ロックスター
ロックスターといっても、ギタリストは現れません。
ジャック青年は吟遊詩人だ。
吟遊詩人は主に、後衛を張って仲間のサポートを得意とするクラスだが、街では違う。
「ららら…そうさ、世界は君のもの~、ららら…」
街道でパフォーマンスを行い、チップをもらう。
彼は立派なエンターテイナーなのである。
「どうもありがとう。」
ジャックがそう言うと、観客は彼に拍手を送った。
観客はとても楽しそうな顔をしており、ジャックのパフォーマンスに満足した様子だった。
「ありがとう、どうもありがとう…はぁ。」
しかし、当のジャックは満足出来ていなかった。
パフォーマンスに自信が持てず、一曲終える毎に頭を垂れ、溜め息を漏らす。
「ど-したのー、ジャックー」
ジャックの様子を心配したのか、街娘のベリーは不安そうな表情を浮かべた。
「ああ、ベリー…君は毎日、僕の詩を聴きに来てくれるね。」
「だってー、ジャックのうた、大好きだもんー!」
彼女はいつも、欠かさずジャックの詩を聴きに来るのだ。
ベリーはジャックの最初のファンである。
「…僕の詩のどこが良いんだい?」
追い込まれているのか、ジャックは疲れた顔をする。
ベリーはそれに対し、無邪気な笑みを返した。
「えっとねー、がんばれーって感じのー、おうえん!」
「…そう、君には届いているんだね…僕の詩。」
ファンの存在に、改めて勇気付けられるジャック。
こんなことを聞いてどうするんだと、彼は心の中で反省した。
そして、ベリーのために歌おうと、改めて気持ちを引き締める。
「サンキュー…僕は君のために歌ってみせるよ…!」
「ジャックー、かっこいいー!」
「それじゃあ、聴いてくれ…!『マジカルソウル』!!」
ベリーは、毎日を楽しく過ごしていた。
もし辛いことがあっても、ジャックの詩を思い出せば、明るくなれたから。
少女にとって、ジャックは最高のスターなのだ。
ジャックは、毎日を死にそうな想いで過ごしていた。
しかし、辛いことがあっても、ベリーの顔を思い浮かべれば強く踏み出せた。
青年にとって、ベリーは最愛のファンなのだ。
ジャックは詩を綺麗に並べながら、胸に誓った。
(ベリーの胸で一生光るスターに、僕はなってみせる!見ていてくれ、愛しのベリー!)
そんな気持ちをあえて略すなら、「愛してるぜbaby」であった。
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