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ジョゼフ殿下 その後

 何故こんなことになったのだろう?叔父上は、僕を次の王にしてくださるとお約束下さっていたのに。


 だが、蓋を開ければ名ばかりの辺境伯、私軍さえ持てない有り様だ。中央の政治に口を挟む権利も無く。妻として充てがわれたのは、しがない見目もパッとしない伯爵令嬢。本来、辺境伯で有れば強大な私軍を持つ権利を与えられ、侯爵家と比べても遜色の無い権力を有するはずなのに。


 僕の父がそうだった、いくら金髪碧眼といえ、治癒魔法が使えなければ王族としての価値は無い。王位継承権は無く、軍を率いる権利すら無い。城の一画に美しい宮を建て、外国から姫を娶り、何の功績も残さず遊び暮らす日々を送りその生涯に幕を下ろした。軽蔑の対象でしか無い父と同じ道を進んでいる自分。否、父よりも存在価値は無いのだろう。父は外国の姫を娶ったことで、その国との絆を築いた。又、治癒魔法力を叔父上に渡した。今思えば、その見返りが宮殿での自堕落な生活だったのだろう。


 陛下へ力を譲ったエカチェリーナ皇女は、この国一の財力を誇るリマンド侯爵家で夫人の地位に座り、その財を湯水のように使っている。あの方の希望は財力のある人との婚姻だったのだろうか?そう言えば、宰相には第二夫人も愛人も居なかったな。それもなのだろうか?


 この国では治癒魔法を使える者のみ将軍と呼ばれ、強大な私軍を持ち、国の軍をも率いる。だが、僕は治癒魔法が使えない。それは、軍の将にすらなれないと言うことだ。


 オペラも劇場も無く、煌びやかな街並みも無い、こんな片田舎で、辺境伯ではあり得ないほど狭い領地を管理し、雀の涙ほどの税収を得てゆっくりと朽ちていくのか。


 クソ、それも全てジュリェッタの所為だ。彼女がリフリードから治癒魔法の能力を奪わなければ、僕はこんな目に合うことは無かったのだ。


 叔父上だって、僕が治癒魔法を使えれば死なずに済んだだろう。メープル騎士団の皆にも存分に回復魔法を使ってやれた。そうすれば、最期まで統率力を失うことは無かったのではないか?


 今回の戦争で一番被害を被ったのは、メープル騎士団に従軍した傭兵軍だ。確か、ミハイルが率いていた。彼は、高貴な血のメープル騎士団員の回復ではなく、自軍の回復に力を注いでいた。それにも納得がいかない!治癒魔法は貴族を優先するべきでは無いのか!


 ミハイルに詰め寄ると、自分は傭兵軍の将、将が交戦中に自軍を離れることは出来ないと宣った。


 彼は今、その功績を称えられ、かの戦で行き残った傭兵達を兵士として私軍に組み込み、幼少期より自分に仕えていた者達での私軍の構成を許されたと聞いた。唯の近衛が異例の出世だ。それもこれも、治癒魔法が使えるからだ。


 苛立ちに任せて、持っていたグラスを床に投げ付けると、幼き頃より仕えてくれている侍女が、側へ駆け寄って来た。


「ジョゼフ様、そろそろ怒りを収めて前を向いて下さい。貴方様は、まだ、治癒魔法の力を失ったわけでは無いんですよ」

 

「だが、治癒魔法を得るには、相手が必要ではないか!もう少し早くリフリードに力が無いとわかれば、他の者を相手に指名することが出来ただろうが、彼はもう既に治癒魔法を習得した後だ」


 我が妻にも能力はあるらしいのだが、その能力を得た所で、一人二人を治療できるようになるのが精一杯、軍の将など務まらない。


 八つ当たりだと自覚しつつも、それを止める術さえ無く侍女を怒鳴りつける。


「一人いらっしゃるではありませんか」


 同世代で能力の高い者は、僕と一緒に学園へ入学した。誰が残っているというのだ。いや、一人居る、マリアンヌ嬢だ!


 彼女の能力は申し分ない。彼女はリマンド侯爵とエカチェリーナ皇女の娘なのだから!式を挙げ、学園に通い始めたと聞く。唯の侯爵夫人に治癒能力など必要がない!なら、その力を有意義に活用できる僕に譲るべきではないか!いや、彼女は無理だ。僕がその能力を明け渡して終わる。なら、そのパートナーを渡して貰えないだろうか?


 叔父上が亡くなった今、誰に頼れば良い?陛下は叔父上と違い、僕よりマリアンヌ嬢寄りだ。宰相やエカチェリーナ皇女が娘より僕を優先してくれることはあり得ないだろうし、懸命に思案する。


「ジョゼフ様、散歩に参りませんか?今日は天気も良く、花も見頃ですよ。庭に薔薇の花を植えてみましたの。まだ、数は少ないですが…」


 部屋へ入って来た妻であるカナリアが、優しく遠慮がちに外へと誘う。侍女に目をやると、そうしろと言わんばかりだ。


 仕方なく、外へと出る。庭には妻が言う通り、少しの薔薇が植えられていた。花も少しずつ増やしているみたいだ。領主としての勤めもあるため、街へと足を伸ばす。野暮ったい家が建ち並び、あの王都のような洗練された街並みは無い。道は土が剥き出しの状態で、砂埃が舞い王都の石畳が偲ばれる。


 自分は父やエカチェリーナ皇女と違い、治癒魔法の力を差し出していない。だから、彼らのように贅沢な暮らしをすることは叶わないのだろう。だが、言い換えれば、力はあると言うことはまだ、チャンスが残っていると言うことだ。


 僕が治癒魔法を習得出来ていないと知るや否や、擦り寄って来ていた貴族達は蜘蛛の子を散らすように居なくなった。結果として残ったのが、エリオット伯爵令嬢であるカナリアだ。娘に押し切られる形で、エリオット伯爵が僕の後見人となってくれ、どうにか、辺境伯という地位に就けた。


 今、頼れるのはエリオット伯爵のみだろう。それでも、色良い返事は貰えまい。そう考えると、僕の返り咲きへの鍵を握っているのは、今、腕を組み横を歩いているカナリアだけだ。彼女は、マリアンヌ嬢とも交流があるらしく、手紙の遣り取りをしているようだ。


 カナリアを通して、マリアンヌ嬢へ直接頼むか?いや、だが叔父上を通じて、権力を笠にマリアンヌ嬢へ嫌がらせをして来た自覚はある。友達の夫の頼みだからと言って、素直に聞ける話ではないな。では、マリアンヌ嬢の相手は?誰だ?いっそ、その相手をジュリェッタ嬢のように奪うか?


「カナリア、マリアンヌ嬢の治癒魔法の相手を知っているかい?」


 カナリアは、一瞬目を丸くしだが、ニッコリと笑顔で答えてくれた。


「はい、スタージャ様ですわ。お二人はその関係もあり、幼少期より懇意にされていると聞いております」


 スミス侯爵令嬢か、分が悪いな。


 あの二人が姉妹のように仲が良いことは知っている。クソ、手詰まりじゃないか!


 彼らのように、リフリードと彼女達のように連絡を取りあっていれば、ジュリェッタ嬢にその力を奪われることは無かったのか?


「君は二人と仲が良いのかい?」


「はい、仲良くさせて頂いております。王都に居た頃は、よくお茶に呼ばれておりましたわ」


 懐かしむように話す妻に、軽く苛立ちを覚える。


 ふん、仲の良い友達か。マリアンヌ嬢に仲の良い友達が居たとはな。口を開けば、小言を言う口うるさいだけの存在だと思っていたが。


 そう言えば、叔父上は私がマリアンヌ嬢と結婚することを望んでいたな。


『リフリードから力を貰い、聖女となったマリアンヌを妻に迎え、王位継承を行う』


 幼い頃より叔父上に何度も聞かされた話だ。


『リマンド侯爵家はリフリードが他所から嫁でも貰って継げばいい。なあに、マリアンヌは宰相の娘だ。結婚さえしてしまえば、国の安定など宰相がどうにかしてくれるさ。マリアンヌ嬢は良く教育されておるから、安心しなさい。お前に足りない部分を補ってくれるだろう』


 叔父上の頼みの綱は、マリアンヌ嬢だった。僕では無かったんだ。


「そうか、仲が良いのか」


 横で、優しい笑みを浮かべる妻。これで良かったのかも知れないと、心の何処かで思う自分がいる。


 もう、マリアンヌ嬢に劣等感を感じる必要は無い。幼き頃は、知らなかったが、もともと魔法で敵う相手では無かったのだから。彼女を娶れば常に格の違いをまざまざと横で見せつけられ、一生劣等感に苛まれたことだろう。


 贅沢は出来ないが、僕をあの状況でも慕ってくれる妻。彼女と一生を一緒に過ごすのは悪くないかも知れない。治世をあまり学んで居ない僕の為に、一代限りではあるが税額の免除も頂いている。ここを王都のように豊かにする努力をするのも悪くないかも知れない。


 気持ち良い風に吹かれ、そんな事を考えた。

また、後日、リフリード その後書きます。数日お時間頂きます。

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