第237話「豊胸戦記19 欲張りセシロクマ、天罰が下る」
「セシル!」
私が絶望して泣き出したその時、聞き慣れた大好きな声が……愛おしいあの人の声が私の名前を呼びました。
ああ、何ということでしょう。
私、絶望とリアン様への強過ぎる愛の所為で幻聴が聞こえてしまいました。
どうやら私はリアン様成分の枯渇と深過ぎる悲しみで頭がどうかしてしまったようです……あ、今、元々お前の頭はどうかしている、と思った方、夜道を歩く時は背中に気をつけた方がいいですよ?
とか、思ったのですが。
「ふぇ!?」
次の瞬間、その幻聴に続いて私の身体は誰かに強く抱きしめられ、驚いた私は咄嗟に情け無い声をあげてしまいました。
因みに私は両手で顔を覆ったまま固まっているので何も見えていません。
それからその声の主は、
「遅くなってすまない、もう大丈夫だからね?」
と、私に優しく声を掛けてくれました。
その瞬間にこれが本物のリアン様だと確信した私は嬉しさと驚きに加えて、情け無く泣いている所を見られてしまった恥ずかしさで大パニックです。
「リ、リアン様!?何で!?ええ!?ちょ、あの、その、くぁwせdrftgyふじこlp!?」
因みに何故、何も見えていないのにこれが本物のリアン様だと分かるのかと言えば……。
それは簡単、いきなり抱きしめられたにも関わらず、その瞬間に私の身体が反応して相手をブチ殺していないから。
つまり、私の本能がこれは本物のリアン様で間違いないと言っているのです。
私の美しい身体はリアン様専用なので、その他の有象無象は自動的に身体が迎撃してしまうんですよねー。
当然、相手は死にます。
そして、私を優しく抱きしめている腕から伝わってくる温もりに幸せを感じながら思いました。
リアン様は『女の子の身体ってこんなに軽く柔らかくて……あといい匂いがするんだな……』とか思っていたりするのでしょうか!?
だったら嬉しいなぁ……いや、絶対にそう思ってくれている筈!
惜しむらくは、もう少しだけ身体の一部が豊かで有ればこのイベントがラッキースケベ的なものとなり、リアン様の好感度爆上がりだったことです。
くっ……持たざるものは辛いものです……ああ、やはり泉が埋まってしまった事実は辛過ぎますね……。
そんな事を考えていると、リアン様は怒気を孕んだ低い声で言いました。
「お前達、表へ出ろ!」
きゃー!素敵!
リアン様イケメン!(見えないけど)
超カッコいいです!
しかも私の為に!
私だけの為に怒ってくれているとか……幸せですー、えへへ〜♪
そして、それに続いてリアン様の私を抱く腕に力がこもりました。
「ふぁ!?」
それからリアン様の吐息が聞こえ、温もり、匂い、が!
ハァハァ……幸せ過ぎて私、私!
「……きゅう!」
私の意識はここで途切れました。
原因はリアン様成分が払底していたところに突然本人が現れ、しかもいきなり抱きしめるという超急速充電をしたのと、凛々しいお姿が眩し過ぎて私の精神が限界を超えて気絶してしまったことでした。
翌朝、何故かシャケの姿になってしまったリアン様を、これまた何故かシロクマ姿の私が追いかけ回しているという不思議な夢を見ていました。
「ぐへへ、リアン様〜もう逃がしませんよ〜……大丈夫ですからね〜、痛くないですからね〜……ぐふ、頂きま〜……ぶっ!」
そして、必死に逃げるリアン様シャケを遂に仕留め、丸呑みにしようとしたその時、私はベッドから落っこちて強制的に目を覚まし、見知らぬ床と対面しました。
「イタタ……ふぇ?ここは?」
あと、普通こう言う場面では見知らぬ天井と対面するものだと思うのですが……。
「ああ!良かった!お嬢様、お目覚めでございますね!」
私が床で殴打した顔をさすっていると、マルセルが駆け寄ってきました。
「ん?ああ、マルセル、おはようございます」
「おはようございます、お嬢様」
「あの、よく覚えていないのですが、昨日私はどうなったんですか?」
何故かリアン様にハァハァしていた後の記憶がないんですよね。
……あ!も、もしかして!
暴走していたから記憶がないとか!?
実は覚えていないだけで何か『やって』しまった、とか!?
ふぇー!?
初めてが公衆の面前とかヤバいです!
……いえ、それより責任を取って下さい、ウルルン!と詰め寄ればリアン様は私のものになるのでは!?
と、ここでマルセルが冷静に答えました。
「はい、お嬢様は昨日マクシミリアン殿下の腕の中で、幸せ過ぎて頭のヒューズが飛び、気絶しました。その後、我が軍が接収したバイエルライン貴族の屋敷に運ばれました」
まあ、何となく分かっていましたけどね。
「……ですよねー……なるほどー……ん?そう……あ!そうだ!リアン様!私のリアン様は!?」
「殿下はお嬢様のものではないと思いますが、貴方様の為に怒ったあの方は腰砕けになった外交官達を一喝して追い払いましたよ」
「そうですかー、久しぶりに男らしいリアン様を見たかったなぁ、それでその後は?あとリアン様どちらに?」
気配と温もりオンリーというお預け状態だったので、そろそろモノホンのリアン様にお会いしたいのですが。
「殿下は我が軍の司令部で現状を把握をされた後、ヴァルター王やこの国の有力者達と今後のことを話し合われました。それから宿舎へ入り、お休みになられました。その際、随分お嬢様のことを心配されておりまして、朝一で顔を見に来られるとのことでしたので、間も無く参られると思いますよ?」
「まあ!私を心配?ふふ、そうですか〜そうですか〜えへへ、私を心配してくれているのですか〜ふふ」
リアン様優しい!大好き!
「あと、それに加えて昨日軽く伺ったのですが、一連の騒動を起こしてしまったお嬢様の責任問題の落とし所として、この国の民に大変人気のあるお嬢様に暫くこの国を治めて欲しいと仰っていました」
「ええ〜またリアン様と離れ離れになるのは嫌です!もう帰りたいです〜」
例の泉がダメだとわかった以上、もうこんな土地に用はありません。
セシルはお家に帰り、それからリアン様とイチャイチャしたいのです!
「……それはご自身で殿下に申し上げて下さいませ。さあお嬢様、兎に角身支度を……」
「まあ、そうですね……では着替えを……あ、寧ろ寝巻き姿で弱った演技をした方が同情を買えて優しくしてもらえそうな気も……うーん悩みま……す?……ん?あれ?……え?……え?えええええ!?」
そう言いながら何気なく寝巻き越しに慣れ親しんだ身体の一部を見た瞬間、私は衝撃が走り、直後に叫び声を上げました。
「お嬢様!?」
「え、え、ええええええええ!?まさか、まさかまさかまさかまさかまさかままさか!?こ、こここここ、これは!?」
私は震える両手を胸に置いたまま言いました。
「こ、これは?」
マルセルが恐る恐る先を促してきます。
「お、大きくなってる?……うん、やっぱり大きくなってます!間違いありません!」
「は?大きく?……な、まさか!?」
そこで遂に私の言わんとしたことを理解したマルセルが目を見開きました。
「はい……少しですが、胸が……大きくなってます!」
ここで私はそのことを噛み締めるように口に出しました。
ああ、生きてて良かった!
「なんと!」
目の前では常にクールなマルセルが驚愕の表情を浮かべたまま固まっています。
つまり、この事実はそれほどの衝撃だということなのです。
彼女にとっても、私にとっても。
「やはり、あの泉は本物だったんですね!……あ!ということは!ここに居座って少しずつでも毎日あの水を飲み続ければ……!」
と、私が思い至ったところで、
「セシル、私だ。マクシミリアンだ、入ってもいいかな?」
ノックと共に愛するリアン様の声がしました。
ふぉー!
このタイミングでリアン様がいらっしゃるとは!
これは何という吉兆!
「勿論オッケーで……」
と即答しようとして私はふと思いました。
いや、ちょっと待てよ?と。
確かにリアン様には超会いたいですし、胸部装甲も少し強化されました……が、しかし!
これでは全然足りないのではないか、と。
この程度ではエロボディの雌ライオンやピンク髪のサンドバッグ、そして遺伝子的に考えて将来ロリ巨乳魔王に進化するであろう小悪魔には到底敵いません。
ですが、ここで初めて光明が差したのです!
即ち、ここに居座って泉の残骸から滲み出る水を飲み続ければ近い将来、連中と互角以上に渡り合える、と。
その為には今、帰国する訳にはいかない、と。
つまり、女としての戦闘力を強化する為には、ここに残ることは寧ろ好都合なのでは?と。
と、いうことで……。
「リアン様!お待ち下さいませ!」
私は大好きなリアン様に会いたいという気持ちを必死に……本当に必死に押し留めて言いました。
「!?」
えーと、次はもっともらしい言い訳をしなくては……。
「え、えーとー私……昨日のような醜態を晒してしまい、リアン様に会わせる胸が……いえ、会わせる顔がありませんの!」
今はまだ、ですけどね!
「……そうか」
ドア越しにリアン様が肩を落とすのがわかりました。
申し訳ありませんリアン様!
目的のサイズを達成した暁には私を好きにしていいですからね!
「はい、ですので大変失礼ではありますが、このままドア越しにお話しさせて頂けないでしょうか?」
「勿論、君が望むのならば構わないよ」
私がそういうと、リアン様は優しくそう言って下さいました……好き!
「ありがとうございます、殿下」
元気いっぱいに叫びたいのを我慢しながら、私は淑やかにそう言いました。
「それでセシル、もう大丈夫なのかい?」
それからリアン様はまず、私を心配してそう言いました。
「はい、もうピンピンしてま……じゃなかった、リアン様のお声を聞いたらすっかり良くなりましたの」
「?……そ、そうか、それは良かったよ……それで話が……」
次にリアン様は少し話しづらそうに言いました。
一言、やれと命令すれば済むところなのに……ああ、やっぱりリアンは優しいです……好き!
さて、ではそんなリアン様の悩みを取り除いて差し上げますかね。
「実はお話がありますの」
「ある……ん?え?な、なんだい?」
「実は私……この国の為に……このバイエルラインの民の為に働きたいのです!」
「え?」
「開戦の理由は兎も角、私が始めた戦争の所為でバイエルラインの民や国土が傷付いてしまいました。私は誇り高きスービーズ公爵家の人間として、責任を果たしたく存じます殿下」
まあ、これも嘘ではないのですけどね。
「セシル……君は……」
これを聞いたリアン様はドアの向こう側で感極まっているようです。
よし、好感度アップです!
と、こうして私はバイエルラインに残ってこの国を治めることになり、リアン様は私を心配しながら帰国されました。
ああ、一緒に帰りたかったなぁ。
寂しいです……。
でもまあ、今ここで会えなかった分は後で纏めて払って頂きますけどね、ぐふふ。
数週間後。
バイエルライン王都、臨時の王宮にある女王セシルの執務室にて。
「女王陛下、やはり戦争の混乱の中で盗まれていたようです」
高級なマホガニーの事務机で書類に目を通していた私の横で、マルセルが宝物庫から数点の国宝が盗まれていたことを報告しました。
しかし、私は軽く溜息をついてどうでもよさそうな顔で答えました。
「はぁ、今更少しぐらい宝物が無くても気にしませんよ、それより気になることが……」
そう、今はそんなことよりも気になることがあるのです。
「……やはり、あの件でしょうか?」
「ええ、あの件です」
マルセルの問いに私は卓上にある空になったグラスを見ながら答えました。
実は女王に就任してからこの数週間、例の泉の残骸から染み出す僅かな水を貯めて毎日飲んでいるのですが、不思議なことに全くアレのサイズが変わらないのです。
あ、因みに私が女王になれたのは、ただ軍事力を保持しているからだけでは無く、実はちゃんとバイエルライン王家の血が入っていたからです。
マルセルによると、かなり昔に当家に嫁いで来た方が僅かにバイエルライン王族の血を引いていたのだとか。
まあ、王侯貴族の大半は複雑な婚姻関係の所為で大抵はそんな感じらしいですが。
閑話休題。
それで話を戻すと、心配したマルセルが半壊した城の書庫で文献を当たってくれたりしたのですが、未だに原因不明なんですよね……困ったものです。
まさか、もう大きくならないなんてことは……ないですよね?
なんかめっちゃ不安なのですが……。
とか思っていたら、
「セシル陛下!任された街の状況を報告に来たぞ!」
ノックもなしに勢い良くドアを開けてウザいのが登場しました。
「フローラ……もう、直に会うとウザいから書面でいいと言ったのに……ただでさえ私は今、深刻な悩みを抱えているのだから……」
「悩み?それはいかんな!……して陛下、その悩みとは何だ?」
私がそういうとフローラは遠慮なくズケズゲと聞いてきました。
「……ふう、まあいいでしょう。実は毎日、泉の残骸から染み出す水を欠かさず飲んでいるのですが、何故か私の……アレが大きくならないのです」
私が深刻そうな顔で言うと、直後にフローラはあっけらかんと答えました。
「ん?ああ、そんなことか!あの水を飲んでしまったのなら当然の結果だぞ」
「え?」
うわー、何だか嫌な予感が……。
「あの泉の水は強力なのだが、絶対に飲んではいかんのだ。日に一度の沐浴を数ヶ月から数年続けて、ゆっくり成分を吸収するのが正しい使い方だ」
「……え?じゃあ、飲んだら……?」
「飲んだら一度だけ効果は出るが、それ以降は耐性が出来て二度と効果がなくなるぞ」
「つ、つまり……?」
縋るように私がフローラに問うと……。
「諦めろ」
一刀両断されました。
「そ、そんな……バカな……私、もう……」
それを聞いた瞬間、私は全身の力が抜けてその場両膝を着きました。
そして、叫びました。
「もう、いやあああああ!」
豊胸戦記 完
皆様こんにちは、そしてお久しぶりです。
サボりパンダ……いえ、にゃんパンダです。
まずはお詫びを。
予告もなく長期間更新を止めてしまい申し訳ありませんでしたm(_ _)m
理由は……書けませんでした(^^;)
物理的に時間が少なかったのもあるのですが、単純にアイデアが出てこなくなってしまいまして……。
今まであれだけ脳内で騒いでいたキャラクター達がパッタリ動かなくなって、というより不在になった感じでした。
多分、連中のことですから飽きてバカンスにでも出かけていたのでしょう。
ですが、漸く皆んな帰ってきてくれましたので、今後は大丈夫だと思います(多分)。
さて、話は変わるのですが今回で漸くセシルの話を終えることが出来ました。
欲に溺れたセシロクマには天罰が下り、シャケは運良く捕食されず、次の猛獣の元へと向かうことになります。
次回からは一番人気(だと思われる)レオニーの話になりますので、お楽しみに!
最後に皆様にお礼を。
今年も一年間応援して頂き、ありがとうございました。
来年は皆様にもっともっと笑って頂けるように頑張りますので、今後ともよろしくお願い致します。
それでは皆様、良いお年を!




