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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
錯綜の章
65/171

編成

 治療術師のライをリーダーとした5人組パーティ、『ネームフラワー』。


 彼らは今、未知のダンジョンに挑んでいた。




 朱い木々の間を抜けて、無数に浮かぶ泡のような球体を躱しながら、慎重に行動していく。


 その途中、木々に塞がれて通れない道が現れた。


 通路の入り口には倒木が散乱しており、何者かの破壊の形跡が明らかに残っていた。




 魔法剣士であり、ライの弟でもあるジッドは、訝し気に首を傾げる。




「誰が塞いだんだろう?」




 その問いに、戦士の少年・アーサーは笑って答える。




「魔物との戦闘かなにかで、偶然こうなったんじゃないか?」


「でも、それにしては不自然なくらい計算的に倒れてるわ。なにか目的があるのかも」




 彼の推測に実地的考慮を加えたのは、魔導士のリザである。


 武器である杖を無意識にさすりながら、彼女は真剣な顔をしていた。




「僕もリザの考えと同じだ。倒木以外に破壊の跡が見られないしな」


「本当だ…見て、周りの幹に傷が付いてないよ」




 彼女の考えにリーダーのライが賛同すると、隣に立つパラディンのレイアは幹を観察し、しきりに頷く。




 魔物と戦闘があった場合、それによって生ずる衝撃は無差別に振りまかれるのが普通である。


 しかし、地面に魔物や人の足跡は無く、争った跡は見受けられなかった。




 ライは別の方角へ足を向け、早々に歩き出す。




「ここは迂回しよう」


「えぇ~…そんなのつまんないじゃん、兄貴」


「リスクは避ける。ダンジョン攻略の基本だ」




 ジッドは好奇心を燻ぶらせながらも、リーダーの意見に渋々従い、とぼとぼ後ろを着いていく。


 アーサーは苦笑しつつ、それに続こうと歩を進め…ようとした。




「――待って!」




 しかし、レイアが背後で放った一言で、彼は驚きと共に振り向く。


 聖騎士の彼女は警戒するように盾を構えつつ、視線を泳がせて周囲を伺うと、いつもより少し低い声で言った。




「もしかしたら、罠かもしれないよ」




 緊張の面持ちで仲間を見て、危惧した可能性を伝える。


 ライは顎に手を当てると、神妙な顔で頷く。




「…なるほどな。確かに、僕たちを別の方角へ仕向けているのかもしれない」


「え…こっちの道になにがあるんだ?」


「それは分からない。だけど、罠の可能性は十分にある」




 リーダーの話を聞いたアーサーは、少し警戒心を高めて迂回先を見据えた。


 巧妙に隠されたトラップは、そう簡単には見つからない。


 見える先になにも無くても、それが安全の保障にはならなかった。




 とはいえ、このまま場に止まっていても探索は進まない。


 集中して考えるライを見て、彼は一つ、提案をした。




「手分けして探索しないか?そうすれば、もし罠があっても全滅は避けられると思うんだ」




 提案に飛びついてきたのはジッドだった。


 彼は大はしゃぎで、子供のように眼を輝かせる。




「それだぁ!最高だっ、アーサー!」


「そうだな。そうしてみるか」




 ライも頷き、賛同を示す。


 リーダーが採用したため、他のメンバーも同意し、すぐに探索隊の編成が行われた。




 ライ率いる、アーサー・ジッドの倒木ルート編成。


 臨時リーダーをリザとした、レイアとの迂回ルート編成。


 以上の編成で、再び探索を再開する運びとなった――




「ちょっと待って!!」




 と思いきや、異論のある人間が一名。


 ジッドである。




「なんだよ、ジッド」


「その~、兄貴はぁ…レイアと一緒に、迂回ルートに行った方が良いんじゃない?」


「なんでだよ」


「兄貴は迂回っぽいじゃん?」




 ライは呆れた顔になると、弟のデコを指先で押した。


 押されたジッドは後方にちょっとよろめいて、「な、なにするんだよぉ!」と怒った。


 しかし彼は返事もせず、アーサーを連れてさっさと先に進もうとする。


 それでもジッドは往生際悪く、彼の行く先に立ち塞がった。




「僕は、アーサーとリザと一緒に倒木ルートに行きたいっ!」


「ダメだ」


「なんで!?」


「メンバーのバランスが悪いからだよ。戦士・魔導士・魔法剣士じゃ守備が薄すぎる。大体、僕とレイアが罠に掛かったらどうする?戦闘になったら後衛のリザは攻められ放題になるし、ジッドはすぐに短絡的な行動をする。そうなれば、アーサーだけで対処することになるんだぞ」




 理詰めで殴られ、完膚なきまでに叩きのめされたジッドは、項垂れて黙った。


 ここで言い合いは終わり…かと思いきや、またも誰かが声を上げる。




「私もジッドに賛成よ」


「…リザ?」




 思わぬ賛同に、ライは少し驚く。


 だが、すぐにリーダーらしい冷静な態度に戻った。




「今の考えに、なにか至らない部分があったか?」


「ええ。まず、ジッドが短絡的な行動をするという部分だけど…それって、決まりきったことじゃないでしょ?」




 リザも毅然とした態度で意見を出す。


 その様子を、アーサーとレイアは固唾を呑んで見守る。




「その可能性が高い、という意味だよ。今までだって、ジッドが勝手な行動したばかりに危険な目に合ってる…だから、僕がこいつをコントロール出来ない状況は避けたい」


「そうね。ジッドは確かにお調子者だし、無謀な行動も多いけど…決めつけは良くないんじゃない?」


「…そうだな。悪い」




 素直に謝ったライだが、それは論破されたことを表すのではなかった。


 決めつけが良くないことと、編成を変更することは、当然ながらイコールではない。




「まあ、だからといって、編成は変えないけど」




 彼女の脱線気味な論調に、ライは若干困惑した。


 リザは努めて冷静に、改めて言葉を発する。




「剣士・魔導士・魔法剣士の編成は、とても攻撃的よね」


「ああ」


「敵の掃討を一瞬で終えるには、うってつけの編成よ。もし罠に掛かった二人を救出するなら、なるべく早い方が良いに決まってるわ。だから、この3人はスピードを求めた編成なのよ」


「うん、考慮する。とはいえ、長期戦にならないとも限らないな。この辺りの魔物のレベルを考えると、いくら迅速に対応したところで限界があるように思う。その場合、やはり守りや回復は必須になるぞ」


「長期戦なんて出来ない状況が来たら、どのみち全力で攻撃するしか無いって」


「その時が来ないと分からないことだ。だったら、出来るだけ状況に対応しやすい選択をするまでだよ。そもそも、お前達が危険に合わないとも限らないんだ。そうなると、僕とレイアだけでは明らかに戦力不足だし、戦闘能力の低い僕を2人編成に組み込むこと自体が不合理だと考える」


「たまには2人で居ればいいじゃない」




 彼女も完膚なきまでに叩きのめされ、ついにジッドと同じレベルなことを言いだした。


 さすがのライも、これには首を傾げる。




「どういう意味だ?」




 自分で言ったにも関わらず、リザは「分からないわ」と肩を窄めた。


 事実、彼女は自分の言い出したことに正当性を見出せなかった。


 ただ、彼女は不満だったのだ――想い人であるアーサーと、同じ編成に組んで欲しかっただけである。




 最初にジッドが異論を唱えたのも、リザから目配せがあったからである。


 彼は少し前、ライにペナルティを課せられていたのだが、リザの協力によってそれを回避した。


 その代わりに、今度は彼がリザに協力する番なのだ。


 つまり、二人はグルであった。




「珍しいね、リザちゃんがジッドみたいなこと言うの」


「レイア、それって僕に失礼だぞっ!」


「え、えへへ。ごめんね?」




 結局、編成はそのままで、ネームフラワーは行動を開始するのであった。




 レイアの隣を歩きながら、リザは呟く。




「ライの頭でっかち」


「リザちゃん、そんなこと言わないの!」




 友達にちょっと怒られて、彼女は拗ねるのであった。

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