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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
錯綜の章
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続・収容 協力・その2

「藍色の風景」「収容」「続・収容」シリーズの続きです。

ややこしいタイトル。

 歪みの先に、終わりは見えない。


 永遠に続くかのような一本道は、途切れることなく伸びていた。




「しかし、後ろから魔物が来る気配がないな。まさか…」




 ワイズは時々、後方を確認しながら走っている。


 ダンジョンの異変に眼を配るためでもあるが、遅れているアバトライト達を待ってもいた。


 だが、自分たちを追って来る魔物が居ない事で、ある嫌な考えが過っていた。




 彼らはもしかすると、魔物の足止めをしているのかもしれない。


 そう仮定すると、追われないことの辻褄が合うのだ。




 ほとんど確信しつつも、彼はその予感をパーティには伝えられなかった。


 なぜなら、不安な顔をしたままの少女が視界に映っていたからだ。




「アバトライトさん、早く来てください…!」




 胸の前で固く手を結び、祈るように呟くレイア。


 先輩聖騎士の安否は、彼女が今、一番気にしていることだ。


 もしもやって来ないと知れば、来た道を一人で引き返してしまう可能性だってある。




 薄い希望を信じたままでいてくれる方が、余計な行動をさせないで済む。


 彼女の安全を考えればこそ、ワイズは口を噤んだ。




 出口と真実を求め、ひたすら走り続ける冒険者達。


 前進を体感出来るようななにかは無いが、意志によって足を前に出す。




 ところが、レイアはふと立ち止まってしまった。


 彼女の停止を見ると、近くに居たアーサーを始め、何人かが一緒に足を止める。




「レ、レイア…!早くしないと、後ろから魔物が!」


「やっぱり私、戻るよ…!アバトライトさんが来ないのは、なにかおかしいもん!」




 アーサーにそう言って、彼女は身を翻してしまう。


 すると、後ろを振り向いた彼女の目の前に、さきほどまで存在しなかった植物の魔物が生えていた。


 開いた蕾から凶暴な牙をのぞかせた魔物達は、ギシギシと気味悪く鳴き、一目散に彼女へと襲い掛かった。




「きゃあッ…!!」




 反応しきれなかったレイアは、そのうちの一匹に腕を噛まれてしまう。


 彼女は深刻な傷を負って後ろに倒れるが、痛みゆえに受け身も取れず、背中を打ち付けた。


 弱った獲物を見ると、魔物達は追い打ちを掛けて仕留めようとした。




 伸びて来る牙に、レイアは本能的に死を覚悟して、ぎゅっと眼を瞑る。


 しかし、彼女が想像したような痛みは、いくら経っても襲ってこなかった。




 それで恐る恐る眼を開けると、目の前にはアーサーの背中がある。


 ぼやけたまま顔を上げると、頬の上に血が滴った。


 彼の流血を理解して、彼女は一瞬で青褪めた。




「アーサー、くん…?」


「レイア、すぐにシェヴィと安全なところへ…腕の傷を治してもらうんだ」




 魔物と向き合いながら、少女へそう告げる彼。




 ショックのあまり何も言えないレイア。


 それどころか、身動きさえ取れない。


 シェヴィの元へ駆けることも、アーサーと戦うことも、咄嗟にはできなかった。




「や、やばいぞ…!」




 このままでは彼女が危ないと判断して、ウォッチはフェリの肩を叩いた。


 合図をもらったフェリもこくりと頷き、硬直している彼女を引っ張っていくのに協力する。




 そうして、2人に腕を担がれても、レイアは背後に顔を向けたままだった。


 遠ざかっていく仲間の姿が、もう二度と見れないかもしれない――そう思った時、痛切に叫ぶ。




「ダメ………アーサーくんッ!アーサーくんッ!!」




 傷を負った状態では、あの数の魔物には勝てない。


 本当なら自分がパラディンとして、仲間の盾にならなければいけないのに。


 不安に駆られたばかりに、彼に取り返しの付かない怪我を負わせてしまった。




 自責の想いを含んだ彼女の叫びは、アーサーの耳にも届く。


 しかし、彼は振り返らない。レイアに傷を見せたくないと思ったのだ。




「ちょっと、暴れないでよ…!」


「レイア…!」




 傷が痛むのも構わず藻掻く彼女を、必死で抑えようとするフェリ達。


 しかし、取り乱したレイアの抵抗は強く、2人がかりでも制するのは容易くない。


 そんな時、ウェドが颯爽と現れ、暴れる彼女の首筋へ手刀を繰り出した。




 トン、と小さい音が鳴って、レイアは瞬時に気を失う。




「おい、お前らは先に行きな」


「お前は確か、ウェド!?今なにを…」


「ったく、心配すんな。俺は後で追い付くからよ」




 彼はウォッチにそう告げて、すぐにアーサーに加勢しに向かった。


 ちなみに、ウォッチは手刀の謎技術について知りたかったのだが、そんな暇はない。




 ともかく、アーサーの元へ駆け付けたウェドは、走ってきた勢いで魔物をブン殴る。


 肩の辺りから流血を覗かせるアーサーは、突然現れた助っ人に驚愕した。




「ウェド…!まさか、一緒に戦ってくれるのか!?」


「勘違いすんな。これはお前のためじゃなく、シェヴィ達を安全に逃がすためだ」


「はは…!とにかく、ありがとう!」




 仲が悪く、お互いに協力は出来ないと言っていた2人。


 しかし、今だけはこうして肩を並べ、大切な仲間のために戦う。


 彼らの拳と剣先は鮮やかに交差して、攻撃の構えを取った魔物を打ちのめした。

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