第172話「笑う白豚と怪しいビッチ」
エリザがニートシャケを捨ててレオノールに浮気?しているのと同じ頃、ルビオン連合王国の王都にあるバックィーン宮殿では……。
その執務室にいる白豚こと皇太子リチャードと、アネット闇落ちverのパチモンこと愛人アンの元へ、エリザが国外へ逃亡したとの知らせが入っていた。
「……ぐふふ、そうか、あの女はランスへ向かったのか」
書類から目を上げたリチャードは意外なことに怒ったり悔しがったりせず、ゆったりとソファに座ったまま、脂ぎった顔をニヤリとさせて言った。
因みに、エリザがランス方面に向かったという報告は情報部からである。
実は情報部も国王派と皇太子派が入り混じっている状態なので、何とかルーシーが掴んだ『世間知らずのお嬢様風の厚化粧の女が、ランス行きの密貿易船へ入って行くのを見た』という情報が、少し形を変え、エリザがランスへ自発的に逃げたという内容に変わり、それが今リチャードの元へと届いたところなのだ。
「へぇ〜あの厚化粧女、ランスに逃げたんだ〜、残念〜。でも〜」
と、ここで愛人のアンが悪い笑みを浮かべながら言った。
「ん?なんだい、アン?」
「なんでリチャード様は〜、あの女を逃してしまったのに笑っているんですか〜?」
そして、素朴な疑問を白豚にぶつけた。
「え?ああ、そうか、アン。君にはまだ話していなかったね」
するとリチャードは笑顔でそう答えた。
「?」
「えーと、ねえアン。僕が昨日、あの女を断罪した時、『最期ぐらい役に立って貰う』と言ったのを覚えているかい?」
彼がそう聞くと、アンはあざとく人差し指を唇に当てながら少し考えた後、答えた。
「ん〜……あ!はい!」
「実は、あの女には元々ランスへ行って貰うつもりだったんだよ」
すると、白豚から衝撃の事実が告げられた。
「ええ!?そうなんですかぁ〜?」
これにはアンも素直に驚いた。
「ああ。捕まえたあの女を情報部を使い、密かにランスの王都へ運ぶ予定だったんだ」
「へー、それでそれで〜?」
アンがあざとく先を促す。
「それからあの忌々しい女を、トゥリアーノン宮殿の堀に浮かべさせる予定だったんだよ……つまり、運ぶ手間が省けた訳だ。加えて情報部には既にあの女をランスで拘束して、本来の予定通りにしろ、と命令をしてある」
「きゃ〜!リチャード様怖〜い!」
リチャードの話を聞いたアンが、わざとらしく怖がって見せた。
「ああ、ごめんよ!僕のアン!」
そして、そんな彼女を安心させるようにリチャードが抱きしめた。
「えーと、でもでも〜どうしてそんな面倒臭いことをするんですか〜?別に浮かべるならこのバックィーン宮殿のお堀でも〜、その辺の海でもいいんじゃないですか〜?」
「うん、単純に死んで貰うだけならそれでもいいんだけど……始めに言った通り、アレには役に立って貰うことにしたんだ」
「?」
「で、その理由だけど……簡単に言うと、戦争の口実にするんだ」
「戦争の……口実?」
「ああ、ルビオンの王族がランスの王都……それも宮殿の堀で無惨な姿で死んでいたという事実。それに基づいて、エリザベスを誘拐して殺した悪いランスにルビオンは仇討ちをするのさ!」
と、リチャードは得意げに語った。
「ほぇ〜」
「更に、それに加えてメリットもある。国外に関してはランス、ストリア以外の諸外国は多少の疑念を持つかもしれないが中立か味方になる筈だし、国内に関しても、貴族から国民まで幅広く人気のあるあの女の敵討ちの為なら、容易に支持を集められる筈さ」
「うわ〜リチャード様凄〜い!それでそれで〜?」
アンはヨイショしながら、更に先を促した。
「それで国内を盛り上げた後、次はいよいよ宣戦布告と同時にランスを攻撃するんだけど……その記念すべき第一撃でランスの新皇太子のフィリップの首を獲る」
「……え?」
と、ここまであざとさ全開だったアンが、一瞬だけ真顔になって固まった。
だが、リチャードはそれに気付かずに話を進める。
「どうだい!?驚いただろう?それで、その方法は……いや、これはまだ秘密だ。楽しみは取っておこう。兎に角、一撃を喰らわした後は、優勢な海軍力で取り敢えずアユメリカ等の海外植民地を片っ端から奪い、同時にランス本国の沿岸部の都市を残らず荒らし、可能なら占領して痛めつけるのさ!」
「え?あ!は、はい〜……」
「しかもランスは現状、あのいけすかないイケメン野郎の失脚に加えて、諸侯の粛清による混乱で素早く動けない筈!」
「なるほど〜」
「あとは適当なところで講和をするだけさ。しかも我がルビオンは海という天然の堀のお陰で、連中はこちらへ攻め込むことも出来ないときた!どうだいアン、完璧だろう!?」
と、リチャードは自らの計画の殆どを愛人に熱く語り尽くした。
「うわ〜リチャード様小賢し……じゃなかった、カッコいい〜!愛してます!チュ!」
何故か途中から少し様子がおかしくなったアンは若干のボロを出しつつも、愛の言葉とリチャードの頬にキスをすることでそれを誤魔化した。
「ブヒー、僕も愛してるよアン!」
そして、リチャードはあっさりそれで誤魔化されてしまった。
「ところでリチャード様ぁ〜、あの件のことなんですけどぉ〜」
と、ここでアンが思い出したように言った。
「あの件?……ああ!別荘の件かい?」
「はい!ダメですか〜?」
「勿論いいよ!ルビオンのどこでも好きな城をあげるよ。それで、どこが良いんだい?」
まだ完全に国を掌握していないにも関わらず、リチャードは格好をつけてそう答えた。
「はい、スコルトにあるエデイン城が欲しいです」
するとアンは、彼にとって意外な城を選んだ。
「エデイン城……えーと、海沿いの田舎にある古い城だったかな?あそこはかつての蛮族の土地だし、そんなところでいいの?」
リチャードは思わず聞き返してしまった。
「蛮族……はい!エデインは凄く景色がいいと聞きますし〜、周りに人がいない方がリチャード様との時間を邪魔されずに済みますし……ね?」
何故かアンは『蛮族』という単語に僅かに顔をしかめたが、すぐに普段通りのあざと可愛い感じに戻って言った。
「ムフフー!そ、そっかー……美しい景色を誰にも邪魔されずに二人で楽しみたいのかー……なるほど!だから、敢えてそんな辺鄙な場所にある城にしたんだね!?分かったよ!エデイン城をあげる!あと、大至急改築用の予算も手配するね!」
そして、彼女の言葉に乗せられたリチャードは胸を張ってそう言ったのだった。
「うわぁ〜ありがとうございます〜♪リチャード様!大好きです〜!チュ!チュ!」
すると、アンは喜んでリチャードに大サービス。
「ムフフー!」
リチャードは幸せそうだが気持ちの悪い笑みを浮かべ、うっとりとしたのだった。
そして、暫くイチャイチャしたところでアンが、
「ではリチャード様〜、お仕事の邪魔になりますし〜、ワタシ先にお部屋に戻ってますね♪」
と告げ、そのままあざとく部屋を出て、ドアを閉めた……その瞬間。
「……はぁ、全く気持ちの悪い豚だ。身体が腐りそうだ…… まあ、全ては大義の為、この身など今更どうなろうと構わないが……それにしても……」
彼女の顔から一切の表情が無くなり、低く冷たい声でそう呟いた。
「上手く煽り、政権を取らせるところまでは無事成功したが、あの豚……まさか本気で実の妹を手にかけるつもりだったとは……外道め」
続いてアンは吐き捨てるように言った。
「正直、我が一族を滅ぼしたスチューダー王家など皆地獄へ落ちればいい……しかし、あの優しいエリザベス王女だけは、出来れば生きていて欲しいと思ったのだが……まさか、折角メイドに頼んで逃がした先が、白豚の思惑と重なってしまうとは……」
と、彼女はここでため息をついた。
そして、
「だが、私が彼女に出来るのはここまでだ。仮に命を落とすことになっても、それはスチューダー家に生まれた不幸を呪ってもらうしか無い。それに……不可抗力とはいえ、私の王子様を奪ったのだし……まあ、これも本人に罪は無いが……おっと、私としたことが柄にもなく物思いに耽って時間を浪費してしまったな。早く爺や達にエデイン城を確保出来たと伝え、蜂起の用意をしなければ」
そう言うと、白豚皇太子リチャードの愛人アンという仮面を被った、かつてスチューダー王家に滅ぼされたスコルト王家の唯一の生き残りである『アリア』は、スコルトの仲間達への手紙の文面を考えながら自室へと歩き始めたのだった。
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