ネームレス・フラワー
ネームフラワー結成秘話。過去の話です。
そびえる大きな白い建物、魔法学園。
魔導士を目指す少女・リザは、今日この学園を卒業した。
目標は、世界に大きな貢献を齎す偉大な魔導士…決意を新たに、彼女は自らの足で旅立ちの一歩を踏み出す。
「リザちゃん、卒業おめでとー!」
「レイア!ええ、ありがとう。」
彼女の前に走ってきたのは、親友のレイアだ。
リザの卒業式が終わるタイミングで、お祝いに駆けつけてきたのだ。
律儀な親友を見て、リザも笑みを漏らした。
「レイアも、騎士学校卒業おめでとう。これからは冒険者になるのよね?」
「もちろん!その為に勉強してきたんだから!」
レイアは冒険者のパラディンを目指しており、卒業後はすぐにライセンスを取得するつもりである。
リザと同じく、彼女もまた新たな道を歩み始めようとしていた。
リザは少し寂しそうに眉を垂らしたが、すぐに俯いたのでレイアからは見えない。
次に目線を合わせた時、少女たちは笑い合って指切りをした。
「絶対に立派なパラディンになりなさいよ、レイア。」
「うん!リザちゃんも…」
しかし、そこまで言って、レイアの言葉が途切れる。
「レイア?」
心配して声をかけたリザ。
次の瞬間、レイアは強いまなざしを彼女へ向けた。
「リザちゃん、私と一緒に冒険者になろう!」
「…え?」
突然の誘いに、リザは困惑した。
それにも構わず、レイアはリザの手を取ると、キラキラと目を輝かせて返事を待つ。
「冒険者になるつもりはないわ。魔法開発に専念したいから、研究所に入るつもりよ。」
「知ってる!」
「…もういくつかの研究グループに誘われてるから、今から挨拶に…」
「私も一緒に同行して、直談判するよ!リザちゃんを私に下さいって!」
困り顔のリザは丁重に断ろうとするが、レイアの眼から輝きが失われる気配はない。
むしろ、断ろうとするたびに強く光る。
なぜ彼女がそこまで自分に固執するのか、リザには分からなかった。
しかし、レイアの本気は伝わってくる。
そこで、リザは親友の意志を試すように、意地悪な口調で言った。
「そこまで私とパーティを組みたいなら、それなりの理由を聞かせて頂戴。」
質問を受けたレイアは、最初からこの展開を予期していたのか、待ってましたと言わんばかりに頷く。
「リザちゃんの夢は知ってるし、今までは素直に応援するつもりだったよ。だけど、今はどうしてもパーティに加わって欲しいと思ってるんだ!」
レイアの続ける言葉に、リザは集中する。
納得できるような理由でなければ、彼女はすぐに断るつもりだった。
そんな状況の中、レイアは自信満々で言った。
「その理由は…リザちゃんと一緒にダンジョンを攻略したいから!」
態度とは裏腹に拍子抜けするような理由だったため、リザは思わず白けた顔をした。
「全然納得しないんだけど。」
「え!?」
「今更言うんだから、なにか重要な役目でも任されるのかと思ったのに…」
リザの反応に、レイアは不服そうな顔を浮かべる。
しかし、まだ諦めるつもりはないのか、彼女は説得を再開した。
「私ね、仲間はどんな人が良いかなって考えたんだ。そしたら、最初に候補に挙がったのがリザちゃんだったの。」
「ちょっと、ホントにそんな理由なの…?」
親友の、短絡的とも表現できるほどのアクティブさに、リザは呆れる。
レイアは話を続ける。
「想像したんだ、色々…ダンジョンを進んだ先に広がる景色ってどんなものかなぁ、とか。きっとそれって、凄くステキで美しくて…そこまで思ってね、ふと気づいたの。ああ、私はリザちゃんと嬉しさを分け合いたいんだって。」
それを聞いた瞬間、リザは照れてしまった。
想像して、自分が最初に浮かんだ事実が嬉しかったのもあるが、なによりも理想のままに行動してくれたレイアの素直さに驚いたのだ。
少女は考えを改め始める。
(…冒険者、か。)
その表情の変化を敏感に察知したレイアは、緊張の面持ちで彼女の答えを待つ。
やがて、リザはやれやれといった様子で首を振ると、少しだけ口の端を持ち上げた。
「とりあえず、一回だけダンジョンに行ってみるわ。それで、いいかなって思ったら正式に冒険者になる。どう?」
「ほんと!!?うん、わかった!!」
望みが叶ったように大はしゃぎするレイア。
そんな彼女を見て、リザはくすくす笑った。
かくして、二人は名もなきパーティを結成したのである。
やがて待つロマンスの名前を、リザはまだ知らない。
研究室の内定を蹴る女