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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
錯綜の章
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続・収容 小さな絆

「藍色の風景」「収容」「続・収容」シリーズの続きです。

「ペナルティはもう懲り懲りだ」


「………」




 アバトライトが確約したペナルティは、少年少女を憂鬱にさせた。


 反省したように俯くシェヴィと、首を横に振って怠そうにするウェド。




 対照的な2人を見て、レイアは困ったように笑った。


 その後、ふとアバトライトの後方へ視線を向け、一つ質問する。




「あの、アバトライトさん。背中の人は誰ですか?」


「ああ、彼はウィンドだ。生憎、今は寝込んでいるけれど…」


「なにかあったんですか?」




 そう問えば、聖騎士は深刻そうな顔を見せた。


 どこか不穏な表情に、少女も不安を覚える。




「実は、急に倒れ込んでしまってね。原因ははっきりしていない」


「えっ!」


「ポーションも効き目が無いようだし、困っているんだよ」




 事情を聴くと、レイアは辺りをきょろきょろと見回して、解決策を探る。


 そうして眼に留まったのは、少しブルーなシェヴィの姿だった。頭を下げ、すぐに治療を頼む。




「シェヴィちゃん、お願い!ウィンドさんを治療してあげて!」




 頼まれた治療術師は首を傾げたが、指差された方角に患者を見つけると、顔つきを変えた。


 勇ましい表情で頷いて、早速患者の容態を調べ始める。


 彼女の意図を汲んだアバトライトは、ウィンドを地面へ寝かせた。




「………」




 慎重な手つきで、少女は触診を行う。


 治癒魔法に分類されるスキル・アナライズを発動しながら、注意深く異常を探した。




 見たところ、身体の中に流れる魔力は至って正常である。


 そのため、次に頭部を調べてみたところ、不自然な魔力の逆流を発見した。




「………」




 患者は明らかに、何者かの干渉を受けて発症していた。


 それを突き止めることには成功したが、原因への対処法は見当が付かない。


 逆流する魔力の性質を解析するため、何度もアナライズを発動した。が、未熟な彼女の魔法では、強すぎる流れに弾かれてしまう。




「シェヴィ、大丈夫か?」




 額に汗を流していると、心配したアーサーが隣へやって来る。


 彼に現在の治療状況を伝えるため、少女は小さな声を振り絞った。




「………」


「なるほど」


「………」


「よし、分かった」




 なにやら聞き取って、アーサーは手術に協力し始めた。


 まずは患者の肩を浮かせ、その状態を維持する。


 どうやら、魔力の流れを緩めるために必要な行為らしい。




「どうだ、シェヴィ?」


「………」


「オッケー。レイア、ちょっと手伝ってくれ!」


「えっ??わ、どうしよっか!?」




 耳を寄せず、少し離れた状態であっても、アーサーはシェヴィの言葉を聞き取れる。


 だが、他の者にはシェヴィの声さえ聞こえない。


 そのため、アーサーは手術のアシスタントとして、大いに奮起した。




「まずそっち持って」


「えーっと、踵の辺でいい?」


「………」


「うん、サンキュー。じゃあ次、アバトライトさん。頭を起こして」


「ああ…これでいいかい」


「………」


「かなり解析しやすくなってるって。とりあえず、この状態で」




 小さな声を伝えるドクターと、指示を的確に周りへ伝えるアシスタントの姿は、まるで相棒同士だ。


 ウェドはそれを見ると、嫉妬を通り越して敗北感を強くした。


 彼はみるみるうちに自信を喪失し、がっくりと地面に手をつく。




「ちくしょうっ……俺は………俺は、相棒失格だ………!!」




 無力さを知って、悲嘆に暮れる。


 そんな彼の肩を、誰かが優しく叩いた。


 ハッとしたように振り向くと、そこにはワイズの顔があった。




「あの小さな声が聞き取れないからといって、果たしてそれが絆の全てなのか?」


「そ…それは…」


「確かに、目の前のアーサー氏の活躍は目覚ましい。だが、君には君の向き合い方があるはずだぞ」


「俺の…向き合い方…?」




 知らない男の言葉を聞いて、ウェドは考える。


 自分なりの、シェヴィとの向き合い方。今までの絆や思い出。




 その小さな声ゆえに、酒場で一人ぼっちだった彼女。


 不注意な冒険者の身体にぶつかって、転んでも手を差し伸べてさえもらえない。


 あの日、そんな彼女を見たウェドは、ぶつかった方の冒険者を思い切り殴った。




『転んだコイツに謝れッ!!』




 少し前の事を思い出して、ウェドは不意に笑った。




(あれ以来、シェヴィは俺の無茶に付き合ってくれたっけな)




 2人の絆は、小さな声で繋がれているものでは無い。


 いつの間にか、無意識にお互いを信頼し始めていたのだろう。


 温かく懐かしい記憶は、彼をアーサーから解き放ってくれた。




「そうだ…シェヴィのことは、俺が一番分かってるじゃねぇか」




 前を向き、答えを出したウェドを見て、ワイズはフッと微笑む。


 そして、その左手を差し出しながら言った。




「君はあの少女の相棒だな。名は?」


「俺の名はウェド。武闘家で、シェヴィの相棒だぜ」




 相手の意図に応じ、ウェドも左手を差し出す。


 歓迎したワイズが、迎えに行く形でその手を握った。




「ウェド、か…良い名だな。覚えておこう」


「あんたは?」


「私はワイズ。しがない冒険家だ」




 握手を固く結び、2人は良い顔で頷き合う。


 手術の蚊帳の外な彼らは、外野で新たな友情を生んだ。

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