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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
錯綜の章
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続・収容 日陰者

「藍色の風景」「収容」「続・収容」シリーズの続きです。

「メルチ!お前つえーな!」


「ニックだって、魔物より強いわ」




 剣士と魔法で殴り合うニック少年は、とても活き活きとした表情をしている。


 だが、彼の周りに居る人は、その戦闘を見ながら呆れていた。




「臨時パーティとはいえ、なんで冒険者同士で戦ってるんだよ!」


「はぁ、ウザ」


「ごめん…ニックはああいう子だから…」




 ウォッチは不毛さに溜め息を吐き、フェリは戦闘そのものを視界に入れようとしない。


 戦うニックを止めることができないガジルは、2人に謝ることしかできない。


 同行することになって、臨時パーティは既に崩壊の危機に面していた。




 フェリはそっけない視線をウォッチに向けて、煩わしそうに言う。




「あんた。アレ、ウザいから止めてきて」


「無理だよ。あんな中に飛び込んだら、今度こそ死ぬって」


「はぁ、使えない」


「む…お前なぁ、それって人に物を頼む態度じゃないだろ?」


「なにそれ、説教する気?キモいんだけど」


「また言ったな!やめろよ、それ!」




 少し機嫌が悪いのか、勝手に喧嘩を始めてしまう2人。


 近くに居るだけで、対処が分からないガジルは慌てるだけ。


 そんな中でも、メルチとニックは戦闘の最中である。


 5人のチームワークは、0を基準にすればマイナスへ踏み込んでいた。




 こういう時、リーダーシップのある人間が居てくれれば…例えば、元々パーティのリーダーとか。


 そんなことを考えたのは、弱気を増幅するばかりのガジルである。


 しかし、救世主を待ったところで、都合よく現れるとは限らない。




「助けて、ゼブラ…!!」




 疾うに救世主の名前まで指定して、彼は助けを呼んだ。


 都合よく現れるとは限らないが、現れないとも限らない。


 困ったときは大抵、希望を信じたくなるものである。




「呼んだか、ガジル」


「あっ、ゼブラ」




 ヒーローは訳も無く、名指しされたらなぜか来る。


 聖騎士ゼブラは、まさにガジルが望んだヒーローそのものだ。


 今までも、そしてこれからも――どんな場所に居ても、ゼブラはガジルを助け続けるだろう。




 ところで、堂々とした聖騎士の隣には、なぜか視線を泳がせる女が居る。


 彼女のことが気になったガジルだったが、それは一旦置いといて、とりあえず状況を説明することにした。




「実はあれがこーでこれがこーで」


「なるほどな。任せろ」


「ハハ、さすがゼブラだ。ありがとう、僕は役立たずで…」




 なんやかんや経緯を教えてもらって、勇敢なゼブラは戦闘と喧嘩を同時に止めに行く。


 その頼もしい姿に、目線を泳がせていた女とガジルは眼を輝かせた。




 続いて、自分の隣で自分と同じことをしている存在に気付いた。


 意識せずにお互いの目線が合うと、女の方は慌てて目線をずらす。




「そうだ、君は?ゼブラと一緒に居たみたいだけど…」


「あ、え、別に…いや、なんでもないっす。ど、ひゅう?」




 ガジルが話しかけてみても、彼女は一切視線を合わせない。


 気弱な治療術師は、それを嫌われているのだと勘違いした。




「ご、ごめん。僕と話すのは嫌かな…いいんだ、僕って無意識に人をイライラさせてしまうから」


「え…?いや、そんなん…そんな…」




 対する女は、彼の態度に逆に気を遣う。


 それと同時に、彼の言葉になんだか親近感を覚えた。


 自分以外にも、人を苛立たせる能力を所有する人間が居たなんて!という感動が、女の心の扉を動かす。




「べ、別に…お、思ってない…です」


「え?ほ、本当かい?」


「あ、まぁ、なんつーか…その、別に…イライラしないし…えっと、その、あの、き、気にしない…みたいな?」


「そう…!そう言ってもらえると、なんだか嬉しいよ!」




 女は思いの外、自分の言いたいことを(彼女の基準で)流暢に伝えられた。


 すると、目の前の治療術師は喜んでくれているではないか。


 なんだか気恥ずかしさを覚えたが、そのおかげで話を苦に思わないでいられる。




「えっと…!初めまして、私の名前はヒガンです!好きな食べ物はアプロンです!よろしくお願いしますっ!」




 言葉を続けやすくなった彼女は、その勢いで自己紹介を行ってみる。


 するとどうだろう。この挨拶は彼女の歴史上、一番スムーズに成功したのである。


 ゼブラと合った時にも流した感涙が、再び彼女の涙腺を揺らした。




 明快な挨拶を受け取ったガジルは、ヒガンに対して優しい笑みを向ける。


 そうして、親しみを込めた挨拶を返すのだった。




「初めまして、僕はガジル。ゼブラがリーダーを務める『ライフリライフ』というパーティで、治療術師をやっています。あまり役に立たないけど、仲良くしてくれると嬉しいな」


「は、はいっ…!よ、よりょしくおねあいひまっ……あ、言えない!」




 自己紹介し合って、2人はお互いに感じた。


 この人となら仲良く出来そうだな、と。


 そう直感できるくらい、両者には共通するものがあったのだろう。




 知らず知らずのうち、2人がなんとなく心を通わせ始めていると、ゼブラが戻って来る。


 彼は先ほどと変わらず、堂々とした態度で言った。




「問題は解決だ。さあ、全員で冒険の続きをするか」


「え!?もう事態が収まったのかい…?」


「ああ。ほら、コイツらを見るといい」




 自らの後ろを指差す彼に従って、そちらへ視線を向けるガジル。


 そこには、信じられない光景が広がっていた。




 剣を納めたメルチに、炎を纏っていないニック。


 そして、お互いにそっぽを向いているものの、少し頬が朱いウォッチとフェリ。


 ヒートアップしていた現場が、ヒーローによって完璧に鎮静化されていたのだ。




「本当に凄いよ、ゼブラ。君がいるだけで、みんながまとまってしまうんだから」


「こういう時に頼られないで、リーダーなんて言えないからな。俺はやるべきことをしたまでだ」




 崇高過ぎるゼブラの言葉に、ガジルはまたも圧倒された。


 いつも隣に居る彼なのに、その凄い部分はまだまだ見つかる。


 だから、日頃から強く感じている“敵わない”という気持ち――それは常に大きくなっていく。




「やっぱり、君には敵わない」




 聞こえないように呟いて、弱気な治療術師は独りで笑う。


 偶然ながら、そんな彼を見たヒガンは、すかさず呟きを返した。




「ふへへ…私も敵わないっすわ」




 彼女の声を拾って、ガジルはパッと顔を上げる。


 すると、先ほどのようにヒガンと眼が合った。


 お互いを見た彼らは、情けない笑みをこっそり交わすのだった。

続・収容シリーズ、あと2話くらいで終わればいいな。

でも多分終わらないな。3話分は絶対に要るな。

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