城にて ①
久々の主人公視点です。
王都に着いた翌日、お母様と城へ向かいます。
王都へ着いたその日に、お父様がお母様と私の登城伺いをした所、明日おいでと返事を頂きました。せっかちな人達です。
「お嬢様、今日のドレスはいかがいたしましょう」
「そうね、モスグリーンのシンプルなものにして、後はユリに任せるわ」
「かしこまりました。お嬢様」
ユリの指示で、2人の侍女達がテキパキ動く。クローゼットから、ドレスを出し、靴、イヤリング、ネックレス…。
いつ見ても、ドレスアップを手伝っているユリはイキイキしてるわね。
「お顔のマッサージを致しますね。はぁ、今日もすべすべのお肌」
ぼーっとしている間に、化粧を施され、髪を編み込まれる。
「モスグリーンのドレスですので、イヤリング、ネックレス共に、ダイヤモンドでご用意させて頂きました。」
コルセットを締められ、ドレスを着せられる。マリアンヌのハッキリした顔立ちに似合う、胸元の大きく開いたシンプルなAラインのスッキリとしたデザインだ。耳に、プラチナの4本の鉤爪の一粒ダイヤが揺れている。首には、同じくプラチナのチェーンに三連のダイヤが連なるネックレスが、濃いモスグリーンのドレスに映える。
「はぁ、美しい。よくお似合いになります。」
侍女達が口々に感嘆の溜息をもらす。
さすがユリだわ、ドレスの色さえ伝えれば、コーディネートは完璧ね。
お母様と待ち合わせのエントランスへ向かうべく、部屋を出ると、呼び止める声がした。
「マリー、モスグリーンのドレスよく似合ってるね。馬車までエスコートするよ。お手をどうぞお姫様」
スマートすぎますわ、兄様。ジャストタイミングでいらっしゃるし。社交辞令にしても甘過ぎますわ。これ、兄様、通常営業ですの?昔の兄様って、どうでしたっけ?
そう言えばよく、僕のかわいい姫とか、かわいいマリーとか僕の妖精とか言ってらっしゃったような…。
ひゃーっ!
兄様、今もコレが普通ですの?顔が綺麗ですから威力が半端無いんですけど…。
手を取ると、スマートにエスコートして下さいます。
「階段、危ないから気をつけてね」
なんて、甘ったるい笑顔でおっしゃってます。なんだか居た堪れない気分です。はい。
あっ。
編み込まれた髪をさわったら、ネックレスが髪に引っかかり、外そうとしたらチェーンがブチッと。最悪だわ。
床に落ちたネックレスをフリードリッヒは拾い眺めている。
「コレ、チェーンが切れてるね。付けられないなぁ。」
ええ、切れてます。私が切りました。チェーンの切れたネックレスを渡して下さいます。
「そうだ。後ろを向いて、髪を持ち上げてくれるかな?」
首に何か細い紐のようなモノをまかれ、後ろで結ばれました。チョーカーでしょうか?
「うん。可愛い。プレゼント」
「ありがとうございます。」
タイミングよすぎないですか?って、聞いたら、コレを渡しにいらっしゃってたそうです。
エントランスまでの距離が、こんなに長いと感じたのは初めてでした。
お母様と合流して馬車へ乗り込むと、大きな溜息を漏らしてしまいました。
「どうしたの、マリー?顔が赤いけど?」
「何でもございませんわ、お母様」
そぉ?なんて訝しげになさってますが、決して本当のことは言えません。口が裂けても言えません。
馬車が城へ着くと、近衛兵が近づいて来てドアを開けてくれた。ひとりの侍女が側で控えている。
「リマンド侯爵夫人、マリアンヌお嬢様、上皇陛下が薔薇の間でお待ちです、ご案内致します。」
物腰は柔らかいんですけど、なんと無くトゲのある雰囲気の侍女よね。視線が痛い気がするんですけど。案内係なだけあって、美人な方ですが。
薔薇の間には、お爺様と皇后陛下、そのお膝の上にちょこんと殿下が座っていらっしゃいます。殿下は3歳になられ、可愛いさかりです。
「お爺様、おば様、マリアンヌです。」
カーテシーをしようとしたら、堅っ苦しい挨拶は要らないよ。今日は家族だけだから、と止められ、席に促されてしまいました。お母様は、ちゃっかりお座りになって、皇后陛下とお喋りを楽しんでいらっしゃいます。
「マリーよくきたね。首を長くして待っていたよ」
「マリー、あっこして」
「抱っこですね。殿下。」
私のお膝の上で、ニコニコしていらっしゃる殿下はとても可愛らしい。
「マリー、フリードリッヒと新たに婚約することになったと聞いたよ。おめでとう」
「ありがとうございます。」
「フリードリッヒと婚約せず、我の甥のジョゼフと結婚すれば、もっとココで一緒に過ごせるんじゃが」
「おじい様、私、ジョゼフ殿下には好意を持たれておりませんわよ」
というか、嫌われている気が致します。
ジョゼフ殿下は、おじい様の今は亡き腹違いのお兄様の子供です。おじい様のお母様が皇后陛下でしたのと、お兄様が治癒魔法を使えませんでしたので、おじい様が皇帝陛下になられたそうです。
この国では、治癒魔法が使えなければ王位継承権がない。
強力な治癒魔法こそが、皇帝陛下の証とされているからだ。
ジョゼフ殿下も治癒魔法が使えれば、王位継承権が発生するのだが、リマンド侯爵夫人と同じく残念なことに使えない。
長くなりそうなので、分けます。