第67話「女子会?③」
さあ、第二ラウンドを始めましょうか!
まずは建物へ向かって歩き始めてしまっている姉様を止めなければ。
「アネットリゼット!姉様の足を止めなさい!」
私は横で仲良く談笑していたポンコツ二人組に鋭く命令しました。
「アンタも大変ねぇ、でもアタシなんてこの間水責めに……って、え!?アタシがあれの足止めすんの!?てか、続けて言わないでよ!何か売れない芸人コンビみたいで嫌!」
「ひぃ〜、そんな無茶な〜。まだ死にたくないですぅ~」
それに対してアネットはツッコミ、リゼットは悲壮感を漂わせながら嘆きました。
確かに芸人ぽいかも……じゃないです!
「つべこべ言わずにやりなさい!上手くいったらご褒美に、お休みとお小遣いあげるから!」
「マジ!?」
「本当にぃ!?」
ああ、扱いやすくて助かります。
「ええ、約束するわ!だから早く!」
「じゃあ仕方ない、やるか!」
そういうとアネットは大きく息を吸い込んで、
「待ちなさいよ!この貧乳ー!」
とんでもないことを叫びました。
「ア、アネット様ぁ!?」
すると、まっすぐ建物へ向かっていた姉様がピタリと足を止め、
「死にたいようね……殺してやるわ」
恐ろしいほどの殺気と共に振り返りました。
「おお!流石アネット、効果は抜群ですね!」
関心、関心。
「怖っ!」
「ぎゃー!」
まあ、本人達は生命の危機を感じているようですが。
さあ、次です。
「いい感じですね。では、行け!アネット、リゼット、体当たりよ!」
「「!?」」
私は少しでも時間を稼ぐべく、次の指示を出しました。
ですが、二人は渋っているので、仕方なくお尻を叩きます。
「ご褒美要らないの?行って!」
「ああ、もぅ。死んだら化けて出てやるんだから!」
「怖いですぅ」
そして、二人して姉様に特攻を仕掛け……。
「「うわー!」」
「……」
ドゴォ!っと、姉様に掌底を撃ち込まれ、瞬殺されました。
「ヴォェ!」
「ぐはぁ!」
ふむ、予想通り呆気なく散りましたね。
まあ、多少の時間は稼げましたから、連中にしては上出来です。
さて、では本命といきましょうか。
「親衛隊!集まって!」
「「「はいっ!」」」
元気よく返事をして三十人程の変態……もとい令嬢達が私の元へ集まりました。
「打ち合わせの通り、姉様を捕まえて下さい。上手くいったら報酬は思いのままです!」
そして、私は指示の確認と、報酬を強調し彼女達の士気を高めました。
「「「おおー!」」」
よし、ヤル気満々ですね。
「いいですわね、では……突撃!」
私は親衛隊に突撃を命令しました。
すると、令嬢達は怒涛の勢いで姉様に突撃していきました。
全く、恐ろしいほどの衝撃力です……さっきの近衛歩兵などより、よっぽど迫力があります。
いやー、この日の為に親衛隊を買収しておいて本当に良かったです。
幾らバーサーカー状態の脳筋姉様でも、可愛い妹分達を相手に無茶は出来ない筈ですからね……多分。
さあ、どうですかね。
最初の近衛歩兵の攻撃で弱った?ところに親衛隊の突撃。
そう、一見無謀に思える近衛歩兵の突撃は、実は姉様を消耗させると言う意味もあった……のですが、元気いっぱいに見えますね……。
ま、まあ兎に角、経過を見守りましょうか。
流石の姉様も親衛隊の裏切りに驚いているのか、呆然と立ち尽くしています。
「み、皆さん!落ち着いて下さい!」
そして、彼女達を止める為に必死に姉様は叫んでいますが、
「「「セシル様〜!大人しくお縄に!」」」
残念ながら報酬に目がくらんだ彼女達には全くの無意味です。
「え?ちょっと待ってください!怖いです!」
「「「セシル様〜!」」」
更に勢いを増す親衛隊の迫力に珍しく動揺したセシル姉様は後退り、そして脚を縺れさせバランスを崩して転び掛けました。
おお、これは本当に珍しいですね、よっぽど動揺しているのでしょう。
そして、ちょうどそこへ一切の躊躇が無い親衛隊が到達し……。
「わーっ!皆さん止まって!止まって下さい!きゃー」
「「「頂きます!」」」
なんと、あのセシル姉様がなす術なく、まるで棒倒しの棒の様に引き倒されてしまいました。
さらに、その上から変態、もとい令嬢達が大量に覆い被さり見事に捕獲されてしまいました。
恐るべし、変態令嬢達。
数分後、縄でグルグル巻きにされた姉様が私の前に転がされました。
くくく、まるで芋虫の様です。
まさに知力の勝利です!腕力が戦力の決定的な差ではないことを脳筋に教えてやることができました!
「姉様、少しは落ち着きましたか?」
「マリー、どう言うつもりなの?早く縄を解いて」
そう言いながら芋虫はジタバタ暴れています。
「そうしたいのは山々なのですが、それでは落ち着いてお話ができませんので」
「私は冷静です!早くフィリップ様を殺らなければならないの!だから早く……」
冷静?どこが?
「全然ダメじゃないですか……」
「いいから早くして下さい!早く!」
ああもう、仕方ありません。
「姉様、それ以上騒ぐと親衛隊の餌にしますわよ?」
「っ!」
お、効果は抜群です。
やっとこれでスタートラインですね。
「さあ、話をしましょうか」
………………。
…………。
……。
「……と、証拠、証人等、色々と準備が整い次第、直接乗り込む予定ですから、勝手に殺らないで下さいね?」
「嫌ー!私が殺るのー!」
「……ですから」
………………。
…………。
……。
「……と、その様な理由で、アレが死んでしまうとリアンお義兄様が困ってしまうので、控えて下さいね?」
「だから、私の手で裁きたいの!絶対許さない!」
「……くっ、このアマ!」
………………。
…………。
……。
「いい加減に理解して下さい、姉様!」
「嫌ー!私が殺る!殺るったら殺るのー!」
「そんな物騒なことを駄々っ子みたいに言わないで下さいな……」
ああ、私もうダメです。
疲れました。
やはりバーサーカー状態の脳筋に話は通じませんね。
これはやはり連中の餌に……、などと考えていると急に横から声がしました。
「ちょっと、女の子がヤル、ヤル言わないの!はしたないじゃないの!」
声の主は姉様に瞬殺されたアネットでした。
「私が絶対や……って!ビッチの貴方だけには言われたくないですよ!アネット!」
「お、やっと正気に戻ったみたいね」
おや、これはアネットお手柄です。
あのバーサーカー状態の姉様を正気に戻すとはやりますね。
「あらアネット、復活したの?」
「ええ、今やっと意識が戻ったところなのよ」
よく見ればアネットはボロボロです。
「はいぃ〜、死ぬかと思いましたぁ〜」
リゼットも無事だったようですね。
「二人共、ご苦労様」
「はいはい、じゃあアタシは帰るわよ?もう用済みでしょ?」
疲れた顔でアネットが言いました。
「はい、もう用済みです。帰っていいですよ?」
「了解、じゃね〜」
アネットがそう言って片手を上げました。
「あ、ちょっと待ちなさい」
と、ここで私は一つ思い出してアネットを呼び止め、
「えぇ?まだ何かやらせる気ー?」
何を勘違いしたのかアネットがもの凄く嫌そうな顔で振り返りました。
「違いますよ。これを」
そして、私は金貨の詰まった革袋を渡しました。
「え?え?何これ?」
「何って報酬ですよ?姉様を足止めした分と、前回水責めにした分です」
「え?いいの?やったー!てか、前回のあれ、お金がつくのね……」
そう、私は忘れていた前回の分も合わせて報酬を支払うことを思い出したのです。
「あと、明日から3日間お休みでいいですから。では、ご機嫌よう」
まあ、頑張ってくれましたから、偶にはいいでしょう。
「え?本当にいいの!?やったー!」
ここまで喜んでくれると、なんか嬉しいですね。
「いいなぁ〜、羨ましいしいですぅ〜」
とそこで、横にいたリゼットが羨ましそうに言いました。
ああ、忘れていました。
「何言ってるの?リゼット、貴方もですよ?はい、これお小遣い」
「えぇ!?あ、ありがとうございますぅ〜!マリー様ぁ!」
それを聞いたリゼットは子供のように飛び上がって喜びました。
「どう致しまして」
私だって一応、彼女達の働きには感謝を……、
「今までケチンボで傲慢なお子様とか思ってましたけど、実は優しかったんですねぇ〜」
前言撤回。
「沈められたいの?それとも絞られたい?」
「ひぃ〜、ごめんなさいぃ〜」
この牛女め、ステーキにしてあげようかしら。
そんな私の内面を察したのか、そこでアネットが動きました。
「さあ、これ以上ボロを出す前に行くわよリゼット!今夜は飲むわよ!」
「了解ですぅ〜、アネット様ぁ〜。では、失礼致しますマリー様ぁ」
そして、仲良く去っていきました。
あの二人、いつの間に仲良くなったのかしら?
さて、うるさいのがいなくなって、姉様も正気に戻りましたし、今度こそちゃんと話をしましょうか。
………………。
…………。
……。
「……と、言うことで今度こそ分かりましたね?姉様?」
「はい、わかりました。フィリップ様には手を出しません」
ふぅ、任務完了です。
やっと終わりました。
ああ、凄く疲れました……。
戻って甘いものでも……。
「それでマリー、そろそろ放して欲しいのだけど?」
ああ、そうだ、忘れていました。
「分かりました、姉様。でも、その前に……」
「?」
さあ、姉様には少し反省してもらいましょうか。
「親衛隊の皆さん!カモン!」
「「「はい!」」」
私はお預けをくらっていた親衛隊を呼びました。
「今日はご苦労様でした。皆さんの協力のお陰で無事、セシル姉様を捕獲することが出来ました。と、言うことで約束の報酬をお支払い致します」
「「「やったー!」」」
そして私は契約に基づき、彼女達に報酬を支払います。
因みに、皆様はもうお気づきとは思いますが、親衛隊への報酬、それは……。
「では皆さん、約束通り、セシル姉様を好きにしていいですわよ」
「……え?冗談ですよね?」
それを聞いた脳筋が足元で、ぎょっとした表情でこちらを見ました。
「姉様、私、冗談は嫌いなんですよ」
なんてね。
「「「セシル様〜!」」」
そして、タガが外れた親衛隊が一斉に姉様に群がりました。
「きゃー!ちょ、ちょっと、待って下さい!一体何を!?というか皆さん、目が怖いです!」
「「「頂きます!」」」
クク、ランスのシロクマも地に墜ちましたね。
いいザマです!少しは反省してください。
おや?姉様はまだ諦めていないようです。
姉様は、自分を襲う輪から少し離れたところで申し訳なさそうに佇んでいた二人に叫びました。
「エ、エリーズ!リアーヌ!助けて下さい!」
ですが、
「申し訳ありません、セシル様」
「姉御、ごめんなさい」
二人とも目を背けました。
残念でした、エリーズは姉様の精巧な肖像画、リアーヌは姉様が昔使っていた武具で買収済みなのです。
「なっ!?」
こうしてシロクマの最後の希望は打ち砕かれました。
「残念、二人も買収済みです」
「くっ、この小悪魔め!」
いやー、姉様の悔しがる顔は最高です。
「姉様が暴れるから悪いのです。素直に話が出来れば何もなかったのですから……呪うなら自分の脳筋さを呪って下さいな」
ニヤリ。
「くっ!……よくもやってくれたわね、マリー。ただでは済まさないわよ!?」
シロクマが負け惜しみをほざいていますね。
「くっくっく、そんな状態で何が出来ると言うのです?反撃など不可能ですわ」
全く、見苦しいですわねぇ、ククク。
「こうなったら、死なば諸共!」
おや?今更何を?
そして、姉様は息を一杯に吸い込むを、
「皆さん!聞いて下さい!私の名において宣言します!マリーのことも好きにしていいですよ!やっちゃいなさい!」
そう叫びました。
「何を馬鹿なことを……私のような子供になんか誰も……え?」
あれ?姉様を囲んでいる三十人ぐらいの内、十人ぐらいが反応してこちらに近づいてきましたよ?
「マリー様!実はマリー様のこともお慕いしておりました!」
「きゃー!マリー様ー!」
え?え?何これ怖いです!
何故だか身の危険を感じます。
こうなったら仕方ありません、実力行使です!
「レオニー!リゼット!私を守りなさい!」
………………。
…………。
……。
「あ、あれ?返事がありませんね……あっ!」
し、しまったレオニーは不在でした!でもリゼットは……あっ!
無情にも視界の彼方に見えるリゼットとアネットは私に気づかず、仲良くそのまま歩き去ろうとしていました。
「ちょ、ちょっとリゼット!アネット!戻りなさい!助けてー!報酬なら幾らでも出すからー!」
と、私の叫びも虚しく、連中は歩き去りました。
ああ、まずい!護衛がいなければ私は唯の無力な美少女です。
そして……。
「ぐふふ、マリー様〜」
「じゅるり、痛くしませんから〜」
「ぐへへへ……」
気が付けばゾンビのような変態達が間近に迫っていました。
「ひぃっ!こ、来ないで!嫌ー!」
私は思わず逃げようとしましたが、焦ってバランスを崩し、尻餅をついてしまいました。
「ふぎゃ!痛た……。あ、ああ……。いやー!」
一方、マリーの悲惨な最期を見届けたセシルは。
「よし、最期に一矢報いたわ……やっぱり私、不可能を可能に……ガクっ」
そして力尽き、令嬢達に飲み込まれていったのであった。
お読み頂きありがとうございました。




