最強決定戦
戦闘します。
炎魔法を得意とする魔導士・ニック。
彼の今日の予定は、パーティメンバーのライリーと遊ぶことだけだった。
だが、その途中でトラブルメーカー仲間のウェドに出会い、無理やりある場所へ連れて行かれた。
「見ろ、ニック。強そうな野郎どもが集まってやがるぜ…」
「おお!よし、俺が最強だ!!」
彼らが到着したのは、大規模大会「最強決定戦」の舞台だった。
会場には筋肉質の強そうな男が蔓延っていた。
見るからに肉体を殴り合う系バトルの祭典であった。
「飛び入りOKらしいぞ!」
「関係ねぇ!飛び入り参加だ!!」
「OKだっつてんだろ!」
目の前に広がる肉体カーテンを見て、ニックは非常に興奮した様子を見せる。
ウェドの話もほとんど聞かずに飛び込むと、司会らしき男が言った。
「出たーっ!恒例の飛び入り参加者だぁーっ!」
ニックが恒例を知らないとも知らず、盛り上がる会場。
「あの馬鹿…くくっ」
あの馬鹿…と言いつつも、楽しそうに笑うウェド。
こんな感じになることを期待して連れてきたら、本当に予想通りだったのでついニヤついたのだ。
ニックの戦闘前に、先にこの大会のルールを説明すると、以下の通りだ。
・一対一で殴り合う、外野の邪魔は禁止
・それ以外なにをやってもいいし、どうなってもいい
・一番強かったやつが優勝
「レディ・トゥ・ファイトー!!」
ということで、開戦が宣言された瞬間にゴングが鳴る(明確に言うと、『レディ・トゥ』の『ディ』くらいで鳴った)。
以下、戦闘描写はダイジェストだ。
ニックは機敏な動きで対面する筋肉の背後を取りそのまま首のちょっと下ぐらいを火を出して殴ったら筋肉はよろめいたが立て直して振り向いてパンチしたがニックはしゃがんでそれを避けてその後筋肉の重心が前方に傾いた隙に腰へ炎の一撃を入れた!
要するに、戦って倒した!
「試合終了ー!勝ったのは飛び入り参加ー!」
ニックに多大なる歓声が送られる。
しかし、彼はそんなものに興味はなかった。
依然、メラメラと闘志を燃やし、次の相手を待つ。
「一番強いやつ、さっさと出てこーーーい!!!!」
彼の雄叫びに呼応して、次の相手がぞろぞろと舞台上に上がってくる。
特にルールがないので、ぞろぞろ上がってきても問題はないが、一対一の原則は存在する。
一人ずつ相手をする時は、順番待ちの他の連中はとても邪魔だ。
「お前らいっぺん降りろーーー!!!」
ニックは再び叫んだが、血気盛んな順番待ち筋肉は断固降りない。
そこへ痺れを切らせたウェドがやって来る。
「いつになったら参加できる大会なんだ、おいっ!!」
「ウェド、お前もいっぺん降りろ!!」
「うるせぇ、もうやるっ!このまま大人しく待ってても意味ねぇ!」
ドンッ!という効果音が出そうな勢いで、ウェドはその辺の巨漢を殴った。
もちろん、巨漢の方も黙ってはいない。
さも当然の権利のように殴り返した。
殴り返す力押し返す力の応酬、ひっくり返す怒りと照りつける光、怯ませる凄みを滲ませる憎しみは入り乱れる喧噪の戦争中を電光のように疾走した。
要は、とても戦っている。
ウェドとニックは二人がかりで、雑魚を雑踏へ雑草のように放り投げた。
「飛び入り参加がめちゃくちゃに戦っているーー!これはなんという戦いなのでしょうかっ!!皆さん、見てください!!彼らから放たれるしかつめらしいオーラを!!」
司会はいつの間にか、ライブ感満載で荒ぶる二人だけを実況していた。
彼にはオーラが見えているようだが、それを観客にも見えているものと考えているらしかった。
実際、観客にも見えている。
「おらぁーーー!!」
「あちょーーーー!!!!」
バキッ、ドカッ、ベキッ
「んのーーーっ!!」
ここでサービスの一発!
ビリビリビリビリッ
「〇〇〇っ!!!」
言ってはいけないようなことまで叫びつつ、彼らはとにかく奮闘した。
どこまでやれば気が済むのかしれないが、いつ果てるとも分からぬ命を削った。
参加者は多く、飛び入りもやたらと現れるが、その悉くを打ち破って、舞台上にはついにニックとウェドだけが残った。
「ついに…ハァ、俺とウェドだけか…?」
「そう…ハァ、みてぇだな…」
息を切らしつつ、お互いの視線をバチバチと交差させる二人。
その視界には、両者以外の姿はまったく映っていなかった。
いわば今の二人は、なにもない白い空間で戦っているのと同じだった。
先程まで己のギアを上げ続けた、喧しい歓声も聞こえない。
胸を熱くさせる強者の怒号も、むせ返るような強烈な戦の温度も、心地よい風の匂いすらも遮断されている。
ニックは無意識のうちに笑みを浮かべ、自らの認めるライバルにのみ言った。
それはウェドも同じで、彼らの言葉は開口と共に邂逅した。
「「この世で一番強ぇのは――俺だァァァァァァァァ!!」」
To Be Continued.
応援ありがとうございました!次回作にご期待ください!