第253話「やさぐレオニー②」
水をぶっ掛けられた上、強制的に店を追い出されてしまったレオニーは、そのまま暫く店の前で力無く転がっていた。
それから少し時間が経ち、漸く緩慢な動作で立ち上がると今度はフラフラとゾンビのように徘徊を始めた。
そして、当てもなくフラフラしていた彼女が街の中でも特に治安の悪い裏通りに差し掛かった時。
「……囲まれた、か」
レオニーは小さくそう呟き、動きを止めた。
直後、物陰から明らかにカタギではない輩が数十人出てきて囲まれた。
しかし、レオニーは全く動じず、静かに言った。
「正直、今はそんな気分ではないが……細切れにして欲しければ掛かってくるがいい」
そして、その言葉と同時に鋭い殺気が彼女に宿り、アウトロー達がたじろいだ。
と、そこで慌てて一人のガタイのいい中年男が進み出て言った。
「ま、待ってくれ!俺たちはアンタとやろうってんじゃないんだ!」
「ん?……目的はお前達のボスの敵討ちではないのか?……では……一体何の用だ?」
そう言われたレオニーは訝しみながらも殺気を和らげ為、アウトロー達は胸を撫で下ろし、代表の男は話を続けた。
「いやー、アンタは本当に凄いな……おっと、失礼。俺はアラン、元ブラックタイガー一家の幹部だ。実はアンタに頼みがあってな」
「何?貴様らの様な連中が……私に頼みだと?」
それを聞いたレオニーはますます訝しんだ。
「ああ、そうだ。だが、こんな場所で出来る話でもないんだよ。できれば落ち着いて話が出来る場所へ移動したい。だからここは一旦俺たちに着いてきてくれないか?」
それを聞いたレオニーは無表情のまま答える。
「私がお前達を信じられると思うか?」
「まあ、そりゃあ信用出来ないだろうが……」
と、アランは困ったような顔で頭を掻きながら言った後……。
「でもアンタ程の腕が有れば、俺達ぐらい何時でも皆殺しに出来るだろう?」
そう続けてニヤリと顔を歪ませた。
「ふむ、確かにそうだな……面白い、いいだろう。お前達の話を聞いてやる」
その受け応えが気に入ったのか、レオニーは普段の彼女なら絶対に乗らないであろう敵の提案を承諾したのだった。
それからレオニーがアランに案内されたのは、ついこの間彼女自身の手で活け作りにして地獄へ送った前ボス『ブラックタイガー』の屋敷だった。
その贅沢ではあるが厨二趣味がかなり入っているちょっと残念な屋敷にある豪華な客間のソファに落ち着いたところで、二人は話を再開した。
「それで話とは?」
ソファにゆったりと腰掛け、長い足を組んだレオニーが早速問うた。
「ああ、実は……アンタにウチのボスになって欲しんだ」
するとアランはとんでもない事を言い出した。
「……は?何だと?私がお前達のようなアウトローのボスになれだと?」
これには流石のレオニーも僅かだが驚きを表情に出してしまうぐらいに驚いた。
「そうだ」
アランは真面目な顔で頷いた。
「ふざけているのか?私はお前達の主を殺した女だぞ?」
それに対してレオニーは再び完全な無表情に戻ってそう聞いた。
「……だから、だ。俺達悪党の世界では力が全てだ。前のボスはアンタより弱かったから負けた、それもなす術なく瞬殺だ。それが全てだ」
「……(暗部組織で育った者として、それは分かるな)」
「だがら、その強い……いや、あまりにも強過ぎるアンタに次のボスを頼みたい。それが理由だ。シンプルだろう?まあ、前のボスは少し厨二趣味な上、性格も悪かったから人望が無かったのもあるけどな」
「……(確かに奴は私の繊細な心を踏み躙ったからな……腹いせに活け作りにしてやったが)」
「あと何があったか知らないが、見たところアンタもフリーになっちまったようだし……どうだろう?俺達と一緒に裏の世界で頂点を目指さないか?あと、これでも俺達はブラックタイガー一家の中でも特に仁義を重んじる一派なんだ。忠義は尽くす」
そう言ったアランの顔は真剣だ。
「……(確かに今はフリーだが……無頼の者たちの長になる?私が?……ふざけるな!私はマクシミリン殿下の誇り高きシュバリエ……いや、もう要らないと言われたのだったな……ぐすん……殿下に不要と言われ、全てを捨てた今の私はただの生ける屍……いっそのこと、落ちるところまで落ちてしまうか?いや、しかし……)」
と、レオニーがアランの言葉で色々と葛藤していると更に話は続く。
「それとアンタにはあまり欲が無さそうだから魅力はない話かもしれないが……アンタが本気になれば何だって手に入るぜ?莫大な金、地位や名誉、それに男だって食い放題だ」
「男?」
その単語にレオニーが初めて反応を見せた。
「ああ、確かにアンタは美人だが狙った男の全員を落とせるわけじゃないだろう?そんな時、普通は諦めるしかないが……俺達の世界では人間が持つ欲を力で丸ごと肯定するんだよ。つまり、相手が嫌がっても強引に自分のモノに出来るんだ。欲しいと思えば例えどんな相手でもな」
「どんな相手……でも?」
当然レオニーは一匹のシャケを思い浮かべた。
「ああ、商人の息子だろうが、騎士だろうが……アンタ程強けりゃ王族だって強引にモノに出来るかもな」
アランはそう言って笑った。
勿論、最後のは『王族』は冗談だったが、レオニーは冗談にはとらなかった。
「王族だと?(確かに裏の世界で莫大な金や貴族達と黒いコネを作れば、内情を知っている元暗部の私なら可能性は……)」
「まあ、それは例えばの話だ……がっ!?」
そう考えたレオニーは次の瞬間にはアランに掴みかかり、血走った目をしながら仰天したアランに鋭く問うた。
「今の話、本当だな??だな!?」
「く、苦しい……死ぬ……ぐえ」
「おい!本当なんだな!?」
首を絞められて苦しむアランをゆさゆさしながら容赦なくレオニーは確認を求める。
「あ、ああ……アンタなら出来る……と思う……ぜ……うお!」
それ聞いた瞬間にレオニーはアランを捨て、邪悪に笑って言った。
「ふ……そうか……そうだ!欲しいものは力で奪い取ればいいんだ!何だ……なんて簡単なことだったんだ!……ハハ、アハハハハハ………………アラン!」
「お、おう……」
死に掛けた上、レオニーの凶悪な笑みを見せられたアランは名前を呼ばれ、何事かと恐怖で意識が飛びそうになりながら反応した。
するとレオニーの口から予想外の言葉が出てきて彼を別の意味で驚かせた。
「私はお前の話を受けよう」
「え!?い、いいのか!?」
「ああ、任せろ」
「よし、では決まりだな……じゃあ宜しく頼むぜ……いや、宜しくお願いします、ボス」
アランは自分の新しいボスに頭を下げた。
「ふ、任せろ(くく、殿下は私のものだ……たとえ力ずくでも!)」
そんな新しい部下に、自らの欲望に忠実になったレオニーはニヤリと笑った。
「ひぃ!?と、ところでボス、今更ですが……お名前を伺っても?」
その笑みを見たアランは恐怖を覚えながら、大事なことを思い出して聞いた。
「名前?ああ、私はレ……いや、違う」
と言い掛けて彼女は首振り、逡巡した。
以下、レオニーの心の中。
殿下に捨てられたレオニー=レオンハートは既に死んだのだ。
だから、ここにいるのはマクシミリアン殿下の騎士レオニーではなく、ただの無頼の輩。
そう、つまり私はレオニー=レオンハートから生まれ変わるのだから新しい名を考えねば……。
だが、私にそういうセンスは無いからな……。
こういう時、マリー様やリゼットなら上手く考えるのだろうが……。
まあ、取り敢えず考えてみるか。
うーん……元がレオニー=レオンハートだから略して……レオン?
いや、これは何だか恋人に振られて深酒した挙句、配属先の警察署に遅刻してゾンビと戦う事になりそうだ。
それに普通過ぎて個性が無い気もするし……。
では他には……えーと、レオンハート……ハートとか?
いや、これは私には可愛い過ぎるな。
頭にキュアとか着きそうだし……私には似合わん。
それにきっとマリー様とリゼットなら……。
マ「は?キ◯アハート?レオニー貴方、仕事のし過ぎか深酒でもしたの?それともお義兄様のことが好き過ぎて頭がパーになったのかしら?コスプレするなら貴方はエロ際どい衣装を着た敵役でしょう?」
リ「ブハハハハ!レオニー様がキュ◯ハートぉ〜?それ本気で言ってるんですかぁ〜?年齢的にキュアBBAになっちゃいますよぉ〜?」
……よし、殺そう。
さて、だが困ったな……。
やはり生まれ変わろうと言うのに、古い自分の名前から取ろうと言うのはダメなのか?
では一体誰からとる?
と、考えれば真っ先に頭に浮かんだのは当然あのお方で……ああ、心が痛い……痛過ぎる……いや、しかし。
私如きの偽名に一部でもあのお方の御名を使うのは流石に恐れ多い……。
ああ……これでまた振り出しか……。
うーん、どうしたものか……む?
そうだ、あの方の『偽名』を参考にするのはどうだろうか!?
偽名ならばそこまで失礼に当たらないだろう……いや、未練がましいだろうか?
でもでも……だって……。
私にとってあの方の存在は、そんなに簡単に割り切れるものではないし……。
というか……ぶっちゃけ、忘れたくない!
と、言う事で決まり!
では早速、考えようか。
まず、あのお方の偽名は『リアン(Lien)=(Lambert)ランベール』だから……。
そのままリアン?
ふぁ!?無理無理!その名前を名乗ったり、呼ばれたりする度に胸が苦しくて死ぬ……。
ではアン?……ん?これは第六感が受信する作者の声が、海の向こうにいるかもしれないビッチと被るからやめろと言っている……。
むー……では頭文字だけにするか?
L?
悪く無いが……デ◯ノートかメンイ◯ブラックみたいだ……。
もう少し捻らないと……ではLL?
響きが服のサイズの様で微妙だな……あ、そうだ!
それならばエルが二つで、エルツーと読むのはどうだろうか!?
この読み方はなんかイケてる気がする!
うん!これいい!この響き絶対カッコいい!
私の魂がこれにしろと叫んでいる!
不死になったり、絶対遵守の王の力とか使えそうだし、うん!決まりだ!
我ながら素晴らしい!テンション上がって来た!
あと、新しい名前を決めたらそれに相応しい装いが欲しくなってきたな。
と言っても、そんな都合よく服がある訳が……ん?あ、あれは!?
私が何気なく視線を向けた先に並んでいる鎧の中に、一つズバ抜けてイケてる(奇抜)なデザインのものがあった。
あの鎧の仮面……カッコいい!
再び私の魂が反応した。
そして、他にも何かわたしの魂を惹きつけるものないかと反対側の壁を見れば、そこに飾ってある真紅のマントもイケてる!
これも魂が(以下略)。
つまり、これらを組み合わせたら最強では!?
おお!更にテンション上がってきた!
さあ、早速装備するとしよう!
以上、レオニーの心の声。
それからレオニーはアランが何事かと狼狽するのに目もくれず、ツカツカと壁際まで移動すると躊躇なく銀色の仮面と真紅のマントを装備。
それから彼女は向き直り、シュタッ!と鳳凰院◯真のようなポーズをとり、キメ顔で宣言した。
「我が名はL.L!これからランスの裏社会を統べる者だ!ハーハッハッハ!」
「ふぁ!?」
こうして歩く黒歴史……もとい、ランス裏社会の新たな支配者『女帝L.L』が誕生してしまったのだった。
お読み頂きありがとうございました。




