兄に勝らない弟
ネームフラワーのリーダーが出ます。
ライとジッドは兄弟で冒険者をやっている。
兄のライは治療術師・弟のジッドは魔法剣士を、それぞれ己のクラスとしている。
同じパーティ『ネームフラワー』に所属しており、兄のライはパーティリーダーをやっていた。
ジッドはそんな兄をどうにか打ち負かしたいと、常日頃から思っていた。
「兄貴!僕とトランプ勝負しようよ!」
「…いいよ、どうせ僕が勝つだろうけど。」
「むっ…ふん、そんなの分からないよ!」
椅子に肘をかけて座るライの、如何にも退屈そうな、それでいて勝ちを確信している様子に、ジッドはムカついた。
(また余裕ぶって…目に物見せてやるぞ!)
ジッドは心の中でそう思ってから、トランプを配り始めた。
ライはなんのゲームをプレイするのか聞かされていなかったが、テーブルに置かれたカードの配置などから、内容を悟った。
「ポーカー…またか。ジッドの苦手な…」
「ふん、今日は勝つさ!見てなよ!」
ジッドはカードを配り終えると、自分の手札を確認する。
そして、満面の笑みを浮かべた。
「…はぁ。」
ライはそれを見ると、心底馬鹿らしい気持ちでカードを伏せた。
兄の行動を、ジッドは不思議そうな顔で確認し、首を傾げた。
「どしたの兄貴?」
「降りる。」
「えっ!?なんで!?」
「お前、良い手だったんだろ?顔で分かるし…」
「え!そ、そんなぁ…」
涙目で、渋々ながら手を開示するジッド。
彼の手はAが三枚、Kが二枚のフルハウスであった。
一方、ライの手はノーカードだったので、彼の判断は正解だったことになる。
「さすがに手強いな、兄貴…」
「お前が弱すぎるんだろ。頼むから、仮面かなにかで顔は隠してくれ。」
「えー?」
かくして、ジッドがどこからともなく仮面を取り出してくる。
彼がそれを装着したところで、二回戦が開始した。
今度は弟の表情が見えず、手の良し悪しは分からないと、ライは真剣な顔になる。
「兄貴!僕はオールトレードするよ!」
「…そうか。」
「むむっ、これで僕の手は分からないはずなのに…余裕そうだな、兄貴!」
「僕の顔を気にしすぎだよ。」
ジッドは兄のすぐ近くまで顔を近付け、表情を隅から隅まで確認した。
しかし、彼に焦りは見られない。
ジッドはそんな彼を見て、逆に焦り始めた。
「もしかして、すっごく良い手だったんじゃ…?」
「僕はそんなこと言ってないぞ。」
「だけど!兄貴!落ち着いてるし!」
「ジッドはもう少し落ち着いて考えなよ。」
勝手に追い込まれてしまったジッドは、先程のライと同じようにカードを伏せた。
ライは弟のおもむろな動作に呆れ、溜め息をつく。
「な、なにさ、降りるだけだよ!だって、兄貴の手はファイブカードだからな!」
「そんなの無いし、それ妄想でしかないだろ。僕の手が良い証拠でもあるのか?」
「顔だぁっ!」
「顔で予測するんじゃない。」
ライの開示した手は、ただのツーペアであった。
一方の、オールトレードしたジッドの手は、ライより強いスリーカード。
降りなければジッドは勝っていたのだ。
「うぐ…兄貴、騙したなぁ!?」
「一切騙してないよ。」
「アーサーだったら顔に出るのに!」
「…はは、お前達なら良い勝負になりそうだね。」
渇いた笑いを浮かべるライは、内心ではもうポーカーをやめたがっていた。
毎回、少しは強くなったかと期待して試してみるのだが、ジッドの実力は一向に変わらない。
賢いライにとって、弱すぎるジッドの相手はとても辛い。
「よし、次がラストのプレイだ!負けないよ兄貴!」
「…うん、じゃあ早く終わらせよう。」
「なに?もう勝った気でいるんだろ!」
その通りだが、ライは面倒くさくなり、それに頷きもしなかった。
明らかに最初よりやる気が無くなっている兄の姿に、ジッドは不機嫌になる。
「…僕だって、兄貴に負けっぱなしじゃ嫌なんだっ!」
「!ジッド…お前…」
「一度くらい、兄貴に圧勝してみたい!本気の兄貴に勝ちたいんだ!」
彼の素直な言葉を聞いたライは、少し考えた。
そして、おもむろにオールトレードを実行すると、ジッドに向かって言った。
「…ジッド。この勝負、ちゃんと考えれば勝てるよ。」
「…え、え!?」
ライは弟の気持ちに応えてやろうと、真面目に考えてオールトレードを実行したのだ。
そんな優しい兄の気遣いを知らないジッドは、腕を組むとうーんと唸って考え始めた。
(兄貴は全部のカードを変えた…ということは、揃ってないかもしれない。今の僕の手でも勝てるかも…)
ちゃんと考える、と言われたところで、ジッドにはそこまで深い思考はできない。
そこまで考えてみるのがやっとだった彼は、勝負をかけてみることにした。
「全然分かんないや!兄ちゃん、覚悟ぉ!」
「えっ、ちょ…」
ジッドは思考をやめ、トレード無しの手札であるスリーカードを開示する。
ライはやれやれと言わんばかりに、カードを放り投げるように雑に開示した。
その手は、2のフォーカードであった。
「え!?フォーカードって、こんなの勝てるわけないじゃんっ!」
「…まぁ別に、難しいことじゃないよ。ジッドはゲームが終わった後、捨て札も回収せずに次のゲームを始めるから……」
「ぐー…ぐー…」
「寝るんじゃないっ!難しくないって言っただろ!」
ジッドはおそらく、いつまで経ってもライには勝てないのであろう。
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