フリードリッヒ ⑤
フリードリッヒ視点
「ああ、リフリードとジュリェッタ嬢が恋仲なのが引っかかる。出逢う接点が無い」
「どこかの舞踏会で出逢われたのでは?」
マリアンヌがリマンド侯爵に尋ねる。
ジュリェッタ嬢。
王都で最近話題の勇者親子か、ミハイルが可愛らしいと騒いでたな。たしか、竜討伐の際、助けられたと言ってたな。
「それが、ジュリェッタ嬢はまだ社交界デビューを済ませていらっしゃらないのです。最近、貴族の娘になられたので、淑女教育が出来ておらず、今、陛下より下賜された家庭教師について勉強なさっている最中です。」
セバスがお茶をサーブしながら答えてくれた。リマンド侯爵も頷いている。
「でしたら、王都の何処かで出逢われたのかしら?」
その問いにフリップ伯爵が答える。
「それも無いな、リフリードは侯爵になる勉強のため、今年は王都へは行っていない。」
何処で知り合った。
兄上からの手紙だと、リフリードは勉強の進み具合が良くないから今年は王都へ来られないことと、フィン語と魔法の良い家庭教師の噂を聞いたら教えて欲しいと書いてあった。
リフリードは、王都へ来ていない。リフリードが王都へ来ていたら、兄弟で城勤めの自分の耳にはいる。
リフリードの勝手な思い込みでなく、本当に恋仲なら、連絡を取っている筈だ。数ヶ月前からの手紙、出歩いた先を調べる必要性があるな。伯爵家の馬車を使ってたら、楽なんだが…。
マリアンヌがたずねる。
「それで、フリードリッヒ兄様との婚約を考えている。ということなのですね。」
リマンド侯爵がニヤリと笑った。
「そういう事だ。リフリードとの婚約破棄となれば、確実にフリップ伯爵がダメージを被る。それで得をする人物が怪しいのだが、心当たりが多過ぎる。そればかりか、フリップ伯爵が失脚すると、私もダメージを被る。ということは、私に対する策かも知れない。そうなると、怪しい人物が膨大だ。かなり恨まれてるからねぇ〜。」
リフリードのオツムが足りないことが理由の婚約破棄。繰り上がって、俺が婚約者。これがシナリオか。貴族社会では当たり前のことだ。
リフリードの学習が進んでないことは、兄上の手紙からわかる。他の分家貴族も承知だろう。一番スムーズにことが運ぶ。ただ、リフリードから婚約破棄をいい出したことを知っている人物は穏やかではないはずだ。なにか、コトを起こすだろう。
「リフリードにとっては不名誉なことだが」
と、いいながら、リマンド侯爵はクッキーを頬張る。
「自業自得だ。私に何の相談もせず、しかも私の留守中にマリアンヌ嬢を呼び出し婚約破棄を告げるとは、親として恥ずかしい。」
フリップ伯爵は苦虫を噛み潰した様な顔をして言い放った。そんな父の顔を見て、フリードリッヒが口を開いた。
リフリードの所在確認が必要だな。
「で、そんな重大な事件を起こした、本人は今どうしているんだ?」
「本邸の自室で監禁中だ」
フリップ伯爵は力強く言い捨てた。
親父、このままずっと屋敷にも閉じ込めかねないな。それだけ腹に据えかねているんだろが…。
リフリード、長らく会ってないからなぁ。剣は扱えるんだろうか?
士官するにも、試験が必要だ。大抵は、14歳で試験に受かる。16歳は遅いうえ、一発で受かる保証はないし。16歳で受かる子だって、12歳から毎年試験を受け続けた子達だからなぁ。1日でも早く準備をするべきだ。
「でも、ずっとそのままって訳にもいかないだろ?親父。分かっていると思うけど。リフリードは侯爵に成れない。ってことは、下級文官か騎士になるしかない。文官になるにしても、騎士になるにしても学校へ行かなければならない。学校へ行くには試験を受けなければならない。文官なんて狭き門だぜ。」
「そうだな、リフリードとそのことについても話さなければならないな。」
フリップ伯爵は力なく頷いた。
リフリードの今後は親父が何とかするだろう。
こっちも、あまり時間がない。側に居て、少しずつ印象付けた方がいいだろう。家に帰ると中々会えない。よし。
「リマンド侯爵、私は家に帰らずこのままこちらに滞在し、貴方の仕事を手伝えば宜しいのですね。」
「ああ、頼むよ。話が早くて助かる。部屋は用意してある。マリー、このままフリードリッヒと婚約するかい?リフリードよりフリードリッヒの方が良いと言ってたし」
マジか…
嬉しすぎる…
ヤバイ、顔がニヤける。脈はあるよな、ヨシ!心の中でガッツポーズを決める。
「へーぇ。マリーはリフリードより僕の方が好きなんだ。嬉しいな」
恥ずかしいのだろう。顔を真っ赤にしている。
「兄様は、もてますよね。想いあった方とかいらっしゃるのではありませんの?そんな方がいらっしゃったら、婚約なんて出来ませんわよね。」
「うん、もてるよ。ほっといても寄って来るし、でも、想い合っている人は居ないな。」
「では、想いの方は。」
「居るよ。」
正直に答える。
「大丈夫ですの?私と婚約予定で、その方に誤解されてしまうのでは」
好きな子の婚約者の振りだからな〜。
「う〜ん。どうだろう?向こうは僕が好きなことを知らないし。大丈夫じゃないのかな?それに、簡単に結婚だの、恋人だのなれる相手でもないしさ」
「そうですの」
マリアンヌはなんとなく納得のいかない顔をしている。
その内、オレの好きな人、教えてあげるよマリー。
「しかし、また、此処で暮らすことになるとは思わなかったよ。宜しくね、マリー」
フリードリッヒは、また一緒に過ごせる期待に胸を膨らませた。
今回でフリードリッヒ視点終わりです。
長くなり過ぎた( ̄∀ ̄)