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事件 ジュリェッタ ②

 え、帰っちゃうの?ま、待って、私はこのままここに居なきゃならないの?学園に帰れるんじゃないの?ちゃんと砂漠の皇子は噴水の所に来たでしょ?私の力は証明されたでしょ?


「待って下さい!」


「ん?どうしたのだね?」


 侯爵は心底不思議そうな顔をして、また、ソファーへ座り直す。


 良かった、取り敢えず引き止めることができた。


「砂漠の国の皇子様は?」


 ああ、そのことかとでも言いたげな顔をして、侯爵はジュリェッタを見る。


「うん。君の言った通りにいらっしゃったよ。お伺いしたら、誰かと示し合わせたでもなく。気の向くまま偶然

噴水の側までいらっしゃったらしい。子猫を拾われたのも、たまたまだと伺ったよ。」


 ジュリェッタは胸を撫で下ろした。


 良かった、ストーリー通りイベントが起こって。先読みの力は証明された、これで、ここから解放して貰える。


「じゃあ!」


「ああ、先読みの力は証明されたわけだ。だが、君を女神の使徒と決めつけるには時期尚早でね。何せ、その力が君のためにしか働かないのなら、そうとは言い切れないだろう?女神は愛と慈しみの神だからね。意味がわかるかな?」


「わかりません。先読みの力が証明されたのならそれでいいじゃありませんか!」


 あーもう、苛々する!このためにイベント一つ無駄にしちゃったじゃない!ただでさえ、悪役令嬢絡みのイベントが無くなって、イベント自体減ってるのに!少しでも好感度を上げて味方を増やさなきゃならないっていうのに、ああ、もう!


「ハッキリと言わないとわからないかな?ジュリェッタ嬢、貴女は女神の使徒か、それとも悪魔の使徒かわからない危うい立場だと言うことを。学園にいる時から、もしかしたら、もっと前からその力を国、いや、教会に相談もせず、自分のためだけに使っているのでしょう?そして、その力は災害を知らせるものではなく、貴女の都合に合わせてのみ発揮される。それでは、まるで人を惑わす悪魔の所業ではありませんか?」


 悪魔の使徒って、失礼しちゃう!私は、ヒロインであるジュリェッタよ!この世界は私のために存在するの。私が悪魔の使徒な訳ないじゃない!本当、わからずやなんだから!


「では、いつになったら、ここから出られるのですか?」


「それは、貴女の身の潔白が証明されてからだが。」


 何が身の潔白よ!


「こんな所、早く出たいんです!」


 ジュリェッタの言葉に、侯爵は非常に残念そうな表情を作る。


「こんな所とは、これでも、我がリマンド侯爵家の客人用の離れなんだが。ここには、私の母も王都に来た際に泊まる。妻も友を呼びここでお泊まり会を開いているんだが。それに、貴女には、メイドを三人に下男二人をつけているではないですか。」


 何が気に入らない?とでも言う風に侯爵は尋ねてくる。


 あーもう、わかってるくせに!この軟禁状態が気に入らないのよ!


「あとどれくらい待てばいいんですか?学園だって始まるんですよ!」


「そう待たせることはない、もうすぐ審議が終わる。」


 審議って何よ?教会の祭司でも来て女神様に神託でも賜ってるの?それとも、お偉いさん達で会議でもしてるのかしら?


「審議って?」


「もう、失礼するよ。私もそんなに暇な身分ではないのでね。」


 そう言って、侯爵は部屋から出て行った。


 約束通り、二日と待たず侯爵家から解放され、辻馬車で送られた場所は何故か陛下に貰ったバルク家だった。家に着くと待ってましたとばかりに、下男に鍵を渡される。


「すみません、お嬢様。実家の都合で田舎に帰ることになりましたので本日で辞めさせて頂きます。では、失礼致します。」


 下男はそう捲し立てると、ペコっと頭を下げまるで逃げるように立ち去った。


 そんなに急いで帰らないといけなかったのかな?ご両親が病気で余命幾ばくもないとか?だから、鍵を私に渡すために私はここへ送られたのかな?ま、取り敢えず家に入りますか。


 久しぶりのバルク家は誰もおらず、がらんと静まりかえっている。


 そっか、お父さん遠征に行ったから誰も居ないんだ。メイドには休みでも出したのかな?


 家の中を確認してまわる。


 魔道具の食糧庫には野菜と肉がしっかりと入っていた。自分の部屋のクローゼットの中には、陛下から賜ったドレスと、リフリードから貰ったドレス。そして、普段使いのワンピースに冒険者時代の装備が綺麗に収納されていた。


 ルーキン家の迎えが来る前に現状を確認しなきゃ。ナタリーと一緒だと色々動きが制限されてしまう。


 急いで、ドレスから一番簡素なワンピースに着替え、お父さんがお金を入れている金庫を開ける。


 エッ!


 中身は空だった。


 私に一銭も送って来てくれてないのに?まさか、全部持って行っちゃったの?それとも…


ナタリーの言葉が頭を過ぎる。


ーーーー傭兵達と呑み歩いて、全てバルク男爵がお支払いになっているんですよ。


 はっ、こんなことでショックを受けている場合じゃない!現状を確認する方が先よ。


 とは、いえ文無しでは心許ない。ドレスを二着綺麗にたたみ、アイテムボックスにしまうと顔と髪が隠れるように頭巾を被り、古着屋へ急いだ。


 ドレスを売り金貨四枚と銀貨を二枚手に入れると、王都の冒険者ギルドへ急ぐ。


 ギルドなら欲しい情報が手に入るはず。あっ、でもこのカッコは浮くわね。


 簡素とはいえワンピースだ。そんな格好の者は依頼者以外ギルドへは来ない。だから、ギルドへ足を踏み入れると一斉に冒険者達の注目を集める。皆、どんな依頼なのか、幾ら貰えるのか依頼者を見て予想をたてる。良さそうな雰囲気なら、今手に取っていた依頼を戻し、その依頼が貼り出されるのを待つと言う具合だ。


 近くの冒険者用の古着屋で服を見繕い着替える。余り顔を見られたくないので、フード付きのローブを羽織り、隣の武器屋で杖を購入して体裁を整える。しれっと、ベテラン感を出してギルドへ足を踏み入れた。依頼書を確認する振りをして、冒険者達の会話に耳を傾ける。


 ジュリェッタが思った通り、回復薬事件の話が彼方此方から聴こえた。


 本当は酒場の方がいいんだけど、私が一人で入ると絡まれる可能性があるから、それはそれで面倒なんだよね。


「回復薬事件、結局犯人はゲラスだったんだろう?」


「ゲラス?」


「ギルド職員のほら顔に傷のある。前、ルーキン領担当だった。」


「ああ、アイツか、アイツが麻薬を回復薬って言っていろんなやつに売らせてたんだってさ。あまつさえ、捕まったら、侯爵令嬢のマリアンヌお嬢様の所為にするように吹き込んだらしい。そうすれば、解放して貰えるって言って。」


「本当かよ、で、そのゲラスってヤローは死刑か?」


「いや、またこれがややこしいことに、ゲラスは、ジュリェッタお嬢様に頼まれたって言い張っているらしいぜ!」


 ジュリェッタは、男の『ジュリェッタ』という言葉にピクリと反応して、フードを目深に引く。


 ここで、自分がジュリェッタとバレるわけにはいかない。


「ジュリェッタお嬢様?ああ、あの親子冒険者の可愛い娘だろ?そうか、竜倒してバルク男爵だもんな、ジュリェッタもお嬢様か。で、またなんで、ジュリェッタお嬢様が麻薬を撒き散らすように頼むんだ?」


「俺が知るわけ無いだろ!ただ、金髪の若い女性に頼まれたって言えって言ったのも、ジュリェッタお嬢様だとゲラスは言い張ってるわけよ!」


「何でまた、金髪の若い女なんだよ?」


 聞き返す言葉に、男は驚いた顔をした。


「お前、知らないのかよ。金髪って言えば王族だぞ!」


「だからだろ?居もしない人間の所為にしたって、罪が重くなることはないだろ?皇女様であるリマンド侯爵夫人はすごく美人で若く見えるが、若い女じゃないだろう?それに、ゲラスや俺らみたいな下賤の者の前にあの傾国は姿すら現さんだろう?」


「リマンド侯爵の一人娘のマリアンヌお嬢様は、リマンド侯爵に瓜二つって噂だ。なら、銀髪だろう?何せ王族じゃないんだから。」


 漢は自信満々にそう言い切った。もう一人の漢も違い無いとゲラゲラと笑う。


 嘘?悪役令嬢って庶民の間では、銀髪のリマンド侯爵似って言われてるの?あり得ない…。


「何があったのか知らんが、ゲラスのヤローがジュリェッタお嬢様を恨んでるのは間違いないな。」


 そう言うと、漢達は依頼書を片手にカウンターへと消えて行った。


 彼らの話し振りだと、ゲラスの処刑は決行されていない。もしかしたら、ゲラスも悪役令嬢を金髪の女性だと知らない可能性がある。金髪の女性は、助かるための暗号だと認識していた?


 不味い、それを言えば本来取り調べ担当だった第一兵団にまで話が行く。そうなれば、私の名前が出るじゃない!どうする?


 ジュリェッタは苛々しながら爪を噛む。


 そろそろ、屋敷に戻らなきゃ。もしかしたら、もう、ルーキン家の遣いが来ているかもしれない。長く戻らなきゃ不審がられる。言い訳も考えなきゃ。


 古着屋に入り、今の装備を売り、元々着ていたワンピースに着替え、急いで辻馬車に乗り込んだ。用心をして、家の少し手前で下ろして貰う。


 家の前に馬車は見当たらない。良かった、まだ来てない。


 家へ急ぐ。門を潜ると、玄関の前に見慣れたルーキン家の従者が一人立っていた。ナタリーと迎えの馬車の姿は見当たらない。


 あれ?おかしいな、私を迎えに来てくれたんじゃないの?


「ジュリェッタお嬢様、こちらをどうぞ。」


 家令は手紙をジュリェッタに渡すと、礼をして単身馬に乗りその場を去って行った。


 ジュリェッタは手紙を片手に誰も居ない家の前で、呆然と立ち尽くすしかなかった。


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