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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
試練の章
49/171

コミュ症とガキ

ITと現代

 『モンスターハーベスト』という冒険者パーティがある。


 攻撃力に全てのカスタムエレメントをつぎ込んだ、超高火力のパーティだ。


 メンバーは錬金術師・パルル、竜騎士・マゼンタ、そして魔導師・ヒガンの3ピースで構成されている。


 全員女といえば『スカーレット』というパーティも有名だが、こちらも実は女性のみである。




「はぁい、ドラちゃん。おやつ食べましょうねぇ。」


「マゼンタのドラゴン、相変わらず大きくて強そうだよ。この子に乗り始めたのっていつ頃だったっけ?」


「えっと、確かぁ…ゴンちゃんが死んじゃってからで、もう4年くらい前。その頃からねぇ。」




 ダンジョン内で、パルルとマゼンタは警戒心もなく会話をしている。


 そんな二人を阿保のような顔で見つめるはヒガン。


 彼女は特になにかを考えるでもなく、頭を空っぽにして目の前を眺めていた。




「そうだ、ヒガンちゃんはゴンちゃんのお墓によく行ってくれるのぉ。ありがとね、ヒガンちゃん!」


「うぇ?ううん、別に気にしないで…ひゅう。」




 マゼンタが話を振ると、ヒガンはよく分からない反応をした。


 ひゅう、という語尾の理由が分からないパルルは聞く。




「なに?ひゅうって。」


「べぇ、べっつにー?気にしないで。」


「ひゅう…今の語尾は変だよ。」




 彼女は軽くツッコんで、さらに深く追求する。


 変に険しい顔をして、尋問するような様子で問い詰める。




「んん、じゃあ説教的に使って自然にすればいいんじゃない。ひゅ。ひゃ。」


「説教的なんて言葉はないよ、積極的だよ。あとひゅじゃないよ。ひゃってなに?」




 端から端まで余さず全部ツッコミを入れて、ヒガンを困らせる。


 孤立が好きなコミュ症で、いつも適当に喋っている彼女としては、非常に鬱陶しい。


 煩わしそうにしかめ面で返した。




「パルルルは面倒くさい性か…」


「パルルだよ、ルが多いよ。その語尾気になるよ。」


「お前も無理やりだよ?」


「むっ…ひゅうの方が無理やりだよ。普通はそんな言葉使わないし…」




 意外な反撃を喰らい、少しテンポを崩されたパルルだったが、すかさず返して態勢を立て直す。


 不意打ちで倒せなかったので、さらに煩わしそうな顔を深め、ヒガンは口撃を繰り返す。




「つー、なん、てかー中途半端?ちゃんと、なにだよ?って言え。」


「嫌だよ、言わないよ。それより、ひゅうについて分かるように説明してよ。」


「ひゅーひゅーひゅーひゅーひゅー!うっさーい!」




 しかし、ブレないパルルの度重なるひゅう攻めによって、ヒガンはとうとう音を上げた。


 パルルはしたり顔でフフンと鼻を鳴らすと、振り返ったのちにマゼンタへすまし顔を見せた。




「パルルちゃんもヒガンちゃんも仲良しさんねぇ。うふふ。」


「やっぱりヒガンは面白いよ。」


「ほー、ストレス溜めんなら直接エルドラにやれな。」


「むむっ…」




 幼馴染のエルドラから貰った多大なストレスが、ヒガンに向いている事実。


 ヒガンはそれに気付いていて、パルルのことを本当に面倒くさいやつだと思っている。


 確信を突く批判を受けてしまい、パルルは眼を見開いてよろめいた。




「いや、ちょっ、待ってよ。ほーってなに?」


「ほー。」


「だからほーってなに!?」


「ほー。」


「聞いてる!?」




 血相を変え、咄嗟にマウントを取り返そうと頑張るパルルだが、ヒガンは「ほー」の連打を押し通す。


 まさに暖簾に腕押しで、態勢を動かさない彼女にパルルはなにも出来なかった。




「ぐぬぬ…」


「ほー。」


「ほーはもういいよっ!」


「ほ?」




 少女をからかうのが段々と楽しくなってきたヒガンは、変化形の「ほー」も使う。


 舌戦では絶対の自信があったため、パルルはかなりダメージを受けてしまった。


 苦しそうな表情を浮かべ、彼女は頭を抑える。




「まぁ…本当に仲良しさんねぇ、うふふ。」




 そんな様子を見ながら、マゼンタはただ微笑んだ。


 微笑みつつ、ドラゴンに魔物を退治させていた。


 二人の騒ぎ声(主にパルル)が大きすぎて大群が寄って来たのだが、ドラちゃんの炎一つで全軍お陀仏であった。


 超火力というのは、まさに文字通りなのである。




「ひゅうってなに???気になるよ???ひゅうってなに?????」


「ひゅほひゅほひゃー?」


「それひゅう?それひゅうじゃないよ?」


「い、はぁ…いい加減にしよ。もう飽きた。」


「ひゅうじゃないよ?ほら、ひゅうじゃないって。ふょうじゃ…あっ」


「今ふぉうって言っただろ。」


「はぁぁ、言ってないよ。はあぁぁぁ…言ってないよ!」


「ひゅうほーひょう。ふぉう!これ覚えとけ、これ新しいやつだから。」


「言ってないよって言ってるんだが?」


「だよキャラがー」




 ねちっこいパルルのしつこい追い打ちに、ヒガンは下らなそうな口ぶりで返す。


 思わず口癖も崩し、パルルはさらに不利な状況へ持ち込まれる。


 その間に彼女たちの元へと集まってくる魔物も存在するが、一定の場所からは近づけない。


 踏み込んだ瞬間にパルルの仕掛けた魔法陣が起動することを、魔力のうねりから察知しているからだ。




「あらぁ、魔物さんも二人と遊びたいのかしら?」


「キシャアッ…」「グジュ」「ギュルルルゥ!!」


「もぉう、ダメですよ。魔物さんは危ないんだから…」




 マゼンタは、魔物さんが二人にとって危ないという意味合いでそう言った。


 しかし、実際には近寄った魔物さんの身が危険である。


 マゼンタの近くにいても結局は危険である。




「そもそもヒガンはキャラが固まってないよ。フラフラだよ?」


「かー、え、固めるつもりないし。ないっす。」


「そんな喋り方でパルルのキャラがうんぬんとか、片腹痛しだよ。そもそもパルルはキャラでやってるわけじゃないんだよ?」


「にしては無理が…あるよな。にゃあ。」


「にゃあ?それ良いキャラだよ、失笑ものだよ。」


「だんだん性格が悪くなってきてるなお前。」


「パルルはパルルなんだよ。性格もパルルだよ。」


「にゃあ?性格パルルってなんだ。」


「性格もパルルっていうのは、パルルは非実在の人格じゃないってことを証明しようとして…だって、パルルはパルルのままで生きてきたんだよ…」


「…ありゃ、もしかして泣いてる?ごめんパルルル。」


「ル多いよ!もういいよ!もう…もういいよ、ぐすっ…ヒガンのバカ…天に召されてよ…」


「めっちゃ毒舌にゃあ。」




 吹っ掛けたくせに負けてしまったパルルは、泣きながらそう言うことで精一杯であった。 




(ちょっと過ぎたか…)



 ヒガンは反省して、マゼンタにパルルの様子を説明する。


 説明を受けた彼女は、「あらあら」とパルルに寄り添うと、そっと頭を撫でた。




「よしよし。よしよし…パルルちゃん、辛かったねぇ。」


「ヒガンが、ヒガンがぁ…!マゼンタ、あいつ倒してよぉ!えーんえーん…」


「うふふ、ヒガンちゃんもわざとじゃないの。だからね、パルルちゃん…私はヒガンちゃんのこと、許してあげて欲しいなぁ。二人には仲良くしてて欲しいなぁ。」


「うぅ………マゼンタがそう言うなら、そうするよ…」




 マゼンタにあやされるパルルを見て、ヒガンは思った。




(ガキか!)

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