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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
生活の章
8/171

好きなだけじゃダメ!

告白しよう!

「それでね、全然帰ろうとしないのよ。私より武器の方が大事って感じでさー…」


「リザちゃん、元気出して!アーサーくんも悪気はないんだと思うよ?」


「悪気がないのが余計に嫌なの!はぁ、ちょっとくらい気にするでしょ、普通。」




 リザはアーサーへの愚痴をとめどなく口にしていた。


 宿で一緒に部屋に泊まっているレイアとしては、非常に困る状態であった。


 レイアもリザが奥手なのは知っているが、こんなにストレスを溜めるくらいなら素直に告白すればいいのに、と思っていた。




「リザちゃん、アーサーくんは絶対にリザちゃんの気持ちに気付いてないよ。」


「えっ…わ、分かってるし!なんで今言うの!?」


「勇気を出さなきゃいけない時もあるってことだよ!ね、今からコクっちゃおう!」


「はぁ!?レイアはまた他人事だと思って…!」


「他人事だなんて思ってないよ!実際、アーサーくんに言いたいこともあるでしょ?」


「ない!全然ないわよ!」




 行動に移そうとすると、急に黙るリザ。


 さっきまであんなに言っていた癖に、今更誤魔化しても意味はない。


 レイアは奥手すぎるリザに少し呆れていた。




「リザちゃん。私はリザちゃんの気持ち、素敵だなって思ってる。」


「…?」


「でも、好きなだけじゃダメだよ。想いは伝えないと!」


「ダメ…そう、だけどぉ…でも、私じゃアーサーは満足しないかも。」


「ほら、弱気になっちゃダメだよ!私も一緒に行ってあげるから、ね?」




 リザの事を応援したいのに、本人が行動してくれないのではどうしようもない。


 そう思ったレイアは、半ば強引にリザを部屋から連れ出した。


 リザは子供のように壁にしがみついたりして、多少の抵抗をしたが、とうとうレイアの積極性に負けるのだった。




 かくして、女子二人はアーサー達の居る部屋へたどり着いた。


 アーサーの他にも、2名ほどパーティに所属する男子がいるが、彼らの存在は置いておく。




「じゃあ行くよ、リザちゃん。準備良い?」


「待って!まだムリ!」


「もう…あと何秒?」


「え!?秒はムリだし!3時間くらい!」


「長いよ!30秒ね!」


「待って待って待って!!ムリムリムリ!!」


「リザちゃんっ!覚悟決めよう!」


「やだぁ、レイア、私もう死ぬよ~…」




 自殺を仄めかすリザにも構わず、レイアは秒読みを始めた。




「いーち、にーい、さーん」


「あー!あ、あ、あー!」


「よーん、ごーう、ろーく」


「レイア!あー!私用事思い出した帰る!」




 服の襟を掴まれ、自室に帰るのを阻止されるリザ。


 レイアには一切逃がすつもりはなかった。


 いい加減に進展させるべきだと思っていたから。




「じゅーご、じゅーろく、じゅーなな」


「ムリムリムリムリ」


「じゅーはち、じゅーく」


「も、もう死ぬ!私もー死ぬと思う!」


「…分かった、もういいよね!アーサーくーん!」


「えぇ!?まだ20秒しか経ってな…!」




 宿の扉の先には、当然ながらアーサーが居た。


 意外にも、アーサー以外には誰も居なかった。


 アーサー以外の男子二名は、宿を出て温泉に行っているのだ。




「…二人とも、さっきからなにやってるんだ?騒ぎ声が聞こえてたけど。」


「あ、ごめんね?リザちゃんが話があるんだって!ねっ?」


「えー!?なんのサポートも無いじゃん!」


「なに言ってるの!大事な部分は自分で言わないとっ!」


「う、それはでも、そうだけどでも、でもでも」




 リザは往生際悪く「でも」を連打するのであった。


 そんな彼女の様子を、不思議そうに見るアーサー。


 レイアは子魔獣を崖に突き落とす親魔獣のような気持ちで、リザを見つめる。




 黙っているうちに、アーサーと目があってしまったリザ。


 その瞬間、なにか言わなければ!という気持ちと、この場から逃げたいという気持ちがせめぎ合う。


 そんなこんなで、顔を赤くしたまま睫毛を伏せていると、アーサーの方から声をかけてくる。




「リザ、大丈夫か?顔が赤いけど…」


「え、え!?ううん、なんでもない!心配しないで!」




 赤面しているのを指摘されたことで、リザは恥ずかしさから思わずそう返した。




「そうか?それなら良かった。」


「う、うん!あはは、夜遅くにごめんね!おやすみなさい!」


「あ、ああ…おやすみ、リザ!」




 そんな感じで話を終わらせようとしたリザを、レイアは逃がさない。


 ここで進展しなければ、二度目はもっと大変になるとレイアは知っていた。


 今、思い切って一歩を踏み出さなければ、もうリザに告白のチャンスは巡ってこないと悟っていた。




「リザちゃん、逃げたらダメ!ほら、そこに座って!」


「うええ、レイアぁ~…もうムリよ…」


「アーサーくんも、ちゃんと聞いてあげて!リザちゃんが話し始めるまで黙ってて!」


「え?あ、ああ…でも、なんの話なんだ?それだけ教えて…」


「それを私から言ったら意味ないのっ!大丈夫、リザちゃんが言うから!」




 レイアは外堀を埋めるように、アーサーの前にリザを座らせる。


 そして、部屋の扉の前に門番のように仁王立ちし、どうあっても逃がさないつもりでリザに微笑む。


 リザはトマトのように赤い顔だったが、レイアのその姿を見て、ようやく観念した。




「…あのね。」


「なんだ?」


「あっ…う…」




 口を開くも、まだ想いは伝えられないリザ。


 アーサーは言われた通り、黙って彼女が話し出すのを待つ。




(頑張れ、リザちゃん!)




 心の中で思っているのに、思わず口が同時に動くくらいに熱心に応援するレイア。


 三人の作り出す特殊な雰囲気は、リザが話を始めるまで続いた。




 時間をかけ、どうにかして気持ちを落ち着け、ようやく決心したリザ。


 彼女はアーサーを真っ直ぐ見つめると、頬を染めつつも、はっきり言葉を紡ぎ出した。




「アーサー!聞いてほしいの!」


「!よし、なんでも来い!」


「え…あ…う…その、ね。いい?」


「準備万端だ!なんでも来い!」




 アーサーはなにが起こるのか分からず、とりあえず臨戦態勢で構えていた。


 彼の姿勢は若干ズレたものではあるが、そんな姿がリザにもう一歩の勇気を与えた。




「アーサー、私ねっ…!!そのぉっ、えっと…!」


「おう!」


「だからぁっ…つまりぃ…!簡単に言うと、ね…!!」


「お、おう!」


「す、す、す…!私、アーサーのことが、前からずっと!!」


「おう!…お、え!?」


「え、え?え?どしたの?」




 アーサーの急な驚愕により、リザは言葉の続きを言いにくくなってしまった。


 しかし、そこで言っていれば良かったのだろう。




「あ、いや…!なんか、ほら、告白みたいだったから、つい!」




 この言葉を受けて、恥ずかしがり屋のリザは思考を整える術を持たなかった。


 あろうことか、彼女は先撃ちされてしまったのだ。


 なんたることか、アーサーは無意識に不意打ちしてしまったのだ。




「なんでそんなこと言っちゃうんだーっ!!」




 二人の様子を見ていたレイアは、アーサーの言葉を聞いた瞬間に叫んだ。


 折角あともう少しだったのに、これでもうリザちゃんは再起不能!


 ということを、彼女はいち早く理解してしまったのだ。




「あ…こ…告白…じゃ、ないよ!?!?!?」


「え、おい、リザ!?どうした!?」


「も、もう、もうそれ、告白なんかじゃないよぉぉぉ!!!!」


「待ってくれよ、リザ!!」




 リザは、予想外の事態で手薄になったレイアのガードをすり抜け、扉を抜けていった。


 レイアは絶望の表情で、アーサーの目の前に座ると、静かに言った。




「ねぇ、今のが告白じゃなかったらなんなの?リザちゃんの様子見たら分かるでしょ?」


「…え、レイア、どうした?」


「どうした?じゃないよ、鈍いにもほどがあるでしょ…告白みたい?告白ですけど!」


「え!?ほ、本当に告白だったのか!!てことは俺、リザに告白されたのか!?」


「あーーーーもぉーーーー、リザちゃんに言わせてあげたかったんだよぉーーーー!!!」




 レイアのフォローで、一応リザの想いは伝わった。


 が、当の本人は宿に引きこもってしまい、しばらくダンジョン攻略は休止となった。

30話までは毎日更新します。

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