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リフリード その後 ①

 学園を良い成績で卒業することが出来た。それもこれも、ミハイロビッチ先生のお陰だ。城の魔法省に見習いとしての働き口も決まった。


 ほっとしたのも束の間、王都を衝撃のニュースが駆け巡る。『勇者の娘であるジュリェッタがまさかの罪人!』というセンセーショナルな見出しの新聞が彼方此方で売り上げを伸ばしている。文字すら読めない者でさえ、買い求めて、知り合いに読んで貰う事態だ。


 まさか、僕の治癒魔法の力がジュリェッタ嬢に奪われていたとは、怒りを通り越して、茫然とするばかりだ。ただ、ジュリェッタと結ばれなかったことについては、不思議と何の心も動かなかった。その時はただ少しだけ、彼女が哀れに思えた。


 それを聞いた母は半狂乱で手が付けられず、離縁され生家へ返されたと兄より聞いた。余罪があったのも原因らしい。余りにも、僕のショックが大きく落ち着いてから説明すると父から言われた。


 数日が過ぎたある日。


「リフリード大丈夫か?」


 小言の多かったシードル兄さんがいつになく、気遣わしげに声をかけて来た。


「うん」


「ならいいが、まだ酷い顔色をしているぞ」


 そんなに、酷い顔をしているのだろうか。


 シードル兄さんも、父も、母のことで奔走していたのだろう、ここ数日は顔を合わせていなかったことに気がつく。


「兄上こそ痩せましたね」


「まあな、こっちもだいぶ落ち着いた。父から、話がある、一緒に行こう」


 数日ぶりに部屋から出て、兄と共に父の執務室へ向かうと、渋い顔をした父と、母のお気に入りの従者であるルイがいた。


 何故ルイがいるのか皆目見当がつかない。母が片時も側から外さなかった従者だ。当然、オルロフ家に連れて行ったと思っていた。


「さて、何から話そうか。そうだな、まずは、お前の出生についてからにしよう。実は、お前の父親はここにいるルイなんだよ」


「え」


 父の言葉に頭が真っ白になった。意味がわからない、ルイが父親ってどういうことだよ!僕はフリップ伯爵家の人間ではないのか?


「おどろくのも無理は無い。だが、これが現実だ。だから、よく考えて欲しい。お前はどうしたい?」


「ちょっと待って下さい。僕がルイの子供だなんて信じられません!僕はジョゼフ殿下の、相手に選ばれたのですよ!」


「少し考えれば思い当たる節はあるだろう?お前の耳にも噂は聞こえたことくらいあるだろ?それに、ジョゼフ殿下は平民のメイドとのお子だ。正統な血筋ではない。本来なら、マリアンヌ様がお相手になるはずだったが、マリアンヌ様では、ジョゼフ殿下が力を無くされるのでお前がその相手を務めることになったのだ」


 僕がルイの子供かも知れないと言う噂があったのは事実だ。一番は、髪と瞳色。長男のシードル兄さんは母と同じ燃えるような赤、そして、モーブの瞳。母親が違う次男のフリードリッヒ兄さんは父と同じ白銀の髪とモーブの瞳。だが僕は、茶色の髪と母と同じ蜂蜜色の瞳。そう、父の色であるフリップ家の色が全く入っていない。


 本当に、父の子ではないのか…。絶望感と共に怒りが押し寄せてくる。


「どうして、今まで黙っていたのですか!」


「教える必要が無いと思っていたからね。だが、コーディネルが実家に帰った今は状況が違う。お前はどうしたい?このまま、私の子としてここに残るのか、それともオルロフ伯爵家の者となるか?」


 オルロフ伯爵、僕の祖父。マリアンヌ様と婚約を破棄したことを烈火の如く怒った人物。幾度と無く、マリアンヌ様と婚約を取り付けろと言われた。彼処へ行っても僕の居場所は無いだろう。


「可能であれば、お父様の子としてここに残りたいです」


「そうか、わかった。では、ルイをお前の従者として付けよう。一緒にアーシェア国へ行きなさい。魔法省からアーシェア国へ数名の者が外交官として派遣されていることは知っているね。それに同行できるように話を付けよう。ああ、勿論、アイラトも連れて行っても良いぞ、本人が了承すればな」


「はい」


 これが僕が今、口に出来る精一杯の言葉だ。


 涙を流す前に自室へ駆け込む。


 アーシェア国への同行、体のよい厄介払いか。


 いや、国外追放か。不倫の末の子であり、ジョゼフ殿下を王族から追放するきっかけを作った罪人。


 あの時、ジュリェッタに惹かれなければあの結婚式で、隣に立って皆の羨望の眼差しを集めていたのは、間違い無く僕だった。彼女の誕生パーティーでエスコートをしていたのもそうだ。リマンド侯爵家だって、僕のモノだったんだ。こうして母が離縁されることも、アーシェア国へ厄介払いされることもなかったんだ。


 沸々と怒りが沸いてくる。ジュリェッタに、全てを僕から奪ったフリードリッヒ兄さんに!そして、あっさりと婚約破棄に応じたマリアンヌに!


 そもそも、ジュリェッタとの出会いが間違いだったんだ。彼女と出会わなければ劣等感を感じながらも、マリアンヌに追いつこうと必死で頑張れたんだ。それが無理でも、彼女に力を奪われなければ、ジョゼフ殿下が治癒魔法を習得され、その対価を別の形で得る事ができた。


 こんな状態になって初めて、治癒魔法の力を何の見返りも無いジュリェッタに奪われたことが悔やまれる。


 フリードリッヒ兄さんは、皇后様に治癒魔法を渡した見返りとして、マリアンヌ嬢との結婚を陛下へ願い出たと聞いた。まさか、皇后陛下の相手がフリードリッヒ兄さんだったなんて!そして、その権利をまだ使っていなかったことに驚いた。その権利をこのタイミングで駆使するなんて!


 いや、そもそも、マリアンヌ様との婚約自体が間違いだったのでは無いか?リマンド侯爵夫人は再三、母に僕が大きくなってから、自分でその対価を選ばせるべきだと言ったらしい。だが、母と祖父が聴く耳を持たなかった。なら、憎むべきは母だ。父とでは無く、ルイとの間に子を設け、勝手に僕の権利を使い、強引に僕とマリアンヌ様を婚約させた。


 最初から、フリードリッヒ兄さんがマリアンヌ様と婚約していれば、僕は彼女に劣等感など抱かなくても良かったんだ。魔法が使えないこともここまで悩まなかっただろうし、侯爵教育にあれ程の時間を費やすことも無かった筈だ。マリアンヌ様より出来が悪いと母に詰られることも、遊びに行くことを咎められることも無かっただろう。


 芝生の上を走り回り、鷹狩りや遠乗りにだって興じる暇があっただろう。剣術だって、習えたかもしれない。


 母から聞かされる「侯爵様のようになりなさい」と言う呪いの言葉。「侯爵様は剣術はお出来にならないから、貴方も学ぶ必要がないのよ」と、剣術の稽古すらさせて貰えなかった。


 デビュタント後の舞踏会だって、参加し、どの令嬢と踊ろうとワクワクできたはずだ。そこで、素敵な出会いだってあったかもしれない。


 無事ジョゼフ殿下が治癒魔法さえ習得できれば伯爵位は無理だが、ジョゼフ殿下の側近として職を得て、子爵位か男爵位は授爵できたと父に聞いた。リマンド侯爵は、ルーキン伯爵と共にその準備をしてくれていたらしい。


「お前の迂闊さが、ジョゼフ殿下の将来を潰し、自分の人生も壊したな」


 と、父に言われた時は、目の前が真っ暗になった。メープル騎士団と共に出陣したジョゼフ殿下がもし、治癒魔法を使えていたなら、上皇陛下は死なずに済んだかもしれない。いや、ジョゼフ殿下が治癒魔法を使えていれば、今回出陣なされたのは陛下だったのだ。ジョゼフ殿下はこの戦争を期に皇太子となられる筈だったのだ。


 ジョゼフ殿下は僕をお恨みになっているだろう。僕のせいでとんだとばっちりもいいとこだ。


 涙が後から後から溢れてくる。

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― 新着の感想 ―
[一言] リフリードの母と上皇の身勝手な望みが潰えて、本当に良かったとつくづく思いますね。フリードリッヒが無事マりアンヌの伴侶になり、上皇から一代おいて再度無能な王が立つのが阻止され…。 ジュリエッタ…
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