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日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
試練の章
46/171

平和

………

 中二病の魔導師・ライリーと、トラブルメーカーのアーチャー・エリン。


 そして、声の小さな治療術師・シェヴィ。


 彼女たちはなぜか、魔法学院図書館の前で一緒にいた。




「なんで私たち、一緒にいるのかなぁ?」


「歯車の鳴動か…いや、あるいは闇に誘われたか?」


「………」




 なんとなく、普通に過ごしていたら、いつの間にかこうなった。


 みな等しく初対面だったが、なんとなく仲良くなって、お互いの名前を知っていた。


 そして、なんとなく話していると、自然にこういう話題になった。




「そういえばさ!歯車の音って怖くない?」


「貴様にも歪なる軋みが観測できるのか。フン、合格だ。」


「………」




 エリンが話題を提供すると、それにライリーが応える。


 もちろんシェヴィも応えているが、その声は聞こえないのであった。


 ちなみに、導入部の話題はもう終わった。




「やったね、合格!…なにに合格したんだろ?」


「聖なる試練はもう開始されているのだ。」


「………」


「シェヴィ、今の言葉を再び唱えてくれ。」


「………」


「まさかサイレント・ノイズの使い手か!?…合格だっ!」


「シェヴィも合格したんだね!えへへー!」


「………」




 3人は暇なのである。


 エリンは友達のアリエルと図書館に行ったのだが、館内で騒ぎすぎたために彼女だけ追い出された。


 ライリーは一緒に遊んでいた友達のニックとはぐれ、彼が待ち合わせ場所に帰るのを待っていた。  


 シェヴィは相方のウェドに急用ができてしまい、今日のダンジョン攻略がなくなった。




 奇遇にも全員、図書館の前に立っていたのである。


 そして、なんとなく声を掛けたら、成り行きでこうなった。




 特に目的のある話をするでもなく、暇つぶし的な会話が続く。




「ライリーも合格しないと!」


「いや、我は原初の合格者なのだ。フッ。」




 二人はライリーへ不服そうな視線を送る。




「………」


「ちょっとズルーい!」


「原初なら仕方あるまい?夢幻の神々に選ばれた者の特権だ。」


「ムゲン…?なにそれ!」


「永遠と瞬間を往来する不死鳥の呼称だ…」




 『永遠と瞬間を往来する不死鳥』がなんなのか、シェヴィはとても気になった。


 なので、右手を自らの目の前に持ってきて、右往左往させてみる。




「シェヴィ、なにそれ!?よーし、私もやるよ!」




 エリンは彼女の不思議な行動を模倣する。


 しかし、それはオリジナルと少し違うものになっていた。


 エリンの腕の振りは大きく、やたらと素早い。


 シェヴィの好奇心までは模倣できないため、そうなったのであろう。




「ほら、ライリーも!1、2、1、2!」


「オリジナルにはそんな掛け声なかったではないか!完璧に模倣しろ、こうだ!」




 こんな下らない戯れに、なぜか真面目に取り組むライリー。


 彼女は最初のみ腕を大きく振って慣性を付けると、その後は夢心地のような表情で揺らす。


 シェヴィはそんな顔していなかったので、別に完璧ではなかった。




「おおー!凄ーい…の?」


「シェヴィは沈黙を固く守っているし、我々もそうすべきではないか。」


「確かにそうだね!」




 それでもなんとかオリジナルに近付こうと、二人は努力する。


 気付けば、彼女らは変顔をして黙って腕を振っていた。


 道行く人は、怪しい儀式を訝しむようにして通り過ぎて行った。




「………!………!」


「………フッ。」


「………」




 沈黙一つ取っても、各々の個性が出てしまう。


 そもそもの話、触れられざる他者を完璧に模倣することなど出来ない。


 それはともかく、3人は非常に楽しそうであった。




 とはいえ、エリンは既に、この遊びに飽きてしまっていた。


 彼女は動作を中断すると、腕をだらんと垂らして唸る。




「うー…疲れた。」


「なに?エリン…軟弱者だな。」


「なんじゃくなんじゃい!えへへ、もうやめ!」




 フリーダムなエリンの一声で、調子の上がってきたライリーは仕方なく腕を静止させた。


 二人が真似を始めたので、終わり時が分からなくなっていたシェヴィも、ようやく終われてホッとする。


 暇仲間の視線を集めつつ、エリンは良い汗かいた感じを出していた。




「ライリー語講座やろうよ!」


「なっ、急だな!」


「私とシェヴィが生徒ね!」


「………」


「我の言葉をマスターするには、それ相応の修練が必要だが?」


「え!じゃあやめよ。」


「おい、やめるな!開始だ!」


「………」




 シェヴィはワクワクした顔で、ライリー語講座を受けようとする。


 講師としても、そんな顔をされればやる気が出るというものだ。


 敬虔なるシェヴィに多めに目配せしつつ、ライリーは話し始めた。




「まず、第一のSTEP!!一人称は我!!」


「一人称ってなに?」


「私・俺・僕などの、自らを指し示して使用するワードだ。」


「ワードってなに?」


「単語だ!」


「そういえば、タンゴって踊りあるよね。そうだ!前に教えてもらったステップがあるんだけど…」


「待て!今は貴様のSTEPターンではない!」


「ターンできるよ!はいっ、ターン!」




 タンゴのステップと、軽やかなターンを披露し、エリンは再び良い汗かいた。




「………」




 望んでいた展開から外れてしまい、残念がるシェヴィ。


 二人の賑やかなセッションを眺めつつ、不死鳥について再び思考を巡らせた。


 巡らせたが、やはり彼女には実像が掴めなかった。




 「………」




 ふと、彼女は窓の外に目を向けた。


 学園の外の景色が、そこには広がっている。


 鮮やかな緑が波打つように風に揺れたとき、シェヴィは平和を謳歌しているような気分になった。

………

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