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断罪 ①

 お父様がハンソン様を伴って戦地へ向かわれて三日としないうちに、傭兵軍が壊滅的な被害を受けた上、上皇陛下が待ち伏せをされた敵軍の襲撃に遭い亡くなられたとの知らせが入り、第一騎士団が出陣された。ジョゼフ殿下は無事ではあったが、心に傷を負われて城へ帰還されているらしいとフリード様から教えていただいた。


 もうすぐ、お父様が現地に着かれたら戦局が変わるから大丈夫だよ、とフリード様は仰いますがとても心配です。


「お父様とお兄様はジョゼフ殿下との婚姻には未来がないから考え直すように仰るんです。マリアンヌ様はどう思われます、ジョゼフ殿下との婚姻は諦めるべきなんでしょうか…」


 スタージャ嬢と共にお茶会にいらしていたエリオット様は沈んだ様子で涙を浮かべる。


 この前お会いした時よりだいぶお痩せになって、お顔色もあまり良くないわね。


「最近、ずっと元気がないんですのよ。この前までは、ジョゼフ殿下の婚約者になるために治癒魔法を習得しなきゃと躍起になってらっしゃったのに、ほら、あのようなことになり、お父様と、お兄様に反対されてからご覧の通りですの。」

 

 スタージャは大きく手を広げてみせた。


「エリオット様はどうなさりたいの?わかってはいらっしゃる通り、ジョゼフ殿下はもう治癒魔法は使えるようにはなられない可能性が高いですわ。その上、今回の大敗、皇太子となされることはないわ。良くて名ばかりの辺境伯、それでもジョゼフ殿下と婚姻なさりたいの。」


 可能性が低いと言いましたけれど、治癒魔法に関しては皆無ですわ。


「それでも、私、ジョゼフ殿下が好きなんです。ジョゼフ殿下が皇太子になられる可能性があるから結婚したいんじゃありません。例え、子爵や男爵、騎士爵であってもジョゼフ殿下と結婚したいんです。」


 そんなにジョゼフ殿下のことを思ってらっしゃったなんて、エリオット嬢ったら男性の趣味悪すぎません?


 スタージャはニッコリと笑って、エリオット嬢を見る。


「なら、結論は出てるわね、ジョゼフ殿下と婚約できるように頑張ったら良いではありませんか。そう思いません、マリアンヌ様?」


「ですが、お父様やお兄様が…。」


 エリオット嬢はでもでもだってと、煮え切らない様子でカップに手を掛ける。


「あら、良かったではありませんか、エリオット嬢のお父様やお兄様のように考えられる方が増えている今なら、ジョゼフ殿下との婚姻は前より数段容易になったのではありませんか?エリオット嬢、治癒魔法は良くても切り傷を治す程度だったのでしょう?どっちみち、皇太子妃にはなれませんでしたわよ。」


 ビックリですわよね、エリオット嬢のお父様もお兄様もエリオット嬢が治癒魔法を満足に使えないのに皇太子妃になれると思ってらっしゃったなんて。


 エリオット嬢はマリアンヌの言葉に引き攣った笑みを浮かべたが、意を決したような凛とした顔付きに変わっていく。


「そ、そうですわよね。治癒魔法が使えませんと、聖女としてこの帝国の母にはなれませんものね。ありがとうございます、マリアンヌ様。私、もう一度、お父様とお兄様とよく話し合ってみますわ。」


 エリオット嬢、ジョゼフ殿下と上手く行くと良いですわね。


「それはそうと、マリアンヌ様、奴隷を購入なさりました?」


 スタージャの言葉に、マリアンヌは紅茶を吹き出しそうになった。


「どういう事ですのスタージャ様、奴隷とは穏やかではありませんわね。」


「マリアンヌ様のお耳には入ってないのね、最近、市井でマリアンヌ様が女の奴隷を所有しているという噂がありますの、まだ、誰が噂を流したのかわからないんですの。」


 女の奴隷?


 あっ、イザベラのことね。でも、どこから漏れたのかしら?イザベラが元奴隷だったなんて、マダムはそんなこと絶対に言う人ではないわ。


 イザベラが元奴隷だったとばらすのは簡単だわ、でも、そんなことをしたら、ドレスを購入下さったお客様に迷惑がかかるかもしれないわ。それに、イザベラが差別を受ける可能性がある。絶対に知られてはならないわ。


「私がどうやって奴隷を購入するのでしょう、そんな伝手などございませんわ。」


 その者は、イザベラのことを知っている。そして、イザベラが私のデザイナーだってことも!イザベラを守らなければ!幸いにもイザベラは領地にいる、どうにかなりそうだわ。

 

「そうよね。そんな根も葉も無い噂、誰が何の目的で流したのかしら?兄様に言って取り締まって貰わなきゃ。」


 スタージャはプリプリと可愛らしく頬を膨らます。


 スタージャ様、スミス侯爵との関係が緩和されみたいね、良かったわ。


「お嬢様、失礼致します。」


 いつもは感情を絶対に面に出さないユリが満面の笑みを浮かべてやってきた。

 

「何、ユリ、今お客様がいらしているのよ。」


「お嬢様、戦争に勝利致しました。先程、勝利を知らせる早馬が城へ入って行きました!」


 良かった、勝利したのね。


 スタージャや、他の令嬢達も嬉しそうな様子で、辺りは明るい雰囲気に包まれたが、婚約者や親族がメープル騎士団に所属している令嬢の表情は固い。


「メープル騎士団の騎士様達の安否はわかりませんの?」


 堪らず、一人の令嬢がユリへ問う。


「申し訳ございません。そこまでは、判りかねます。」


「いいのよ。そうよね、伝令を見て慌てて知らせてくれたのよね。ねえ、マリアンヌ様、マリアンヌ様なら、城へ遣いを送れば詳しい状況がわかるのではありませんか?」


 令嬢は縋るように、マリアンヌを仰ぎ見る。


「婚約者様の安否は私よりも、クロエ様に届くと思いますわよ。」


「そ、そうね。もう、失礼させていただきますわ。」


 クロエは居ても立っても居られないという風に慌てて帰って行く。


 クロエ嬢の婚約者様、無事であれば良いのですが…。

 

 何はともあれ、数日以内に帰還され凱旋式が執り行われる。城は今、その式に向けて大忙しだろう。マリアンヌもその後の、パーティーに出席しなければならない。


 フリード様のお帰りは今日も遅くなるわね。


 今回、メープル騎士団の被害は大きい。上皇陛下の指揮の甘さと、上皇陛下が亡くなったとき、ジョゼフ殿下が動転して上手く立ち回れなかったのが原因だ。メープル騎士団に所属している者達の家族からすれば、ジョゼフ殿下は非難の的だ。


 

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