第69話「断捨離②」
まあ、謎の騒音に関してはもういいとして……気を取り直して行こうか。
「では皆んな、再開しよう」
「「「はい、殿下」」」
返事と共に皆動きだし作業を再開した訳だが、何故かちょくちょく変なものが出てきて大変だった。
と言っても始めの方は東洋の壺から絹織物、珍しい香辛料まで多種多様で珍しいが、割と普通の物ばかりだった。
まあ、やはり結構な確率で現金が仕込まれてはいたが。
全く、この国の貴族や商人は大丈夫なのだろうか?
そんなことを考えながら更に整理を進めると、奥の方から何か大きな物が出てきた。
「うむ、これは……白熊の剥製!?」
そう、カバーを外すとそこにあったのはなんと仁王立ちした白熊の剥製。
中々の迫力だな……要らないけど。
ただ、何故か身近で見覚えがあるような気がするんだよなぁ。
……ある訳ないか。
うん、売ろう。
さてと、次はこの大型のトランクにしようか。
早速開けてみると……何だこれは?
また変な物か?
中には小分けにされた袋がびっしりと詰まっていた。
一つ取り上げてみると不思議な感触が……まるで小麦粉の袋でも触っているような感じだ。
あ、もしかして上質な小麦粉の詰め合わせとか?
だったら勿体無いことをしたかな、多分古くなってるし。
まあ兎に角、小袋を開けてみるか。
そして袋の口を開いてみると中にはなんと……白い粉が詰まっていた。
それを見た私は思わず呟いた。
「ふむ……コロンビア産の上物だな」
キリッ!
なんちゃって、一回言ってみたかったんだよ。
まさか本当に麻薬な訳がな……、
「いえ、これは恐らくインディア産ですね、確かに上物ではありますが…… 。差し出がましい真似をして申し訳ありません」
と、冗談を言っていたら唐突にレオニーが口を挟んできた。
「……え?」
何だって?インディア産?それってもしかして……?
そんな風に私が逡巡していると、
「失礼致します」
そう言ってレオニーが指の先に粉をつけて舐めた。
……何かエロい!
「殿下!」
「はい!ご、ごめんなさい!」
下らないこと考えてごめんなさい。
もしかしてレオニーは人の考えが読めるのか!?
「?……これは高品質な麻薬で間違いございません。末端価格は十億はくだらないかと」
「!?」
あ、良かった、違った……じゃなくて!
マジか!?
誰だよ!皇太子への賄賂にトランクいっぱいの麻薬を持って来たやつは!
幾ら放蕩王子の私でも、ドラッグパーティーとかしねぇよ!
「レオニー!」
そして私は鋭く叫んだ。
「はっ!」
「贈り主を確認して今すぐ逮捕してこい!」
そいつ絶対麻薬組織の幹部だぞ!
「畏まりました。ピエール!手配を!」
レオニーは私の命を受け、直ぐに指示を出した。
「は、はい!」
そして慌ててピエールが駆け出して行った。
取り敢えずこれで大丈夫だろう。
ふう、あとはこれの処分だな。
値段を聞くと少し勿体無い気がするが、流石に麻薬の使い道なんてなぁ……ん?あ、そうだ。
「なあレオニー、この麻薬ってアッパー系?ダウナー系?」
「はい、これはダウナー系ですね」
さも当然のように答えているけど、レオニーって凄いなぁ。
因みに、アッパー系はハイになり過ぎるやつで、ダウナー系はリラックスし過ぎちゃうやつだ。
「そうか、だったら赤騎士が暴走した時に投与すれば大人しくさせることが出来るかな」
うむ、中々に有効な活用法ではないだろうか。
「殿下、貴族の令嬢を薬物依存症にするのは流石にマズいかと……」
と思ったのだが、顔を痙攣らせたレオニーにダメ出しされてしまった。
残念。
「冗談だよ。と言うか、赤騎士はやっぱり貴族の令嬢だったんだな」
「あ、はい……」
今度は珍しくレオニーが、しまった!と言う顔になった。
「没落貴族か何かかな?」
「はい、そんなところです」
「へぇ」
まあ、割とどうでもいいけど。
それより麻薬の処分だな。
確か日本では焼却とかトイレに流すとか、だったような気がする。
「レオニー、この麻薬の処分だが」
「はい、いかが致しますか?」
まあ、燃やすのは手間だし、その辺に流せばいいか。
「適当に外に流しておいてくれ」
「えっ!?……ああ、なるほど!流石殿下!畏まりました」
「?」
何か予想外の反応だな、何をそんなに驚いているのだろうか?
そんなに燃やすのが手間で嫌だったのかな?
因みにレオニーは、
(流石マクシミリアン殿下!捨ててしまう麻薬を外(他国)に流すことによって、外貨の獲得と他国の弱体化を図るとは!)
と言う勘違いをしていた。
「では、これはルビオン王国方面に流して(流通させて)おきます」
「?……ああ、頼む」
ルビオン王国方面?……ああ!あっちへ流れる川にでも捨てるのか。
さて、ヤクの件は片付いたし、次だ。
その後、皆んなで手分けして作業を続け、気が付けば残りは二つだけになっていた。
変な物ばかりだったが、あと少しだな。
私はまず手前の包みを開けた。
すると……ん?これは……彫刻か?
具体的には白熊がシャケをくわえたやつ。
更に言えば、北海道の伝統工芸品の木彫りの熊によく似たものに色が付いている感じだ。
誰だよこんなもの贈ってきた奴は……生前の実家にあったような気がして何だか懐かしいじゃないか。
あと、これを眺めていると不思議と親近感が湧くなぁ。
特に、この白熊にくわえられたシャケ。
まるで自分自身を見ているような気がする……何故かは分からないが。
「レオニー、これは売らずに残しておいてくれ。このシャケ、他人とは思えないんだ」
「は?……はい、畏まりました」
怪訝そうにレオニーは返事をした。
さて、やっと最後の品だが……何だか見覚えがあるような……まあ、いいか。
で、開けてみると中から大粒のダイヤモンドがふんだんに使われたネックレスとイヤリングが出てきた。
ああ!そうだ、これは確か何処かの大商人が、婚約者のセシル様に、とか言って置いていったやつだ。
これ、ダイヤモンドは大粒で、デザインも上品な、非常に良い品だとは思ったのだが、流石に賄賂的なものを婚約者に贈るのは気が咎めてそのまま放置していたのだ。
まあ、お陰で私の懐が潤う訳だし、文句はないが。
さあ、終わりだな……と思ったところで意外な人物がやってきた。
「はぁはぁ、で、殿下。少し早いですが……はぁはぁ、ご、護衛の任に戻り、ます」
それは赤騎士だった。
午前中は休みでいいと言ったのだが、どうやらもう出てきたらしい。
ん?何だかよく見ればフラフラしていて、息も荒いな。
どうかしたのだろうか?
暗殺者達を呼吸一つ乱さず撃退した赤騎士にしては珍しいことだ。
「フラフラしているようだが、どうかしたのか?」
「お、お気遣い頂き、ありがとうございます、殿下。はぁはぁ、じ、実は、不覚にも卑劣な小悪魔と刺し違えて参りまして……この有様でございます。それで癒しを求めて早めに参りました」
赤騎士は私の問いに対してよくわからない答えを返してきた。
「小悪魔?刺し違えた?癒し?……私にはよく分からないが、兎に角大変だったようだな」
まあ、いいか。
「ぐすっ……はい」
それにしても弱っているな……あ!そうだ。
「赤騎士、良かったらこれをやろう」
そう言って私はさっきのネックレスを差し出した。
「え?え!?これを私に下さるのですか!?」
赤騎士はいきなりのプレゼントに混乱しているようだ。
「ああ、この間の暗殺犯撃退の件もあるし、ほんの気持ちだ。あと、これは本当はセシルに贈る筈だったものなんだが、不要になってしまったもので……」
「ええ!?私……コホン、セシル……さ、様への贈り物だったのですか!?」
「ああ。売ればそれなりの値段にはなる筈だ」
没落貴族なら、きっと金銭面で苦労しているだろうし喜んでくれるだろう。
「いいえ!家宝にします!」
え?売れよ。
「え?いや、別に気にせず処分して……」
「家宝にします」
「ああ……」
まあ、本人の好きにすればいいか。
「では、早速……」
「!?」
え、まさか……。
そして、赤い鎧は自らの首にネックレスを付けた。
「どうですか?似合いますか?」
いや、赤い鎧にネックレスとか……シュール過ぎるだろう!
「「「……」」」
案の定、皆んな絶句していた。
「……似合いませんか?……しゅん」
だが、それを見た赤騎士は予想以上に凹んで少し可哀想な気がするな……。
仕方ないか。
「え……ええと、うん、まあ、その……いいんじゃないかな?」
取り敢えず私が痙攣った笑顔で褒めると、
「えへへ♪」
赤騎士は、心からの笑みを浮かべながら喜んだ……気がした。
その後、王宮ではある都市伝説が生まれた。
内容は、ダイヤモンドのネックレスを身に付けた赤い鎧が徘徊し、それと出会うと「これ、似合っていますか?」と聞かれるのだとか。
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