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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
錯綜の章
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ヒーロー

 テリは冒険者ではない。


 『アクアガーデン』のリーダーである、ネアの妹だ。




 忙しい姉は、なかなか彼女の傍には居られない。


 そのため、今日も彼女は一人、街で遊びながら寂しさを紛らわしていた。




「ぼうけんしゃって、たいへんだな」




 呟きながら、少しだけ不満そうに頬を膨らませる。


 姉ともっと遊びたくても、仕事がある日は一人で居るしかない。


 いつだって、家の中に置いて行かれるのは嫌な瞬間だった。




「…キョウガおねえちゃんのところ、いこうかな」




 ふと、少女の頭の中に、もう一人のお姉さんの顔が浮かんだ。

 

 治療術師のキョウガ――過去に少女を呪いから救った、いわばヒーローである。


 とはいえ、呪術に精神を封じられていた彼女は、救われた記憶が鮮明にあるわけではない。


 だが、なぜだか印象深い優しい笑みを思い出して、会いに行くことにした。


~~~~~~~~~~


 冒険者ギルドに入ると、彼女はいつも通り、椅子に掛けていた。


 今日はどうやら、誰かと話をしているらしかった。


 しかし、テリの姿を見つけるなり、期待通りの優しい笑顔で出迎えてくれる。




「おや、テリ!いらっしゃい」




 歓迎されたテリは、嬉しそうに笑いながら彼女の方へ寄っていく。


 そして、甘えるように手を繋いだ。




「キョウガおねえちゃん、あーそーぼー」


「いいよ。なにをしたいかね」




 キョウガは背丈の合わない椅子から飛び降りて、後はテリの自由にさせる。


 そんな彼女に、先程まで会話をしていた男性が慌てて言う。




「ちょっと待て、キョウガ。今は指名手配犯のフレイズについて、大事な話の最中だろう」


「すまないね。私は子供に弱くて」


「君も子供じゃないか」




 男性はツッコミを入れたが、キョウガはひらりと手を振る。


 そうして彼女は、テリに連れられるままギルドから出て行った。




 しばらくして、聖騎士の男性がやって来た。


 そうして、キョウガと話していた彼に問う。




「ケビン、話はまとまったようだね。これからどうするんだい?」


「いや、まとまってない」


「えっ…これからどうするんだい」




 ケビンとしては、キョウガを連れ戻して話をまとめたい。


 しかし、一度嬉しそうなテリを見てしまうと、二人を引き離すのは酷に思えた。


 そのため、質問には困った顔で返答せざるを得なかった。


~~~~~~~~~~


 噴水広場まで遊びに来たテリ達は、和やかに手を繋いでいた。


 その様子は、周りから見れば同年代の少女が遊んでいるようにしか見えない。


 実際のところ、二人の年齢は2倍ほど差があった。




「だるまさんがころんだ、したいな」


「ふむ。実に楽しそうだ」




 遊びが決まると、いそいそと準備に急ぐテリ。


 それを微笑ましそうに見つめるキョウガ。


 そんな二人の関係性は、他の人の眼には奇妙に映った。




 鬼になったテリは、ベンチの横にある樹へ寄りかかって、腕で眼を隠した。


 


「だーるーまーさんー…が、ころんだ!」




 そう言い切ると同時に目隠しをやめ、素早く後ろを振り向く。


 その視線の先に、おかしなポーズで立ち止まったキョウガが居た。




 彼女の姿を、テリはじっと見つめた。


 キョウガも負けじと、身体のバランスを取りつつ見つめ返す。


 しばらくすると、テリは観念したのか、再び最初の目隠し状態へ戻った。


 そして、またも同じ言葉を繰り返す。




「だるまさん…が、こ、ろ、ん~……っだ!」




 違ったのは、言葉を発するテンポである。


 発音を不規則にすることで、キョウガに終端のタイミングを悟らせない作戦だ。


 しかし、どうやら作戦は失敗だった――長く時間を取ってしまったがゆえ、キョウガはテリの目の前まで迫っていたのだ。


 その上、身体も頗る安定した状態で停止していた。




「ふふふふ…」




 キョウガの不敵な笑いに、幼いテリは恐怖した。


 このままでは、自分はタッチされてしまう。


 それでも為す術無く、彼女は再び目隠し状態へと戻った。




 当然ながら、彼女は直後にタッチされてしまい、負けてしまった。




「やっぱり、キョウガおねえちゃんはつよいね」


「なに、テリの作戦は素晴らしかったよ。時間的なデメリットを考慮しつつ扱えば、十分に通用するだろうね」




 キラキラと眼を輝かせて、光の溢れ出るキョウガを見つめる少女。


 物理的に発光しているはずもなく、テリの瞳が纏わせているのだが。


 羨望に満ち溢れたその眼差しで、彼女は決心と共に言った。




「わたし、おおきくなったら、おねえちゃんのパーティにはいる」


「――おや、それは…やれやれ、驚いたなぁ」


「いいでしょ」




 強い決意を孕んだ、力強い言葉と瞳。


 無下に扱うわけにもいかず、キョウガは困った。


 憧れから冒険者という危険な職業を選ばせること・自分が彼女の成長を待ち、パーティを存続させ続けられるかということ…より、重大な問題に思い当たったからだ。




「ふむ。君のお姉さんに、生涯恨まれそうだね」


「?」




 テリのことを大事に思うあまり、ネアは過剰な行動をしがちだ。


 そんなシスコンな彼女に、今テリの言ったことがバレたらどうなるか。


 膝から崩れ落ちるか、最悪死ぬ。




「よし。とにかく、お姉さんとはよーく話し合いたまえ」


「うん」


「いいかね、よーく!そして、後腐れが無ければ歓迎しよう」




 テリの心配より、ネアの容態が気になる治療術師であった。


 ヒーローの考えなど露知らず、その小さな身体に決意を漲らせるテリだった。

妹が欲しいです。

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