40話「悪役令嬢爆誕⑥」
さあ、お父様の反応は?
「ただいま。皆ご苦労……なっ……!」
玄関からこちらを見たお父様は目を見開いて固まってしまいました。
えー、この反応は……滑りましたかね。
何かしらリアクションをしてもらわないと、なんだか気まずいのですが……。
と言うか、よく見たらお父様と、出迎える為に集まっていた使用人達も残らずフリーズしています。
そう言えば今日の出迎えは古参の使用人が多いようですから、やはりこのネタは受けませんでしたか。
これは、この微妙な空気を何とかしないといけません。
かくなる上はお母様定番のキメ台詞で場の空気を暖めねば!
おあつらえ向きに、今日はお父様に若い女性秘書のメラニーがついて来ています。
私はこの方とお父様の間に何もないを知っていますので(あったら色々な意味で大問題ですが)大丈夫ですが、これをお母様が見たらきっとこう言うでしょう。
「この浮気者」
階段の上から私は、お父様達を鬼の形相で見下ろしながら静かに言いました。
これぞ、ザ・お母様です。
そう、実は一番お母様らしい台詞とはこれのことだったのです。
お母様はお父様のことが好き過ぎて、しょっちゅうこんなことを言っていました。
全く、流石に嫉妬し過ぎしょう。
困ったものです。
え?何か私に言いたいことでも?
因みに演技に真実味を持たせる為に、リアン様があの女に取られた時のことを思い出しながら言いました。
ああ、なんだかイラッとして腹パンしたくなって来ましたね。
さて、今度こそお父様のリアクションを期待して待つとしましょうか。
きっと、「セシル、雰囲気は似ているが、まだまだだな」とか、「面白い趣向だったよ」とか、言いながら笑ってくれるに違いありません。
ああ、そう言えば、横にマルセルを侍らせておけばよりリアリティが出たかも知れませんね、残念です。
そんなことを考えているとお父様が……いきなりこちらに向かって走り出しました!
え!?何?
そして、遅れて使用人達も慌ててこちらに駆け出しました。
このリアクションは想定外です。
もしかして、お母様の姿で遊ぶな!とか怒られてしまうのでしょうか?
そして私の元まで来たお父様は、誇り高きスービーズ公爵にしてランス王国宰相のお父様は……勢い良く土下座しました。
「ナ、ナディア!誤解だ!メラニーはただの秘書で何でもないんだ!」
「……」
は?
いきなり何を?
と、今度は使用人を代表して家令のマルタンが必死で弁明を始めました。
「お、奥様!旦那様は清廉潔白、やましい事は何もございません!どうか、怒りをお静めくださいませ!」
「マ、マルタンの言う通りだナディア!私は何も……」
おや、これは……ああ!なるほど!
優しい皆は私の演技に付き合ってくれているのね!
滑った私に恥をかかせない為に。
これは、私も頑張らないと!
「お黙りなさい!」
私は一括しました。
「「「ひっ!」」」
「白か黒かは私が決めることです」
「「「も、申し訳ありませんでした!」」」
「宜しい」
あ、何だかこれ楽しいです!
「さて、エクトル様、私に何か言うことはありますか?」
「ナディア、私は誓って君を裏切ったりはしていない!だから……殺さないで!セシルの嫁入りもまだなんだ、だから……」
「……」
うわぁ、流石に命乞いはちょっと予想外でした。
お父様の迫真の演技は凄いですが、これはなんか情けなくて引きます。
というか、私が忘れていただけでこういうやり取りが昔、結構あった様な気がしてきました。
お父様はイケメンですからね、既婚だと知りながら言い寄る女性は多かった筈です。
まあ、お母様の深過ぎる愛の前には無駄なことでしたが。
「お、奥様!」
主人の危機を救う為に、決死の覚悟で発言を試みる、と言う演技をするマルタン。
「何か?」
「重ねて申し上げますが旦那は無実ございます!そして、今回セシルお嬢様があのような目に遭ってしまったのは私共にも責任がございます!……罰ならば私が受けます、ですからどうか旦那様の命だけは……」
マルタンは主人思いの良い使用人ですね。
では、私も頑張るとしましょうか。
「全く、大の大人が命乞いとは情けない。恥を知りなさい!」
「「ぐはっ!」」
さて、次はどうしようかと考えていると、横から声がしました。
「セシル、もうそのくらいにしておいたら?エクトル叔父様達がストレスで死んでしまうわ」
秘書改め、私の従姉妹メラニーが見かねて割り込んできました。
「ええー、良いところでしたのに残念。ねぇ、皆さん?」
私は表情を崩し、苦笑しながら私の為に付き合ってくれた皆さんに話を向けました。
「……は?セシル?こ、これは一体?」
「ま、まさか奥様ではなくセシル様なのですか!?」
あら、お父様もマルタンも何か反応がおかしいような気がします。
まさか、私を本当にお母様だと思っていたのでしょうか?
「はい、如何にも私はセシルですが?お母様のお部屋でこれを見つけて着てみたのですけれど、折角ですからお父様に少し驚いて頂こうかと思いまして」
私はドレスを摘みながら言いました。
「「……」」
「お父様達は私の趣向に付き合って演技をしてくれたのではないのですか?」
「「……」」
あら、二人共黙ったままです。
「お父様?マルタン?」
「そ、そうか……はは、セシル、悪戯は程々に……しな、さ……」
再び呼びかけるとお父様はそのまま崩れ落ちました。
「旦那様が倒れられた!た、担架だ!」
我に返ったマルタンがお父様に駆け寄って介抱しながら、急いで指示を出し始めました。
そこで私は、
「お久しぶりねメラニー、お父様はこの有様ですから、二人でお夕食にしましょう」
久しぶりに会う従姉妹とお食事をすることにしました。
「え、ええ。それはいいのだけど……叔父様が……」
「土下座して命乞いをするような情けないお父様など放っておけばいいのです。さあ、行きましょう」
「わかったわ……」
そして私は従姉妹と楽しく食事をして、後からマルタンに小一時間程お説教されました。
私、何も悪くないのに!
その後、自室に戻った時でした。
「失礼致します。お嬢様にお茶会の招待状が届いております」
リディが銀のトレーに封間を乗せてやってきました。
「ありがとう、リディ」
そう言って私は招待状を受け取りました。
しかし、それに使われている封蝋を見てげんなりしてしまいました。
これはいわゆる、私の敵対派閥のボスのものだったのです。
「開けたくないわ……」
「お嬢様、やはりお断り致しましょうか?」
気まずそうにリディが申し出てくれました、ですが……。
「そうもいかないのが辛いところなのよね」
諦めつつ、封間を開封するとそこには更に嫌な内容が書かれていました。
要約すると、明後日にトゥリアーノン宮殿のサロンでお茶会をやるから来い、王子様に振られたアンタを慰めて(馬鹿にして)やるから、とのことでした。
しかも、最悪なことに敵対派閥のリーダー達の連名で。
明らかに私を嬲りものにする気です。
大方、私を精神的に痛めつけてそれを肴に美味しいお茶を飲むつもりなのでしょう。
相変わらず、姑息で嫌な連中ですこと。
「はぁ、行きたくないわ」
もう、ため息しか出ません。
すると、そこでリディが、
「あ、あの!お嬢様!」
「何?」
「ご提案がありまして……、もう行くと決まっているのなら、覚悟を決めて戦うというのは如何でしょうか?」
「戦う?」
戦う、とは可愛いリディに似合わない単語が出てきましたね。
「はい、折角、奥様のお洋服も見つかったことですし、明後日はそれらを着込んで連中と向き合いましょう!」
両手を握りして一生懸命にリディはファイティングポーズを取っています。
「向き合って、戦う……いいわね!私としたことが一体何を遠慮していたのかしら!もう、王妃になる訳でもないし、あんな連中に遠慮することないものね!ぶっ○してやるわ!」
ありがとうリディ、私、もう何も怖くないわ!
「お嬢様、流石にそれは……」
「私、自由にやると決めたのだから、有言実行!では早速、プランを考えましょうか」
お読み頂きありがとうございました。




