兄貴 VS リザ
「なーなー、アーサー。兄貴とリザってどっちが頭いいのかな?」
武器屋で武器を選定している途中、ジッド少年は唐突にそう言った。
それにアーサーは応える。
「ごめん、今忙しい」
「おいっ」
「うひゃあ、このレイピア!こんな所に羽根が付いてるじゃん!?どういう構造?凄すぎる……」
「お前はレイピア使わないだろーっ!」
アーサー少年は武器オタクなので、武器屋ではまったく話が通じない。
呆れたジッドは、仕方がないので一人で考えてみる。
――まず、リザの使える魔法は以下の通りである。
・炎魔法
・風魔法
・水魔法
魔導師は一般的に、一極型が多い。そのため、色々な属性が使える彼女は優秀だ。
ちなみに、併用という高度な技術もある程度は習得している。
魔法式を一気に暗算し、同時に展開した時の負荷を割り出すので、並の計算力ではない。彼女は間違いなく賢いといえるだろう。
対するはクールなリーダー・ライであるが、彼も特殊技能を持っている。
ある対象の30分前の状態を知っていれば、現在それがどの地点に存在しているかを割り出せるのだ。
対象の傾向を“パターン化”しているため、対象が知り合いであればあるほど精度は高いらしい。どうやって計算しているのか分からないが。
「ようし、リザと兄貴を頭の中で戦わせるぞぉ」
ジッドは意気込んで、思考実験に興じ始めた。
(まずは先攻と後攻だな。これはじゃんけんとかで決めるだろうから、どっちでもいいや。じゃあリザがパーで、兄貴がグーだ。で、リザの勝ちにして……最初の攻撃は、リザの得意な水魔法だ!水の弾丸が兄貴に襲い掛かるぞっ!)
彼は黙って考えているつもりだが、その興奮は身体の動きに出ている。
「シュバババッ」
効果音が声にも出ている。無意識。
(兄貴は頭いいから、きっとなんとかして避けるだろうな――いや、違うなぁ。兄貴だったら跳ね返すかもしれない……頭いいから。それじゃあ、もし跳ね返されたらリザは避けるかな。いーや、風魔法で吹き飛ばすかもしれない。風魔法、いけっ!ドーン!そしたらそれが兄貴に襲い掛かるぞっ!)
段々と身体の動きは大袈裟になっていく。
「ブオオオオオッ!うわぁーっ!」
そのついでに、兄貴のアフレコが追加された。
(でも、そこはやっぱり兄貴だ!最初からリザの攻撃を読んでて、完全に避けた後に、いつの間にかリザの後ろに!そしたらリザピンチ!でも、いっつも冷静なリザだから、その兄貴の不意打ちも喰らわないんだ……!頭いいからっ!で、なんかトルネードみたいな魔法を使ったら、今度はさすがの兄貴も読めなくて舞い上げられる……!!うわぁーっ、これじゃ兄貴が負けちゃうじゃんっ!?)
じっどのかんがえたさいきょうのしょうぶは続いていく。
実際、こうなるかは分からないが。
「そして、リザがトドメを刺そうと炎魔法を撃った時ッ!!兄貴が言う、『まだまだ甘いな……』リザ『なんですって……?』兄貴『僕はまだ、力の三分の一すら解放してないよ』リザ『奇遇だわね……私も実はそうなのよ』――凄いぞッ、どんどん面白くなっていく!なんだこのバトルッ!?」
少年が勝手に盛り上がっていくのを、武器屋の主人は煩わし気に眺めていた。
「アイツ、帰ってくんねぇかな」
熱戦。