第165話「ツンデレラ、断罪される①」
「第一王女エリザベス=スチューダー!今日この時、この瞬間をもって、お前をルビオン宮廷から追放する!」
その時、ルビオン王国バックィーン宮殿の広間で大勢が見守る中、突然偉そうな白豚風の男の声が鋭く響いた。
「白ぶ……兄上。突然何を言うのですか?遂に脳まで脂肪に侵されましたの?」
それに対していきなり追放を宣告された見た目は悪役令嬢、心は清純派の王女エリザベスはまるで憐れなものを見るような目をしながら、反射的に兄であり白豚でもある皇太子リチャードを罵倒した。
「おい、エリザベス!今、白豚って言おうとしただろう!?それに脳が脂肪に侵されてるってなんだよ!?」
すると、リチャードは折角しかつめらしい顔で断罪のセリフをキメたにも関わらず、エリザのストレートな罵倒を受けて激昂してしまった。
そして、
「ふざけるな!この厚化粧の厨二病が!」
その直後に、これまたストレートな罵倒を妹へと返した。
「なっ!?誰が厚化粧の厨二病ですか!寝惚けたことを言っていると炙り豚トロにしますわよ!……コホン、アタクシは事実を述べただけですのよ?それに、そもそもアタクシが何をしたと言うのです兄上?」
この世で最も嫌いな生物である兄にそう言われたエリザは一瞬で沸騰し、負けじと怒鳴り返したのだった。
……と、現在進行形で悪役令嬢名物?の断罪イベントが絶賛開催中なのだが、ご覧の通りこの残念な兄妹の所為で、すっかり醜い泥試合の様相を呈していた。
全く、折角のシリアス?な雰囲気がぶち壊しである。
さて、では一体何故こんな状況になっているのかというと……。
場面は厚化粧の厨二病ことエリザベスが、いきなり配下の貴族との縁談話を持ってきた豚トロ皇太子ことリチャードを、激熱紅茶で豚しゃぶに変えた翌日のこと。
エリザが自室でメイドのルーシーと雑談をしているところから。
「ねえルーシー、やっぱり気になるのだけど、昨日の豚しゃぶ男の「助けてやろうと思ったのに!」という言葉、アレはどのような意味だったと思う?」
朝食を終え、部屋のソファでくつろぎ中のエリザが唐突に言った。
「うーむ、今日の茶葉だったらもういいッスねー……え?ああ、昨日のあれッスかー……あの方は小賢しいッスからねー、多分何か企んでいるとは思ッスけどー……えーと、噂ではー……と、先にお茶をどうぞッス」
ルーシーはいつものダルそうな顔で紅茶を完璧なタイミングで淹れたあと、王女付きのメイドとしてはあり得ないような口調で主人の質問に答えながらお茶を出した。
「ありがと、それで?……ふむ、今日のお茶も完璧ね、でも逆になんか釈然としないわ」
だが、エリザは気にせず先を促し、ティーカップに口を付けた後、理不尽な理由で微妙な顔になった。
「えー、何で完璧な仕事をしたのに微妙な顔なんスカー?……あ、それで噂だとー、エドワード陛下の対ランス政策が甘過ぎると不満を持つ、対ランス強硬派の貴族達を纏めているらしいですしー、これは近いうちにー、もしかしたらもしかしたりするかもッスねー」
ルーシーは自分の仕事に対する主人の不当な評価に不満を漏らしつつ、噂の内容を告げた。
「え?もしかって?」
「うーん、例えば……謀反とかー?」
そして、エリザに問われたルーシーは腕組みしながらそう言った。
「まさか!あの小物がそんな真似……」
エリザは思わずそれに反論仕掛けたが、そこでコンコン、とドアがノックされ、
「エリザベス殿下〜、失礼します〜」
という、あざとく可愛らしい声と共に、ピンク髪の小動物のような少女が恭しく部屋に入ってきて、余り優雅には見えないカーテシーをキメた。
「あら?貴方はあの男の愛人の……(えーと、この女の名前はなんだったかしら?どうでもよすぎて覚えていないわ……取り敢えずスルーしましょう)で、何故貴方がここに?」
エリザは相手を確認すると、名前を忘れたことを誤魔化す為、必要以上に露骨に嫌そうな顔をして冷たく言った。
すると、まるで更生する前のどこかのアネットのような感じの少女は全く気にした様子も見せず、
「愛人とは酷いですよ〜エリザ様〜!おっと、それよりリチャード様よりお言伝でございます〜!至急広間においで頂きたいとのことでございます〜♪因みに重要なことなのでワタシが呼びに来ました〜!」
あざとくニッコリと笑いながらそう告げた。
「は?何故アタクシがあの男の元へ出向かねばならないのです?用があるのなら『痩せて人間に戻ってから』そちらが出向くよう伝えなさいな」
だが、エリザは不機嫌な顔のまま、そう吐き捨てた。
すると少女はそのままのテンションで話を続け、
「え〜、でもでも〜残念ながらリチャード様からは〜、絶対にお連れするように言われておりまして〜……力づくでもね」
そして最後に少しだけ腹黒い素の部分を見せてニヤリとエリザを見下したように笑った。
「ほう?」
そんな彼女にエリザはそう答えつつ視線を走らせると、開いたドアから衛兵達の姿が見えた。
「ふむ、これは……」
そして、エリザが逡巡していると、
「エリザ様ー、どうしますー?めんどいんでー、こいつら追い払いますー?てか、殺っちゃっていいッスかー?」
いつの間にか、エリザのすぐ横に来ていたルーシーが、いつものダルそうな顔のまま殺気を纏いつつそう聞いてきた。
問われたエリザは、少し考えた後。
「そうしたいのは山々なのだけれど、アタクシの部屋で死体の山を作るのは嫌ですし、それに……」
「それにー?」
「この女だって、衛兵達だって、同じルビオンの民なんだから命まで奪うのは少し……か、可哀想……なんて……」
と、悪役になりきれない悪役令嬢は、少し恥ずかしそうに言った。
それを見たルーシーは、やれやれという感じで肩をすくめた後、呟いた。
「全くもう、このツンデレラは……」
「!?」
そして、その約十分後、バックィーン宮殿の広間に鋭い断罪の声が響いたのだった。
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