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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
生活の章
9/171

兄に勝らない弟

ネームフラワーのリーダーが出ます。

 ライとジッドは兄弟で冒険者をやっている。


 兄のライは治療術師・弟のジッドは魔法剣士を、それぞれ己のクラスとしている。


 同じパーティ『ネームフラワー』に所属しており、兄のライはパーティリーダーをやっていた。


 ジッドはそんな兄をどうにか打ち負かしたいと、常日頃から思っていた。




「兄貴!僕とトランプ勝負しようよ!」


「…いいよ、どうせ僕が勝つだろうけど。」


「むっ…ふん、そんなの分からないよ!」




 椅子に肘をかけて座るライの、如何にも退屈そうな、それでいて勝ちを確信している様子に、ジッドはムカついた。




(また余裕ぶって…目に物見せてやるぞ!)




 ジッドは心の中でそう思ってから、トランプを配り始めた。


 ライはなんのゲームをプレイするのか聞かされていなかったが、テーブルに置かれたカードの配置などから、内容を悟った。




「ポーカー…またか。ジッドの苦手な…」


「ふん、今日は勝つさ!見てなよ!」




 ジッドはカードを配り終えると、自分の手札を確認する。


 そして、満面の笑みを浮かべた。




「…はぁ。」




 ライはそれを見ると、心底馬鹿らしい気持ちでカードを伏せた。


 兄の行動を、ジッドは不思議そうな顔で確認し、首を傾げた。




「どしたの兄貴?」


「降りる。」


「えっ!?なんで!?」


「お前、良い手だったんだろ?顔で分かるし…」


「え!そ、そんなぁ…」




 涙目で、渋々ながら手を開示するジッド。


 彼の手はAが三枚、Kが二枚のフルハウスであった。


 一方、ライの手はノーカードだったので、彼の判断は正解だったことになる。




「さすがに手強いな、兄貴…」


「お前が弱すぎるんだろ。頼むから、仮面かなにかで顔は隠してくれ。」


「えー?」




 かくして、ジッドがどこからともなく仮面を取り出してくる。


 彼がそれを装着したところで、二回戦が開始した。


 今度は弟の表情が見えず、手の良し悪しは分からないと、ライは真剣な顔になる。




「兄貴!僕はオールトレードするよ!」


「…そうか。」


「むむっ、これで僕の手は分からないはずなのに…余裕そうだな、兄貴!」


「僕の顔を気にしすぎだよ。」




 ジッドは兄のすぐ近くまで顔を近付け、表情を隅から隅まで確認した。


 しかし、彼に焦りは見られない。


 ジッドはそんな彼を見て、逆に焦り始めた。




「もしかして、すっごく良い手だったんじゃ…?」


「僕はそんなこと言ってないぞ。」


「だけど!兄貴!落ち着いてるし!」


「ジッドはもう少し落ち着いて考えなよ。」




 勝手に追い込まれてしまったジッドは、先程のライと同じようにカードを伏せた。


 ライは弟のおもむろな動作に呆れ、溜め息をつく。




「な、なにさ、降りるだけだよ!だって、兄貴の手はファイブカードだからな!」


「そんなの無いし、それ妄想でしかないだろ。僕の手が良い証拠でもあるのか?」


「顔だぁっ!」


「顔で予測するんじゃない。」




 ライの開示した手は、ただのツーペアであった。


 一方の、オールトレードしたジッドの手は、ライより強いスリーカード。


 降りなければジッドは勝っていたのだ。




「うぐ…兄貴、騙したなぁ!?」


「一切騙してないよ。」


「アーサーだったら顔に出るのに!」


「…はは、お前達なら良い勝負になりそうだね。」




 渇いた笑いを浮かべるライは、内心ではもうポーカーをやめたがっていた。


 毎回、少しは強くなったかと期待して試してみるのだが、ジッドの実力は一向に変わらない。


 賢いライにとって、弱すぎるジッドの相手はとても辛い。




「よし、次がラストのプレイだ!負けないよ兄貴!」


「…うん、じゃあ早く終わらせよう。」


「なに?もう勝った気でいるんだろ!」




 その通りだが、ライは面倒くさくなり、それに頷きもしなかった。


 明らかに最初よりやる気が無くなっている兄の姿に、ジッドは不機嫌になる。




「…僕だって、兄貴に負けっぱなしじゃ嫌なんだっ!」


「!ジッド…お前…」


「一度くらい、兄貴に圧勝してみたい!本気の兄貴に勝ちたいんだ!」




 彼の素直な言葉を聞いたライは、少し考えた。


 そして、おもむろにオールトレードを実行すると、ジッドに向かって言った。




「…ジッド。この勝負、ちゃんと考えれば勝てるよ。」


「…え、え!?」




 ライは弟の気持ちに応えてやろうと、真面目に考えてオールトレードを実行したのだ。


 そんな優しい兄の気遣いを知らないジッドは、腕を組むとうーんと唸って考え始めた。




(兄貴は全部のカードを変えた…ということは、揃ってないかもしれない。今の僕の手でも勝てるかも…)




 ちゃんと考える、と言われたところで、ジッドにはそこまで深い思考はできない。


 そこまで考えてみるのがやっとだった彼は、勝負をかけてみることにした。




「全然分かんないや!兄ちゃん、覚悟ぉ!」


「えっ、ちょ…」




 ジッドは思考をやめ、トレード無しの手札であるスリーカードを開示する。


 ライはやれやれと言わんばかりに、カードを放り投げるように雑に開示した。


 その手は、2のフォーカードであった。




「え!?フォーカードって、こんなの勝てるわけないじゃんっ!」


「…まぁ別に、難しいことじゃないよ。ジッドはゲームが終わった後、捨て札も回収せずに次のゲームを始めるから……」


「ぐー…ぐー…」


「寝るんじゃないっ!難しくないって言っただろ!」




 ジッドはおそらく、いつまで経ってもライには勝てないのであろう。

30話までは毎日更新します

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