり興奮気味に話しかけて来た。
「何?」
ふふふふ。と勿体ぶって話してくれる。
「この前、侍女長様の護衛、フリードリッヒ様だったでしょ。その時、フリードリッヒ様、女性用のチョーカーを購入なさったんですって!侍女長様に付き添ってた子が見たって言ってたわ」
かなり興奮気味に話している。それもそのはずよね。フリードリッヒ様が女性へのプレゼントを購入していた話、今まで一度も聞いたことなかったもの!
「彼のお母様へのプレゼントってことないの?」
家族へのプレゼントだったりして。
「それは、ないわ。だって、フール商会を訪れられた時に購入されたのよ。若い子向けに決まってるわ。」
フール商会は若い女性向けのアクセサリーや小物を取り扱う。良い材料を使い、ちゃんとした職人が作る一点物を扱っている高級店だ。
私も、大好きな店よ。すっごく高いから買えないし、なかなか入れないけど侍女長様のお供でご一緒したことが何度かあるわ。素敵な品が沢山並んでいるの。
「妹は居なかったよね。安物じゃないし、好きな人へのプレゼントかしら?」
「やっぱり、アナスタシアもそう思う?黒のヌメ革で中央にピンクの薔薇のモチーフが付いているチョーカーよ。コレを着けている人が、フリードリッヒ様の想い人で決定ね」
黒のヌメ革でピンクの薔薇のモチーフ。
いつプレゼントしてくださるのかしら?前の手紙にピンクの薔薇が好きって、書いたのを覚えていて下さったのね。あと、フール商会の雑貨が可愛いって書いたのも!
まだ、続きます。暫くお付き合い下さい。